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しおりを挟む差出人不明の手紙の中には、舞台のチケットが入っていた。
『ノエルに会える日を楽しみにしている』
たった一行、達筆な字で書かれていた。
でも、差出人はすぐにわかった。
「どんな顔で購入したんだろう……。ふふっ」
猫の肉球が可愛い便箋を、お店で選んだ瞬間のユージーン様の顔を見たかったと思う僕は、しばらく一人でくすくすと笑っていた。
◆
そして、舞台公演予定日の三日前。
レオンさんとアルバートくんが、僕に会いに来てくれた。
ずっと傍にいてあげられなくてごめんね、と謝るアルバートくんは、目が真っ赤だった。
エドワードの暴走に気付いていたレオンさんは、何度も忠告してくれていたみたい。
でも、なにを言っても右から左でダメだったって、悔しそうに話してくれた。
エドワードが変わるには、僕が離れた方がいいと思っていたみたいだ。
僕も同じことを考えていたから、レオンさんには謝罪の言葉は必要ないと話した。
母親呼ばわりされてプッツンとキレてしまったけど、僕がエドワードを応援している気持ちは、四年前から変わらない。
自分の実力で、主役の座を勝ち取ってほしいと願っている。
そうじゃないと、きっと後悔する日が来ると思うんだ。
今回、ライバルであるユージーン様との勝負で、きっとエドワードは役者として成長出来ると思う。
「エドは、ノエルちゃんがいなくても頑張ってるよ。むしろ、この四年間で今が一番頑張っていると思う……」
「そうですか……。よかった」
「でも、ユージーンさんは、全ての役を完璧にこなせているの……。エドは厳しい状況かもね」
少しだけ言いづらそうに話してくれたアルバートくんに、僕はにっこりと微笑んだ。
「主役は、エディーだと思います」
僕の発言に驚くアルバートくんは、小さなお口をぽかんと開けている。
話を聞いていなかったのかな? って顔だ。
「演技力だけで言えば、ユージーン様の足元にも及ばないのかもしれない……。でも、エディーの主役の王子様になりたいって気持ちは、誰にも負けないと思う」
「っ……ノエルちゃんっ」
「ユージーン様は、望まなくても最初からずっと王子様でした。でもエディーは違う。四年間、コツコツと積み上げて来たものがある。ここぞという時に、力を発揮してくれると信じています」
「っ、エドは、本当に愛されてるな……」
そう涙声で呟いたレオンさんは、僕から視線を逸らした。
僕は、エドワードを愛する気持ちが完全に無くなったわけじゃない……。
でも、今も僕の胸に小さく残る感情は、恋とはまた違った気持ちのような気がする。
「ノエルちゃんは、本当は……ユージーンさんが好きなんじゃないの?」
恐る恐る尋ねた様子のアルバートくんに、僕はしばし考えたのだけど、きちんとした答えを返せなかった。
でも、ユージーン様に惹かれていることは事実だと思う。
なにせ、普段の僕がなにをしていても思い出すのは、ユージーン様と過ごした日々ばかり……。
猫耳パジャマを愛用しているのも、着心地が良いからだけじゃないことを、僕は薄々気付いている。
でも、一人になって充実した日々を送る僕は、まだ次の恋に進む気持ちにはなれないのが、今の正直な気持ち。
エドワードとの恋は……、すごく疲れたんだ。
だから当分は、自分が楽しいと思うことをして過ごそうと思っているんだ。
そんな僕が今楽しみにしているのは、やっぱり二人が活躍する舞台。
だから僕は、アルバートくんと一緒に差し入れのクッキーを焼くことにした。
味は、いつもの甘さ控えめ。
離れていても応援していると想いを込めて。
そしてユージーン様には、僕も楽しみにしていると返事をするために、猫の肉球模様のお返しをした。
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