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107 ユージーン
しおりを挟むぼんやりとしながら畑に水を撒いていると、一台の馬車が走って来るのが見えた。
私がノエルのご両親に全てを打ち明けた時に、謝罪とばかりに、宿屋で使ってほしいと置いてきた馬車だ。
「ジーンっ!!」
「ニコ、また遊びに来てくれたのかい?」
うんっ、と元気に頷いたニコラスは、頻繁に両親と一緒に私に会いに来てくれている。
だが今日は、同い年の女の子を連れてきていた。
恥ずかしそうにニコラスの後ろに隠れる女の子──ステラは、ニコラスの恋人だそうだ。
内気で可愛らしい子の手を引いているニコラスは、まだ十三歳だというのに、私よりやり手な男だった。
「今日は流星群が見れる日だから、ジーンも一緒に見に行かない?」
「私はデートの邪魔じゃないのかい?」
「全然っ! だってジーンは、僕のお義兄さんになるんだもんっ」
決定事項のように話すニコラスに、私は小さく笑みをこぼした。
いくら田舎とはいえ、夜中に子供を二人きりにさせることはできないと思い、私もノエルが育った町の小さな丘に向かうことにした。
一年半ぶりに来た丘は、緑が生い茂っている。
あの時のようにテントを用意していた私は、三人で夜空を見上げる。
私が軽食を用意している間に、ニコラスとステラが肩をくっつけて寄り添い、頬にキスをしていた。
微笑ましい光景を目撃し、私もノエルと過ごした最後の日を思い出していた。
◆
雪も降り始めているため、慎重に足を進める私は、なにか悩んでいる様子のノエルの手を取った。
「暗くて足元がよく見えないから、気をつけて」
「っ……はいっ。でも、僕は雪に慣れているので大丈夫ですよ? ユージーン様こそ、転ばないように気をつけてくださいねっ」
ああ、と返事をした私は、モコモコとした手袋をつける小さな手をしっかりと握った。
ほんのりと頬を赤らめているノエルが足を滑らせて、咄嗟に抱き留める。
慣れていると言いながら、私よりふらついているノエルは、真っ赤な顔で私から離れた。
互いに想いを伝え合ってはいないのだが、恋人同士とはこんな感じなんだろうかと、ふわふわとした気持ちになっている。
ノエルに触れたい。
そう思っているのに、恥ずかしがるノエルを見ていると、私の方までその気持ちが伝染する。
それでも私は、いちいち可愛い反応をするノエルから目を離せない。
だから、ノエルが悩んでいることも知っている。
同じ魔法使いたちから、冒険者を続けないかと誘われていることを……。
今までは、たまに顔を出すくらいだった大型魔獣の討伐に、本格的に参加してほしいとお願いされていた。
押しに弱いノエルが返事を渋ったのは、私のためだと思いたい。
そんなことを考えながら頂上に着いた私は、用意していたテントを張る。
なにもしなくていいと言っているのに、木材を運んだノエルは火をつけてくれていた。
呼吸をするように魔法を使うノエルを見て、妖精のようだと常に思う。
二人でテントに入り、ノエルの気に入った土産の菓子を出す。
輝く桃色の瞳は、ずっと欲していたお菓子ではなく私に向けられていた。
「まだ少し寒い? 風邪を引いたらいけないから、私がノエルを暖めてもいいかな?」
「っ……」
ぼふっと顔から火が出そうなくらいに真っ赤になったノエルが、小さく頷く。
可愛すぎて押し倒したくなるのだが、今は大切な話をしなければならない。
ノエルの顔を見てしまえば、私の心は揺らいでしまうため、背後からそっと抱き寄せた。
「ノエルを雇いたかったんだけど、私の店はまだ完成していないんだ」
「そうなんですか?」
「ああ。だからノエルは、広い世界を見に行っておいで」
「っ……」
小さく体を反応させたノエルが、ゆっくりと振り返る。
大きな瞳を揺らすノエルが、なんで、どうして、って顔で私を見上げている。
手袋を外してすべすべの肌に触れた私は、愛おしい人の顔を引き寄せた。
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