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50 マルコ
しおりを挟む「もう帰るの?」
「ごめんね、ベイビー。みんなが私を待っているんだ」
一夜限りのアバンチュールを楽しんだ私は、小柄な美青年にキスをして、彼の家を出た。
外を歩けば、熱い視線が痛くてたまらない。
自慢の長い金髪を掻き上げるだけで、周囲の人間は私の美貌に釘付けになるんだよね?
間違いなく、勝ち組の人生を歩んでいる。
そんな私の両親は、宿屋をいくつも経営している金持ちだ。
五人兄弟の末っ子で、愛嬌があるから、誰しもが私を可愛がる。
この世界は、私を中心に回っているのかもね?
「マルコ!! お前はまたどこをほっつき歩いていたんだ。仕事をしろっ!!」
久々に家に帰ると、急に親父から怒鳴られて、私は呆気に取られる。
だが、その声を無視をする私は自室に向かった。
私のお気に入りのノエルが、急に仕事を辞めることになったのだ。
私が遊び歩いている間に、親父が勝手に話を纏めていて、腹が立って喧嘩をしている。
「オイ、マルコ!! どこへ行くんだっ!! 働かないなら、今月の給金はないと思えっ!!」
唾を飛ばしながら怒鳴る親父のマックスは、金にがめつい。
まあ、そうじゃないと、何店舗も宿屋を経営することなんて出来ないと思う。
「ノエルがいないと働きたくない」
「なにを馬鹿なことを。ノエルに仕事を丸投げしていたくせにっ!!」
「は? 私がノエルを一番可愛がっていたのに! ノエルは契約を更新する予定だったのに、親父が仕事を押し付けたから辞めたんだろ? 人のせいにするなっ!」
「なにが可愛がっていただ。それなら恋人にでもなって、引き留めるべきだったんだろうがっ! こんの使えない馬鹿息子がっ!」
「黙れ、クソ親父! 私だってノエルを恋人にしたかったに決まってるだろ? あんなに素直で可愛いんだから。でも、ノエルに手を出したら、ユージーンに殺されるんだよっ!」
「…………それは、駄目だな」
頭を抱える親父は、ここ最近で随分と老けた。
ユージーンの母親──ヴァイオレット・ローズブレイドは、うちなんかとは比べ物にならないくらいの金持ちだ。
社交界でもかなりの影響力がある人物で、黒い噂もあるから、絶対に逆らってはいけない。
その息子のユージーンは、私の自慢の友人。
舞台俳優の彼を慕う人は多く、王都では知らない者はいない有名人だ。
微笑みの王子様と呼ばれている男だが、一緒にいれば目が笑っていないことくらいすぐにわかる。
特にノエルのことに関しては、沸点が低いんだよね。
キレた時に、親父のように怒鳴る奴は怖くない。
むしろ、なにを考えているか全くわからない顔で微笑まれる方が恐ろしい……。
でもユージーンは、私に男女問わず美人を紹介してくれるから、私にとってはいい奴なんだよね~。
プレイボーイだと思っていたユージーンが、実は自身の後援者の相手を私にさせていることを知らない私は、甘い汁を吸っているつもりでいた。
「マックス! テメェのところの従業員をなんとかしろよ!」
私たちの話に割り込んで来た、オレンジ髪の大男──イグニスが、店主である親父に怒鳴り声を上げる。
新人のくせに態度がデカイ男は、ノエルの代わりにやって来た従業員。
ノエルより安い契約金だったから受け入れたのに、まるで仕事が出来やしない。
だが親父は、コイツに逆らえない。
初日に楯突いたことで、自慢の髭を燃やされているらしい。
よくわからない長ったらしい呪文を唱えて、炎の球を投げつけられたらしいが、大袈裟だろ。
ノエルは呪文なんか使っていなかったし、イグニスは単なるカッコつけだ。
莫大な契約金を支払っているのだから、なんでも率先して仕事をするノエルを当たり前だと思っていた私は、なにも知らなかった。
魔法使いは、我こそが世界の中心だと思っている、プライドの高い野郎集団だったことを──。
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