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しおりを挟む突如として現れた氷の壁に、二人が息を呑んだ。
拳を握りしめるエドワードが怒りに震えていることに気が付き、ユージーン様に殴りかかるんじゃないかと慌てる僕は、二人の間に薄い氷の壁を作っていた。
「少し冷静になって、エディー」
お願い、と呟いた僕は、この場で誰よりも取り乱したい気持ちでいっぱいだった。
契約金っていうのがいくらなのかはわからないけど、ユージーン様にはこれ以上ないほど良くしてもらっている。
それに、誕生日プレゼントにエリクサーだってもらっているし……。
ハッとした僕は、ポケットに手を突っ込む。
いつも持ち歩いている宝物に触れると、ユージーン様の口許が柔らかな弧を描いた。
……ユージーン様は、きっとお金のために僕を利用したわけじゃない。
そのことに気が付いて、僕は少しだけ冷静になることが出来た。
もしエドワードの言ったように、僕を利用するつもりだったのなら、僕に契約を更新するように促したはずだ。
この三ヶ月、ずっと僕のそばにいてくれたユージーン様は、僕を不幸にして喜ぶような人じゃない。
きっとなにか理由があるのだと思う。
その理由はわからないし、もしかしたら本当に騙されているのかもしれない。
それでも僕は、ユージーン様を信じたい……。
僕たちが無言で見つめ合っていたからか、エドワードから強い視線を感じた。
不服そうな顔をしているエドワードに、僕はにこっと微笑んだ。
「確かに仕事は大変だったけど……僕は、やりがいを感じていたよ?」
こてりと首を傾げると、エドワードは狐につままれたような顔をしていた。
「喫茶店では美味しい料理をマスターしたおかげで、エディーを喜ばせることが出来たんだ。大変だったけど、働けてよかったと思ってるよ」
「っ……」
「それに、王都の宿屋が大変なのは当たり前なんだ。だって、僕の実家の宿屋より何倍も大きなお店だったから……。でもそのおかげで、今後どこの宿屋に行っても即戦力になれると思う。氷魔法だって使えるようになったしね?」
室内の温度が下がったからか、エドワードが落ち着いたように見えた僕は、そっと氷の壁を消した。
「「っ……」」
二人が再度、息を呑む。
僕がなにも言わずに急に氷の壁を消したから、驚いたみたいだ。
小さく笑みをこぼした僕は、手のひらの上に氷の結晶の山を作り上げる。
「夏にはこの魔法を使って、冷たいデザートだって作れると思うんだ。実家の宿屋で新しいメニューを考案して、お店の看板メニューに出来そうじゃない? そう考えたら、仕事がどんなに大変だったとしても、僕が一生懸命働いた意味があると思う」
「っ、ノエル……」
そう言って笑いかけると、唇を噛み締めるエドワードは、ぼとぼとと大粒の涙を零し始めた。
自分が情けない、と呟いたエドワードが、全身の力が抜けたかのようにその場で膝をつく。
銀色の髪をよしよしと撫でる僕は、もらい泣きしそうになっていた。
「どうしたの、エディー……。そんなに泣かないでよ……」
「っ……悪いっ、でも、俺……ノエルが騙されてるって思ったら、暴走した……。幼い頃からずっとそばにいて……ノエルのことを、誰よりもわかっていたはずなのにな……」
「……エディー」
「俺が尊敬するノエルは、すごく前向きな性格だってこと、忘れてた」
そう言って鼻をすすったエドワードは、少しだけスッキリしたような笑みを浮かべていた。
涙でぐしゃぐしゃな顔になっているけど、すごくいい表情だ。
そしてすっと立ち上がり、僕に背を向けた。
「出直して来る」
歩き出そうとするエドワードに、僕は慌てて待ったをかけていた。
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