尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん

文字の大きさ
58 / 137

57

しおりを挟む
 
 突如として現れた氷の壁に、二人が息を呑んだ。

 拳を握りしめるエドワードが怒りに震えていることに気が付き、ユージーン様に殴りかかるんじゃないかと慌てる僕は、二人の間に薄い氷の壁を作っていた。


 「少し冷静になって、エディー」


 お願い、と呟いた僕は、この場で誰よりも取り乱したい気持ちでいっぱいだった。

 契約金っていうのがいくらなのかはわからないけど、ユージーン様にはこれ以上ないほど良くしてもらっている。
 それに、誕生日プレゼントにエリクサーだってもらっているし……。
 ハッとした僕は、ポケットに手を突っ込む。
 いつも持ち歩いている宝物に触れると、ユージーン様の口許が柔らかな弧を描いた。

 ……ユージーン様は、きっとお金のために僕を利用したわけじゃない。

 そのことに気が付いて、僕は少しだけ冷静になることが出来た。
 もしエドワードの言ったように、僕を利用するつもりだったのなら、僕に契約を更新するように促したはずだ。
 この三ヶ月、ずっと僕のそばにいてくれたユージーン様は、僕を不幸にして喜ぶような人じゃない。
 きっとなにか理由があるのだと思う。
 その理由はわからないし、もしかしたら本当に騙されているのかもしれない。
 それでも僕は、ユージーン様を信じたい……。

 僕たちが無言で見つめ合っていたからか、エドワードから強い視線を感じた。
 不服そうな顔をしているエドワードに、僕はにこっと微笑んだ。
 
 
 「確かに仕事は大変だったけど……僕は、やりがいを感じていたよ?」


 こてりと首を傾げると、エドワードは狐につままれたような顔をしていた。


 「喫茶店では美味しい料理をマスターしたおかげで、エディーを喜ばせることが出来たんだ。大変だったけど、働けてよかったと思ってるよ」
 「っ……」
 「それに、王都の宿屋が大変なのは当たり前なんだ。だって、僕の実家の宿屋より何倍も大きなお店だったから……。でもそのおかげで、今後どこの宿屋に行っても即戦力になれると思う。氷魔法だって使えるようになったしね?」


 室内の温度が下がったからか、エドワードが落ち着いたように見えた僕は、そっと氷の壁を消した。


 「「っ……」」


 二人が再度、息を呑む。
 僕がなにも言わずに急に氷の壁を消したから、驚いたみたいだ。
 小さく笑みをこぼした僕は、手のひらの上に氷の結晶の山を作り上げる。


 「夏にはこの魔法を使って、冷たいデザートだって作れると思うんだ。実家の宿屋で新しいメニューを考案して、お店の看板メニューに出来そうじゃない? そう考えたら、仕事がどんなに大変だったとしても、僕が一生懸命働いた意味があると思う」
 「っ、ノエル……」


 そう言って笑いかけると、唇を噛み締めるエドワードは、ぼとぼとと大粒の涙を零し始めた。
 自分が情けない、と呟いたエドワードが、全身の力が抜けたかのようにその場で膝をつく。
 銀色の髪をよしよしと撫でる僕は、もらい泣きしそうになっていた。
 

 「どうしたの、エディー……。そんなに泣かないでよ……」
 「っ……悪いっ、でも、俺……ノエルが騙されてるって思ったら、暴走した……。幼い頃からずっとそばにいて……ノエルのことを、誰よりもわかっていたはずなのにな……」
 「……エディー」
 「俺が尊敬するノエルは、すごく前向きな性格だってこと、忘れてた」


 そう言って鼻をすすったエドワードは、少しだけスッキリしたような笑みを浮かべていた。
 涙でぐしゃぐしゃな顔になっているけど、すごくいい表情だ。
 そしてすっと立ち上がり、僕に背を向けた。


 「出直して来る」


 歩き出そうとするエドワードに、僕は慌てて待ったをかけていた。











しおりを挟む
感想 190

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

ネガティブなΩがスパダリαから逃げる

ミカン
BL
オメガバース

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

処理中です...