尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん

文字の大きさ
70 / 137

69 アルバート

しおりを挟む

 レオンが、ノエルちゃんにきちんと謝罪して仲直りをした日の夜……。
 というより、ノエルちゃんはまったく怒っていなかったんだけどね?

 僕は、床に擦り付けていた額が赤くなっているレオンに、夕飯をご馳走してあげていた。
 他にお客さんはいるけど、好きな人に対してだけは気の利く僕は、個室を選んでいた。


 いつものレストランの、いつものステーキだったけど、『料理長、腕を上げたんじゃないのか?』なんて言ったレオンが、感動したように目尻に涙を浮かべている。


 今は僕しか見ていないんだから、普通に泣けばいいのにね?

 僕はレオンの後援者だけど、一人の友達として、レオンの芝居に乗ってあげることにした。
 いつもはちまちま食べるステーキにかぶりついた僕は、ニカッと笑う。


 「ん……あっ。ホントだ! レオンの言う通り、いつもより美味しいかも!」
 「ッ」
 「すみませーん。ステーキ、おかわり!」

 
 ステーキを食べ始めたばかりなのに、追加注文をした僕を、レオンが大口を開けて間抜けな顔をして見ている。
 『美味しすぎて泣けてくるね?』って嘘を吐く僕は、レオンと一緒にちょっとだけ泣いた。

 ……演技だよ、演技っ!

 失恋した好きな人を慰めるために、僕は分厚くて脂っこいステーキを、気合で二枚も食べていた。






 当分、ノエルちゃんが稽古場に遊びに来る予定を聞きつけて、二人のことが気になっていた僕は、毎日稽古場に顔を出していた。

 ノエルちゃんが劇団の稽古を見学に来るようになって、みんな浮き足立っている。
 『癒やしのマスコット』だなんて言ってるけど、実際何人かは、本気でノエルちゃんのことが好きなんだと思う。
 エドワードは気付いているのかわからないけど、ノエルちゃんから片時も離れないから、無自覚で牽制している。


 そんな中、休憩中にお喋りをしていた先輩たちが、今は大物の後援者がいるエドワードが、実は四年間、後援者がゼロだったことをぶっちゃけた。


 ご機嫌だったエドワードの顔が、見る見るうちに青褪めていく。
 なぜか不穏な空気になってノエルちゃんを見れば、大きな瞳をまん丸にさせていた。


 「あ、あれ……。もしかして、まずかったか?」
 「ノエルちゃん? 今は人気者だからな! 安心していいんだよ」
 「…………エディー、本当なの?」


 さっきまで騒がしかったのに、急に稽古場が静まり返る。
 エドワードがごくりと唾を飲んだ音が、やけに大きく響く。
 青白い顔で頷いたエドワードをじっと見ていたノエルちゃんは、怪訝な表情に変わった。


 「っ、ごめん。ノエルに、俺が魅力のない男だって知られるのが怖くて、嘘ついてた……」


 後悔するように告げたエドワードは、沙汰を待つ罪人のように項垂れる。
 口を滑らせた先輩たちは、あちこちに視線を彷徨わせていた。


 「ひとつだけ気になることがあるんだけど……。僕の誕生日プレゼントは、誰から譲ってもらったものだったの?」
 「…………へ?」
 「おい、エド。お前、臨時の仕事で稼いだ金で、ノエルちゃんへのプレゼントを買ったことも話してなかったのかよ……」


 たまらずレオンが助太刀すると、なにも知らなかった様子のノエルちゃんは、驚愕していた。
 

 「僕、てっきり、後援者の人のお古なのかと思ってた……」
 「っ、そんなわけないだろっ。ノエルには、俺が稼いだ金でプレゼントを渡したくて……」
 「…………そっか。僕、ずっと勘違いしてた。言ってくれたらよかったのに」
 「嘘ついてごめんな……。まさかノエルが勘違いしているとは思わなくて……」


 唇を噛み締めているノエルちゃんは、嘘つき男に幻滅するどころか、にっこりと微笑んでいた。

 恋人同士なのに、お互いに大切なことを話していなかった二人は、少しずつ答え合わせをしている。
 離れて過ごしたことで、二人の間でなにか変化が起こったみたいだ。












しおりを挟む
感想 190

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

ネガティブなΩがスパダリαから逃げる

ミカン
BL
オメガバース

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

氷の婚約者様に破談を申し出たら号泣された

楽矢
BL
目が覚めると、レースの牢獄のような天蓋付きベッドの上だった。 何も覚えていない出来損ない下級貴族ミラ。無能だクズだと冷酷な罵詈雑言を浴びせてくる氷の騎士セティアス。 記憶喪失から始まる、2人のファンタジー貴族ラブコメディ。 ---------- ※注) かっこいい攻はいません。 タイトル通りそのうち号泣しますのでご注意! 貴族描写は緩い目で雰囲気だけお読みいただけると幸いです。 ハッピーエンドです。 激重感情をこじらせた攻→受な関係がお好きな同志の方、どうぞよろしくお願いします! 全16話 完結済み/現在毎日更新予定 他サイトにも同作品を投稿しています。 様子を見ながらそのうち統合するかもしれません。 初めての一次創作でまだよく分かっておらず、何かおかしなことをしでかしていたら申し訳ないです!

処理中です...