尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん

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 言いたいことは言った。
 そして、これ以上言い訳を聞きたくない僕は、パチンと指を鳴らす。

 僕の姿は誰にも見えなくなり、会場内にどよめきが起こる。


 「っ……消えたっ!! 嘘でしょっ?! こんな高度な魔法まで使えるなんてっ」
 「レベルが違うわ、感動ね……」
 「……そうね、信じられないわ」
 「って、バカっ! 感動している場合じゃないわよ! このまま姫がいなくなったら大変なことになるわっ! 早く探し出してっ!!!!」


 僕はしばらくその場でつっ立っていたんだけど、ノエルちゃんはどこだ!? って、みんなが会場中を見回して探している。

 ここ一番で、僕の透明人間魔法は完成した……。
 きっとすごいことなのに、まったく喜べない。



 最後に──。
 僕は、呆然としているエドワードの顔を眺める。


 寂しい思いもしたけど、楽しい思い出の方がたくさんあったんだ。
 幼馴染みの関係の時から、僕を抱き枕して幸せそうに笑うエドワード。
 柔らかな笑みを向けてくれるエドワードのことを、僕は恋人じゃなくてもずっと大好きだった。
 
 長い時間を一緒にいたから、いろんな思い出が蘇って来るけど、僕はぎゅっと強く目を瞑る。
 僕が本気で怒った時は、家を出ていくと約束しているから、エドワードもきっとわかったと思う。


 でも本当は、僕がそばに居続けることは、お互いのために良くないと思ったから別れを告げるんだ。


 正しい道を歩んで欲しいと、心からエールを送る僕は、小さな頃から当たり前のように隣にいたエドワードに背を向けた──。



 そして、唯一、驚くこともなく、凛とした姿のままの恩人の元へ向かう。


 ユージーン様の大きな手にそっと触れると、ぴくりと小さく反応した。
 誰にも僕の姿は見えていないっていうのに、まるで僕が見えているかのように、エメラルドグリーンの瞳と視線が絡み合った。

 たくさん話したいと思っていたのに、僕からユージーン様にかける言葉が出てこない。

 だから僕は、ポケットから宝物を取り出した。
 僕は応援していると想いを込めて、お守りをユージーン様の手に握らせる。
 そして、じっと見えない僕を見下ろすユージーン様は、エリクサーを僕に返却した。


 「これは、ノエルが持っていて。私はお守りがなくても、全力を尽くすよ」


 そう囁いたユージーン様は、誰もが見惚れるような甘い表情を浮かべている。

 でも、本気の目をしていた。
 ここからは、僕の出番じゃないのだろう。
 エドワードとユージーン様の戦いなんだ。
 はいっ、と小さく返事をした僕は、宝物をポケットに仕舞った。


 どちらが主役になったとしても、僕は本気でぶつかり合う二人の舞台が観たい。
 きっと僕だけじゃなく、観に来た全ての人が、生涯忘れられないような舞台になると思うから……。








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