尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん

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108 ユージーン

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 「従業員を一名募集する予定だから、その時は会いに来てくれたら……嬉しい」


 息がかかるくらいの距離で見つめ合う。
 唇に口付けたい気持ちを堪えて、私は柔らかな頬に口付けを落とした。

 頬に口付けただけでも、幸せすぎて死にかけていたのたが……。
 真っ赤になったノエルの顔を見て、私の思考は停止していた。
 小さな口をはくはくとさせたと思ったら、ノエルは突き出していた顎を、慌てて引いていた。

 ……私の可愛い人は、唇に口付けて欲しかったらしい。

 理性が焼き切れそうな私は、すぐさまノエルの顎を掬う。


 「採用条件は、使にしておくよ」
 「っ……そ、それって、僕しかっ、」


 我慢出来ずに唇を奪ってしまい、ノエルは目を見開く。
 離れようとしたのだが、ノエルの手が私の腕にしがみついたことに気付く。
 私は、自分でも呆れるくらいに、何度も柔らかな唇を啄んでいた。


 「んぅ……ユージーン、さまっ……」
 

 甘えた声にぞくりとしてしまった私は、伏せていた目を開いて潤む桃色の瞳を凝視する。
 じっくりと見られたことが恥ずかしかったのか、ノエルが私の胸元に顔を隠した。

 小さな体は、高熱が出ているんじゃないかと心配になるほど熱かったのだが、「寒いですっ」と声が聞こえた私は、愛おしい人をあたため続けていた。







 「心配して迎えに来たのに……。なに一人でにまにましてるんですか」


 ガシガシと銀髪を掻いたエドワードが、私の隣に腰を下ろした。
 高価な服を来ているが、過去に見たものと同じ。
 舞台俳優の仕事がうまくいっていないことは、一目見ただけでわかった。


 実は、この地に来てから彼と会うのは六度目だ。
 まさか、ノエルより頻繁に会うことになるとは思いもしなかった。


 私の引退した舞台を最後に、エドワードは主役の座からは遠ざかっている。
 失恋したこともあるが、あの女がイカれてしまったことも影響している。
 だが、あの女が社交の場から姿を消しても、エドワードを応援してくれる人はいる。
 なんだかんだ頑張っている男は、またしても私に愚痴を聞いて欲しくて会いに来たらしい。


 「また振られたのか?」
 「っ、聞いてくださいよ! 俺が稽古に行ってる間に、金を持ち逃げされたんですよ! ノエルに言われて、食費の財布を分けていたからよかったものの……」
 「ふふっ、やはり三ヶ月もたなかったな? だから言っただろう。見かけに騙されるな」
 

 ブスッとした顔で私を睨むエドワードは、次の恋に進んではいるものの、ノエルのような儚げな子ばかりを選ぶ。
 守ってあげたいと思うらしいが、そういう容姿の良い相手は、大抵が守られることを当たり前だと思っている人間ばかりだ。
 恋人に甘えたいと願う者同士では、うまくいくはずがない。

 私なりにアドバイスをしているのだが、聞く耳を持たないエドワードは、次も健気そうな子を選ぶのだろう。


 「一日中ゴロゴロして掃除もしない。ノエルなら、仕事も家事も両立してたのに……」
 「まさか本人に言っていないよな? 昔の恋人と比べられたら、離れていくに決まっているだろう」
 「~~っ、だって!!」
 「昔のエドワードも同じような生活を送っていただろう。家事ができないなら、やり方を教えてやれ。ノエルがしてくれたようにな?」


 ノエルの名前を出せば、すぐに納得したように頷くエドワード。
 甘ったれな性格は変わっていない。


 ノエルの前で見せた最後の姿が、エドワードにとって最高にいい男だった瞬間だろう。


 私はそんなエドワードを、今は世話が焼ける弟のように可愛がっている。
 頭を撫でてやろうとすると、青色の瞳に真っ直ぐに見つめられた。


 「ここに来る前、王都でノエルに会いましたよ」









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