尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん

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 これまでユージーン様が、主役以外を演じた舞台は一度もない。
 そんな看板俳優が引退する舞台で、ユージーン様が主役じゃないだなんて、僕は寝耳に水だった。
 周りに人がいても構わずに、僕は困ったように顔を見合わせる先輩たちに、詳しい話を聞こうと必死だった。

 念願だったエドワードが主役を務める舞台は、もちろん見たい。
 でも、それがユージーン様の最後の舞台になるだなんて絶対に嫌だ。
 しかも、ユージーン様が悪役だなんて……。


 「私が話すよ」
 「っ……カーター様」


 泣きそうになっている僕の背に声をかけたのは、劇団を仕切っているカーター様だった。
 取り乱していた僕の頭をわしゃわしゃと撫でたカーター様に連れられて、僕は無言で別室へ向かった。

 人払いをした部屋のソファーに腰掛けたカーター様は、酷く落ち着いている。
 昔からユージーン様と仲が良かった人だから、僕は余計に混乱していた。
 ソファーに座りもせずに、怪訝な顔をする僕に苦笑いを浮かべたカーター様。
 話をしようと優しい声で促されて、僕は重い足を引き摺って、対面のソファーに腰掛けた。


 「私の力不足で、こんなことになってしまって、心から申し訳ないと思っている。特に、今まで引っ張ってくれたユージーンには……」
 「……力不足?」
 「ああ。ノエルくんは、ユージーンの母親のことは知っているのかな?」
 「はい」
 「そうか……。話せる相手が出来たんだな」


 そうかそうかと頷いたカーター様の声色は、すごく嬉しそうだったけど、なんとも言えない表情を浮かべていた。


 「私とユージーンの母親……ヴァイオレットは、昔からの友人なんだ。というより、彼女の亡くなった夫と友人だった。だからだろう。私の劇団の経営が苦しい時に、ずっと支えてくれていたんだ。ユージーンが引退したとしても、彼女は今後も私たちを支援してくれるだろう」


 そこまで話を聞いて、僕は全てを悟った。
 ユージーン様のお母様が、愛する息子の花道を台無しにしようとしていることに……。


 「最後の舞台では、もちろんユージーンを主役にするつもりだったよ。でも、彼の母親が異議を申し立ててね……」
 「圧力をかけられたんですね」
 「…………そうなるね。でも私は、引退するからと言って、ユージーンを切り捨てたわけじゃないよ? だから、みんなに託すことにしたんだ」


 そう言って口許を緩めたカーター様は、最善を尽くしたのだと思う。
 最後の舞台でユージーン様が主役の座を掴める可能性を、少しでも残したかったのだと思った。


 「誰が主役になるのかを、劇団の全員が判断する。ユージーンは孤高の存在だったが、カリスマ性がある。みんなの憧れだったことには違いない」
 「……そうですね」
 「あの子はどんな役でもこなすことができるが、今までは単にやらされているだけだった。でも今は、本気で舞台俳優の仕事と向き合っているんだ。ユージーンのあんな姿が見られるだなんて、思ってもいなかったよ……」


 しみじみと呟いたカーター様が、ユージーン様を大切に思っていることが、僕にも痛いくらいに伝わって来ていた。
 一人で稽古をするユージーン様の姿を思い出す僕は、いろんな感情が湧き上がってきて、胸が熱くなっていく……。


 「きっと、彼の初めて出来た大切な人に、最高の舞台を観てもらいたいんだろうね?」
 「…………っ、」


 夜空のような穏やかな色の瞳は、まっすぐに……僕を見つめていた。











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