尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん

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 差出人不明の手紙の中には、舞台のチケットが入っていた。


 『ノエルに会える日を楽しみにしている』


 たった一行、達筆な字で書かれていた。

 でも、差出人はすぐにわかった。


 「どんな顔で購入したんだろう……。ふふっ」


 猫の肉球が可愛い便箋を、お店で選んだ瞬間のユージーン様の顔を見たかったと思う僕は、しばらく一人でくすくすと笑っていた。





 そして、舞台公演予定日の三日前。
 レオンさんとアルバートくんが、僕に会いに来てくれた。

 ずっと傍にいてあげられなくてごめんね、と謝るアルバートくんは、目が真っ赤だった。
 エドワードの暴走に気付いていたレオンさんは、何度も忠告してくれていたみたい。
 でも、なにを言っても右から左でダメだったって、悔しそうに話してくれた。
 エドワードが変わるには、僕が離れた方がいいと思っていたみたいだ。
 僕も同じことを考えていたから、レオンさんには謝罪の言葉は必要ないと話した。

 母親呼ばわりされてプッツンとキレてしまったけど、僕がエドワードを応援している気持ちは、四年前から変わらない。
 自分の実力で、主役の座を勝ち取ってほしいと願っている。
 そうじゃないと、きっと後悔する日が来ると思うんだ。


 今回、ライバルであるユージーン様との勝負で、きっとエドワードは役者として成長出来ると思う。


 「エドは、ノエルちゃんがいなくても頑張ってるよ。むしろ、この四年間で今が一番頑張っていると思う……」
 「そうですか……。よかった」
 「でも、ユージーンさんは、全ての役を完璧にこなせているの……。エドは厳しい状況かもね」


 少しだけ言いづらそうに話してくれたアルバートくんに、僕はにっこりと微笑んだ。

 
 「主役は、エディーだと思います」


 僕の発言に驚くアルバートくんは、小さなお口をぽかんと開けている。
 話を聞いていなかったのかな? って顔だ。


 「演技力だけで言えば、ユージーン様の足元にも及ばないのかもしれない……。でも、エディーの主役の王子様になりたいって気持ちは、誰にも負けないと思う」
 「っ……ノエルちゃんっ」
 「ユージーン様は、望まなくても最初からずっと王子様でした。でもエディーは違う。四年間、コツコツと積み上げて来たものがある。ここぞという時に、力を発揮してくれると信じています」
 「っ、エドは、本当に愛されてるな……」


 そう涙声で呟いたレオンさんは、僕から視線を逸らした。

 僕は、エドワードを愛する気持ちが完全に無くなったわけじゃない……。
 でも、今も僕の胸に小さく残る感情は、恋とはまた違った気持ちのような気がする。


 「ノエルちゃんは、本当は……ユージーンさんが好きなんじゃないの?」


 恐る恐る尋ねた様子のアルバートくんに、僕はしばし考えたのだけど、きちんとした答えを返せなかった。
 
 でも、ユージーン様に惹かれていることは事実だと思う。
 なにせ、普段の僕がなにをしていても思い出すのは、ユージーン様と過ごした日々ばかり……。
 猫耳パジャマを愛用しているのも、着心地が良いからだけじゃないことを、僕は薄々気付いている。


 でも、一人になって充実した日々を送る僕は、まだ次の恋に進む気持ちにはなれないのが、今の正直な気持ち。

 エドワードとの恋は……、すごく疲れたんだ。


 だから当分は、自分が楽しいと思うことをして過ごそうと思っているんだ。
 そんな僕が今楽しみにしているのは、やっぱり二人が活躍する舞台。
 だから僕は、アルバートくんと一緒に差し入れのクッキーを焼くことにした。

 味は、いつもの甘さ控えめ。
 離れていても応援していると想いを込めて。

 そしてユージーン様には、僕も楽しみにしていると返事をするために、猫の肉球模様のお返しをした。







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