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82 カーター
しおりを挟む皆の前では、長年尽くしてくれた恋人を養い、大切にしている理想の男性だったが、泣き言ばかり言うエドワードの姿を黙って見ていた劇団員たちは、戸惑いを隠しきれない。
『全部ノエルのため』
そうは言っているが、本当にノエル君のためなのだろうかと、皆は疑問に思っていた。
ノエル君のために、一刻も早く主役の座を確実なものにしようとしていたように見えたが、恋人をユージーンに取られたくなくて、悪意のある噂を無視していたのではないか。
今はそんな疑いの目を向けられていた。
「確かに、ライバルがユージーンさんなら警戒するけど……。でも、ノエルちゃんの行動を見ていたら、わかるよな?」
「ああ、いつも差し入れしてくれてたし……。全部、エドのためだろ?」
「冒険者で活動していたのも、蟻も殺せないノエルちゃんが、やりたくてやってたわけじゃないと思う……。エドを支えるため、だろ? むしろ、喫茶店や宿屋の仕事より辛かったんじゃないか……?」
「っ……」
皆から言われた言葉に、ぐずぐず言い続けていたエドワードが息を呑んだ。
信じられないような顔で固まるエドワードの隣に座ったレオンは、優しい声色で語りかける。
「ノエルちゃんの意思で、仕事を掛け持ちしていたんだから、本当に辞めたいと思ったら辞めてると思う……。でも、エドを支えるためにしていたことだろ?」
「…………っ」
「だから、冒険者として活動していたことを、自分に隠していただなんて、ノエルちゃんを責めるような考えをするのは良くないと、俺は思う。それに、一緒に暮らしていたなら、気付けるタイミングはいくらでもあったんじゃないのか?」
「っ、」
なにかを思い出したのか、エドワードが目を見開いた。
ぐしゃぐしゃの顔で泣き出すエドワードに、静かに近付いた仲間たちも声をかけた。
「俺たちも、ノエルちゃんをお母さんだなんて揶揄って悪かったと思ってる……」
「それは俺もごめん。まさか、エドまで言うとは思わなくて……」
謝罪の言葉を受けたエドワードだが、項垂れたままなにも言わなかった。
そんなエドワードに苦い顔をするレオンだが、励ますように乱れた銀髪に手を置いた。
「まだ諦めるなよ? もしかしたら奇跡が起こって、主役の王子様を見たノエルちゃんが、戻って来てくれるかもしれない。まあ、ますば、本気でユージーンさんをぶっ倒さないと無理だけどな?」
「…………無理だっ、勝てるわけないっ。あの人に、なにひとつ勝てるところがないことを、俺自身が一番よくわかってるっ」
泣き言が止まらないエドワードに近付いた私も、まだ諦めるなと肩を叩いた。
「可能性はある。今回の舞台の主役は、お前にピッタリの役だ。それくらいのハンデがあっていいだろう? な、ユージーン」
「もちろんです」
最初から後援者なしで、演技だけで勝負をしようと意気込んでいたユージーンが即答する。
皆には公平な判断を下してほしいが、ヴァイオレットが既に手を回しているため、ユージーンが圧倒的に不利なのは変わらない。
だが、彼は天賦の才がある。
大切なものを失ったエドワードの底力を見せてもらいたい。
きっといい勝負になるだろう。
今のエドワードを放置することはできず、レオンが引き取ることになった。
誰もいない家に帰って喪失感を味わうのは、舞台が終わってからだ。
本当にノエル君のことを想っているのならば、最後までやり遂げてほしいと願う。
そう思いながらエメラルドグリーンの瞳を見つめると、ユージーンはわかっているとばかりに肩を竦めていた。
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