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その後
114 エドワード
しおりを挟むノエルを見送ってから半年後──。
俺は誰もいない家に帰宅して、ノエルとの思い出に浸って過ごしていた。
壁には俺が忘れないようにと、丸っこい文字で書かれた重要事項が貼られている。
ずっと、ノエルがいなくなってから家事を覚えても意味がないと思っていたけど、いつまでもうじうじしていられない。
またしても家をゴミ屋敷にしてしまった俺を見たら、ノエルはきっと悲しむと思う。
だから少しずつ家事を覚えた俺は、今ではノエルがいなくても一人で生活出来るようになっていた。
俺は、追い込まれないと出来ないタイプの人間だったらしい。
ノエルが使っていたお揃いのマグカップや歯ブラシを今でも残しているのは、本当は戻ってきて欲しいと思っているからだろう。
でも、風の噂で殲滅姫が大型魔獣を瞬殺したと聞いた時に、俺はノエルがユージーンさんと恋仲になっていないことを知った。
最後に俺が、かっこよすぎる姿を見せてしまったからか?
なんてちょっと喜んでしまったことは、誰にも言っていない。
◆
休日にてきとうに花束を買った俺は、乗合馬車で病院に向かう。
壁一面真っ白な病室では、ひとりの中年女性が寝台で横になっている。
艶々の黒髪は色が抜けて真っ白となり、二十代でもおかしくはないと思っていた美しい顔も、今は年相応女性に変わっていた。
「あら、また来てくれたのね? えーっと」
「エドですよ。ヴァイオレット様」
「そうそう。そうだったわ? ユージーンのおともだちよね?」
目尻を下げてうふふと笑ったヴァイオレット様は、精神病棟に入院している。
実は、いつまでも身代わりになれないことに逆上したテイトと、揉み合いになった。
軽い打撲だったから命に別状はなかったものの、また同じ悲劇が起こらないように、俺が邸を離れることをすすめた。
ユージーンさんに執着していた彼女は、金で集めた子供たちに同じように執着されている。
因果応報というやつだろう。
その件に関しては、同情はしていない。
ただ、社交の場から姿を消した途端、彼女を見捨てた友人たちには腹が立っている。
俺は月に一度だけ見舞いに通っているが、他に彼女の様子を見に来る者は誰もいなかった。
金の切れ目が縁の切れ目。
哀れな人だと思う。
それでも俺がここに足を運ぶ理由は、ヴァイオレット様が後援者でなくなっても、俺を応援してくれる人たちが残ってくれているからだ。
その中の一人に、ユージーンさんが売りに出した豪邸を買い取った人がいる。
エレーヌ様だ。
そのお方が、昔住んでいた邸を俺に安値で売ってくれたんだ。
誰かさんが陰で動いたことは、今の俺なら容易に想像出来た。
身一つで来ていいと言われて引っ越しを決めた俺は、ノエルとの思い出の品を少しだけ持っていく。
そこで、俺が愛用していた家具も全部、ノエルが購入してくれたものだと気付いた。
……本当に今更だよな?
舞台俳優の仕事も続けているが、俺はユージーンさんとの最後の舞台で燃え尽きてしまっていた。
あの人が俺の尻を叩いてくれていたから、俺は最後までやり遂げることが出来たんだ。
ノエルのことは今でも大好きなんだが、実は……ユージーンさんのことが恋しいと思っている。
もちろん、恋愛感情じゃない。
自分より背が高い人はごめんだ。
そんなわけで、実家に帰省する頻度が増える。
両親に顔を見せるように言われているからもあるが、ユージーンさんに会うためだ。
彼にはついでだと話しているけど、ぶっちゃけ美しい人の顔を見に行っているようなものだった。
だって、意欲がない俺を、後援者や劇団の人たちがずっと支え続けてくれていることや、金欠になってもファンだと名乗る人から、頻繁に新鮮な野菜が送られて来ること……。
本人は知らぬ存ぜぬだが、全部ユージーンさんが動いていることはわかっているんだ。
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