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その後
115 エドワード
しおりを挟むノエルのことに関しては、俺も悪かったと思っている。
俺がしっかりしていれば、ノエルを悲しませることも、ユージーンさんが動くこともなかった。
ノエルとやり直したいと願った時に、ノエルを幸せに出来ないなら、奪いに行くと宣言されていたのだから、当然の結果だ。
ずっとユージーンさんに負けたと思っていたけど、冷静に考えたら勝ち負けじゃなかった。
ノエルは変わろうとする俺を、もう一度愛してくれていた……。
その想いを繋ぎ止めることが出来なかっただけ。
俺が未熟者だったんだ。
一人になって考える時間が増えて、いろいろとわかるようになってきた俺は、昔よりもずっと成長出来た気がする。
俺が立ち止まっていては、せっかく自由になったのに、ユージーンさんはいつまでも俺に贖罪し続けるだろう。
そう思った俺は、前に進むことに決めた。
ノエルが残してくれたレシピ本を自慢しに、ユージーンさんの小さな家を訪れていた俺は、元看板俳優の作るめちゃ旨料理を平らげる。
「腹が立つくらい……旨い。ノエルの次に」
「ふふっ、普通に美味しいと言えないのか?」
「まあ、俺にはノエルの特別レシピ本があるんで、すぐに俺の方が料理上手になりますよ」
フッと鼻で笑ったユージーンさんは、パラパラとレシピ本の丸文字を読んで、口許を綻ばせている。
黙っていたら、絵画のように綺麗な人だ。
劇団に戻って来て欲しいと言ってしまいたくなるが、俺は後援者の息子と付き合いを始めたことを話した。
「まだ好きだった人を完全に忘れたわけじゃないけど、それでもいいって言ってくれる人がいて」
「……そうか」
静かに頷いたユージーンさんは、空になった食器を手にしてキッチンに向かう。
てっきり喜んでくれると思っていた俺は、ユージーンさんの素っ気ない態度に拍子抜けしていた。
「もっとなにかあるだろう。どんな人なんだ、とか……」
別に褒めて欲しいわけでもないのだが、一人で不貞腐れている俺は、ぶつぶつと文句を垂れる。
だが、飯を食わせてもらったのに、なにもしていないことに気付いて、慌てて立ち上がった。
食器洗いだけでも手伝おうと追いかけたのだが、シンクの前で佇むユージーンさんが、目頭を押さえているところを見てしまった。
……泣きそうなくらいに喜んでいたのかよ。
そっと席に戻った俺は、なんだかわからないけど、あの人を放っておくことが出来ない。
兄貴がいたらこんな感じなのかなと想像していると、暫くして、しれっとした顔で戻って来たユージーンさんが席に着いた。
穏やかな気持ちになるような、果物の香りがする食後の紅茶を淹れてくれる。
俺の疲れが取れるようにと、いつもノエルが淹れてくれていたものと同じだった。
ユージーンさんなりに、俺を労ってくれているらしい。
かつて目の敵にしていた人の淹れてくれたあたたかな紅茶は、胸がほっこりとする味だった。
言葉にすることはないが、ユージーンさんの優しさが身に染みている俺は、笑みをこぼした。
「今日、泊まっていいですか」
「……ベッドはひとつしかないんだが」
「別に二人で寝たらいいでしょう」
「…………誘っているのか? 悪いが、私は」
「俺、恋人ができたばっかりなんですけど? しかも、ライバルがノエルとか本気で嫌ですから。勝てっこない。ユージーンさんより強敵でしょ」
くつくつと喉を鳴らしたユージーンさんと冗談を言い合って、気付けば朝まで楽しんでいた。
前回もそうだったが、実は気が合うんだよな。
当たり前のように朝食も用意してくれたユージーンさんを、俺は舞台俳優としてだけではなく、人として尊敬している。
感動していたのだが、出来立ての朝食を見た俺は、ノエルのレシピを一瞬見ただけで完全再現し、涼しい顔をしている男を睨むことになった。
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