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51 マルコ
しおりを挟む自分より二回りも歳下の男に、馬鹿みたいにぺこぺこと頭を下げる親父。
今までの店主の威厳は、見る影もない。
かっこ悪っ。
「はっ、はいっ、申し訳ありません!」
「チッ。凡人共が、魔法使い様を雑用だと勘違いしているようだな? 店ごと燃やしてやろうか?」
「ヒィッ! お、お許しを! す、すぐに対応致しますのでっ!!」
全力疾走する親父は、厨房に逃げ込んだ。
取り残された私は、切れ長の目をさらに細くしたイグニスに睨まれるが、睨み返してやる。
火魔法しか使えない下級の魔法使いなんか、水をぶっかけてやれば済む話だろ。
「人手が足りねぇなら、息子のテメェが率先して働くべきなんじゃねぇのか?」
「は? なんで私が? お前が働けよ」
「敬語を使えよ、凡人が」
人のことを凡人凡人と罵るイグニスに、私はついに堪忍袋の緒が切れた。
バケツに水を用意する私の背後で、ぺらぺらと低い声が聞こえる。
早く、早く……っ!
イグニスに振り返った瞬間──。
ニタリと笑っている奴の右手のひらの上に、巨大な炎の球を作り出されていた。
「っ、ぎゃああああ────ッ!!!!」
バケツを放り出して逃げ惑う私の背に、焼けるような熱を感じる。
気付いた時には、頭からチリチリと音がして、辺りが焦げ臭くなっていた。
厨房まで走る私を、皆が仰天した顔で見ている。
親父と料理長が大慌てで私の頭から水をぶっかけ、全身水浸しになっていた。
そんな私を追いかけて来た悪魔は、腰を抜かした私を指差して、腹を抱えて笑っていた。
「ひーっ、ひっひっひっ! お前、頭の上で鳥でも飼うつもりか?? 腹がイテェ~っ!!」
「っ、な、なに……? なにが起こったんだ……っ!?!?」
「マジで傑作だろっ! オイ、その頭で街を一周して来いよ! きっと人気者になれるぜ?」
死を覚悟した私は、奇跡的に生きていた。
そしてゲラゲラと笑うイグニスに言われて鏡を見れば、自慢の金髪が焼け焦げている。
頭に鳥の巣を置いているような髪になっており、どこからどう見ても、間抜けな負け犬の顔……。
気付けば私は、膝から崩れ落ちていた。
そしてこの事件は、地獄の日々の始まりに過ぎなかった。
話を聞きつけた兄弟が戻って来て、私と親父は顔がボコボコになるまで殴られた。
いずれ私が継ぐはずだった老舗は、当たり前のように優秀な長男に奪い取られた。
勘当されると思っていたのだが、私と親父はノエルに仕事を押し付けた罰として、下働きとして働くことを命令された。
もちろん、賃金は貰えない。
そんな私たちの監視役は、悪魔イグニスだ。
逃げ出そうものなら、尻に火をつけられる。
馬車馬のように働かされて、もう立っていられなくて座り込んでしまう。
「オイ、鳥の巣頭っ!! 早くしろ!!」
「っ……い、今、やってます!」
「ハイ以外の返事は求めてねぇんだよ、凡人がっ。何度言われたらわかるんだ? 鳥の巣頭を卒業したいのか?」
「~~っ!!」
火の球を見せつけられて、私は恐怖で漏らしてしまった。
そんな私を見下ろすイグニスは、「洗濯物が増えたな?」と笑っている。
「シーツの洗濯が終わったら、次は厨房の手伝いだ。急がないと、客から苦情が入るぞ? ちんたらするな!!」
「っ、はいぃぃぃ~!!」
毎日クタクタになるまで働いて、死んだように眠りにつく。
睡眠時間が短くなり、疲労が取れない。
兄弟からは、『今までの行いを反省して、ノエルに謝罪をしろ!』と言われ続けているが、私が仕事をサボっていたことと、ノエルは関係ないじゃないか……。
不貞腐れている私は、まだ気付いていなかった。
今、強制的にやらされている仕事は、いつもノエルがしてくれていた作業だったことを──。
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