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しおりを挟む久々の再会の涙ではない。
情緒不安定なのか、泣き続けるエドワードに驚いたけど、僕は大きな背中をとんとんと優しく撫で続ける。
しばらくして落ち着いたのか、エドワードは僕の首筋に顔を埋めたまま、矢継ぎ早に話し始めた。
「今まで本当にごめんっ。俺、ノエルに甘えてばっかりで……。ノエルに感謝していたし、当たり前だと思ったことは一度もなかったんだっ。それなのに、俺は本当はなにもわかっていなかった……」
「っ、エディー?」
「俺がいなくて寂しかったよな……。気付いてあげられなくて、本当にごめん。誰よりもノエルのことを愛していたのに、俺はノエルと離れてから、ようやくノエルが辛い想いをしていたことに気付いたんだ。遅すぎると思うけど……」
「……えっと。とりあえず、座って話そう?」
ああ、と返事をしたエドワード。
でもソファーに腰掛けている僕の両手を握ったまま、その場で膝をついて離れない。
辺りを見れば、みんながいつのまにか退出していて、談話室には僕とエドワードとユージーン様の三人になっていた。
お世話になっているユージーン様に対して、エドワードは挨拶をするどころか、視線も合わせない。
その態度に、僕は困惑する表情を隠しきれなかった。
僕の困った顔を見つめるエドワードは、また泣き出しそうになっている。
「もうノエルに寂しい想いをさせないと誓う。後援者と肉体関係なんてない。給金も貰えるようになったし、これからは生活費だってちゃんと支払う。ノエルは家にいるだけでいい。もう不安になる必要はないんだ。だから、俺と一緒に帰ろう」
両手をぎゅっと握られて、青色の瞳に縋るように見つめられる。
──辛い仕事も、もうする必要はない。
そう力強く告げたエドワードは、ようやく僕の隣に座っているユージーン様に視線を向けた。
今まで黙っていたユージーン様は、鋭い視線のエドワードに、薄らと微笑を浮かべる。
ニセモノの笑みだ。
優雅に足を組んだユージーン様の余裕のある態度に、エドワードが軽く舌打ちをする。
劇団の先輩に対する態度ではなくて、僕は思わずエドワードの肩を掴んで、視線を僕に向けさせた。
「エディー、どうしちゃったの?! なんでユージーン様にそんな態度を……」
「ノエルは騙されていたんだよ」
「…………え?」
すっと立ち上がったエドワードは、額に青筋を立てていて、今までに見たことがないほど怒りをあらわにしていた。
「この男はな、ノエルが魔法を使えることを知っていて、宿屋と喫茶店の店主と契約を交わしたんだ。莫大な契約金のために、魔法を使えるノエルを売ったんだよっ!!」
エドワードが怒号を放つ。
大声に驚く僕は、今エドワードが話した言葉を理解することが出来なかった。
呆然とする僕を見下ろすエドワードは、悔しそうにくしゃりと顔を歪める。
「俺たちの町では、ほとんどの人間が生活魔法を使えた。でも世間では、魔法を使える人間はほとんどいないんだ。ノエルのように火や水に風、多くの種類の魔法を使える人間は、魔法使いの中でもさらに特別な存在なんだ」
「っ…………そう、だったんだ」
初めて知る情報が多すぎて、混乱する。
エドワードの話したことが真実なのかと、僕は隣に座るユージーン様に、恐る恐る視線を向けた。
ニセモノの笑みを浮かべているユージーン様は、なにも言わなかった……。
今の話が真実なら、ショックだ。
でも僕は、真っ直ぐに僕を見つめるエメラルドグリーンの瞳から、ユージーン様の気持ちを読み取ろうとしていた。
「俺の大切なノエルを利用しやがって──」
唸るように告げたエドワードの声を聞いた僕は、僕の大切な二人の間に、氷の壁を作り出していた。
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