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その後
116 エドワード
しおりを挟むノエルと別れて一年半が経ち、お節介なアルバートに紹介された人と恋人になって二ヶ月──。
「このっ、顔だけ男っ!!」
ばちんと頬を叩かれた俺は、今回も三ヶ月もたずに恋人と破局していた。
ノエルを忘れたと思っていたが、俺は完全に忘れることが出来ていなかったらしい。
なにをするにも、無意識のうちにノエルと比べてしまっていたようだ。
健気で、俺に寄り添ってくれるノエルは、俺の理想の恋人だったんだろう。
でも本当は、ノエルにたくさん我慢をさせていたのだから、俺の幻想だったのかもしれない……。
去っていく人を追いかける気がない俺は「顔はやめろよ……」と、最後の言葉を呟いた。
またお兄さんに慰めてもらうかと、俺は実家に帰省する。
先日、ファンだと名乗る人から、甘さ控えめのクッキーが送られて来たんだ。
ノエルが戻って来たことを教えてくれているらしい。
普通に手紙を書けよと言いたいが、これがユージーンさんのやり方だ。
一年半で、すっかり対応の仕方に慣れている。
長期休暇を取り、喫茶『Noel』に行けば、王都の人気店並の行列が出来ていた。
……小さな店をやるって言ってなかったか?
と思う俺だが、あの二人は嫌でも人の目を集めてしまうタイプだから、致し方ないだろう。
元気に接客している桃色の猫を発見し、俺は自然と笑顔になる。
好きって気持ちはまだあるが、それは恋人ではなく、家族のような感覚……。
胸が締め付けられるような、苦しい気持ちになることはなかった。
「アンタも来てたのね」
「ああ。久しぶり」
フンとそっぽを向くマリンの菫色の大きな瞳は、ちらちらと俺を見ていた。
実は、最後の依頼の日……。
俺の勇姿を見て号泣していたマリンとは、『恋人になってあげてもいいレベルよっ!』と、褒められるくらいには仲良くなっている。
他の魔法使いたちも全員集合しており、以前と違って皆から歓迎される俺は、同じテーブルを囲む。
今もノエルに片想い中のオレンジ髪の大男は、デザートプレートを五つも頼んでいた。
「こんなに食べれるんですか?」
「……姫が、俺を」
デレっとした顔でノエルを見つめるイグニス。
デザートの皿には、チョコレートのソースで「大好きっ!」と書かれていた。
……無自覚ノエルの被害者の肩を叩く俺は、友達としてだぞ? と、こっそり教えてあげた。
そして人前では微笑みを絶やさなかった人が、今は無表情でナポリタンを調理している姿にツボる。
二人は恋人になったのだろうが、大変そうだなと笑ってしまった。
「ねぇ、あの人……。エドワードじゃない?」
「っ、本当だ。姫の元恋人だろ?」
喫茶店に来ていた客が、俺をチラ見してコソコソと話している。
俺が二人の邪魔をするとでも思ったのか、視線は好意的ではない。
別に気にしていなかったのだが、俺の隣に座っていたイケメンが、急に風魔法を放つ。
内緒話をしていた人たちの髪の毛がボサボサになり、目が点になっていた。
「あー、ごめんごめん。力を抑えられなくて」
にっこりと笑ったサイモンだが、ワインレッドの髪を逆立てている。
魔法使いを怒らせたと戦々恐々とする客たちが、口を引き結ぶ。
「エドもデザートにする~?」と、軽い口調で俺に話しかけたサイモンは、風魔法で他の客の声を遠くに吹っ飛ばした。
俺のために怒ってくれたみたいだ。
舞台俳優にいそうな顔立ちのイケメンは、その後も俺のことを守ってくれていた。
自分より背の高い人はお断りだと思っていた俺だが、三ヶ月後──。
俺は、この人の隣で守られることになる。
守ってあげたくなる容姿の人が好みだと思っていた俺は、ノエルが好きだっただけで、別に身長なんて関係なかったらしい。
『俺は雪を降らせることは出来ないけど、エドの敵はもれなく全員、突風で吹っ飛ばしてやるから』
サイモンの告白に胸を打たれた俺は、ようやく本当に次の恋に進むことになった。
喜怒哀楽がハッキリしているサイモンとの相性は抜群で、喧嘩もするが、すぐに仲直りをして、その日の夜は……とにかく激しくて甘い。
『浮気をしたら竜巻を起こして、エド以外を排除するよ~?』と笑顔で脅される俺は、今日も稽古後は寄り道をせずに、二人の愛の巣に帰宅している。
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