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106 ユージーン
しおりを挟む「私は、間違っていたのだろうか……。どう思う? テオ……」
ノエルの真似をして、子猫に語りかける私は、何度目かもわからない溜息を吐き出していた。
友人たちと最初で最後の旅をして、早一年半が経過していた──。
俳優業を引退し、今度はのんびり喫茶店を始めようと、田舎の空き地をすべて買い上げたのだが、従業員不在により、まだ開店していない。
そんな私の毎日は、だだっ広い敷地で畑を耕し、野菜を育てている。
最初は悪戦苦闘していたし、虫も苦手だったが、ノエルのためならと努力した結果、私は立派な農家になったと自負している。
だが……。
「まったく美しくないよ……」
努力が足りないのかな、だなんて独り言を話す私は、泥を洗った野菜をキッチンに置いて、クリーム色の壁を飾る、差出人不明の葉書を眺めていた。
今まで送られて来た葉書には、いろんな地の綺麗な風景が描かれている。
私もその地に行った気分になって嬉しく思うのだが、ふとした瞬間に、私だけが取り残されているように感じていた……。
冒険者として各地で活躍しているノエルは、今や知らない者はいない有名人となっていた。
何種類も魔法を使用できるだけでなく、プライドの高い魔法使いの中でも、愛嬌のあるノエルに依頼が殺到しており、引っ張りだこだ。
ゆらゆらと揺れる座り心地の良い椅子に腰掛けて、膝の上にテオを抱き上げる。
ノエルにしか懐いていなかった子猫も、今は諦めたのか、私にも撫でさせてくれるようになっていた。
カラン、カラン、とベルの音が鳴り、ハッと顔を上げる。
入口に立っていたスキンヘッドの男を見て落胆する私は、やはり性格が悪いのだろう。
ノエルがいつ来てもいいように鍵はかけていないため、ズカズカと入ってきたバートの後ろには、フランツの姿も見えた。
「ユージーン様、そろそろ俺たちを雇う気になりませんか?」
「…………また来たのかい?」
「そんな嫌そうな顔しないでくださいよ。ああ、傷付いたぁ~」
身の回りのことは一人で出来るようになったというのに、私を心配してくれているのか、バートとフランツが頻繁に顔を出してくれる。
街の中心部からかなり離れた場所にあるというのに、わざわざ私の育てた野菜を買いに来るのだ。
自給自足生活だから金を使うことはないし、タダでいいと話したからか、現在物々交換をしていた。
「今月号です。俺はもう読みましたよ」
ニッと白い歯を見せて笑ったバートは、机の上に三冊ほど雑誌を置く。
彼らが持って来てくれる新聞や雑誌には、必ずノエルの姿が写っている。
受取拒否出来なくされる私は、有り難く受け取ることとなっていた。
一人になって熟読し、ノエルの特集記事だけを切り抜いて、大切に保管している。
……それでも、本物のノエルに会いたい。
私の想いは募りに募っているのだが、ノエルはきっと困っている人たちのために、元気に空を飛び回っていることだろう。
旅の最終日に流れ星を見に行ったのだが、少し天候が悪くて、ノエルが以前話していたようにビュンビュンは飛んでいなかった。
それでも流れ星を見ることはできたのだが、不満に思ったノエルが急に空を飛び出したんだ。
『流れ星になれましたか?』
って言いながら、縦横無尽に空を飛び回るノエルを思い出して、胸が締め付けられる。
あの時は、私のために流れ星になるノエルを見上げて、本当に幸せだと思っていたのにな……。
もしかしたら、最後にノエルにいいところを見せた男の元へ行ってしまったのかもしれない。
旅先で出逢った人と、恋に落ちている可能性だってある。
それでも私は、ノエルを待ち続ける。
広い世界を旅して、いろんな人と関わったノエルが、いつか私を選んでくれるその日まで──。
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