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その後
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しおりを挟む開放的なテラス席では、『Noel』のおもてなしデザートに目を輝かせている人々で賑わっていた。
その数おおよそ、三百名。
のんびり喫茶のはずだったのに、有難いことにオープン初日から大盛況。
急遽、店先にテーブルセットを用意することになったんだ。
ひとつ、またひとつと席を増やしていくうちに、広大な土地が店舗のようになっていた。
なんだか大勢でピクニックをしているみたいだ。
結局、バートさんとフランツさんだけでなく、ラッセルさんやマシュー先生までお手伝いをしてくれている。
一度は本当の家族の元へ戻った人たちも、もれなく全員ユージーン様に再雇用されていた。
もう居場所がなくなっていたみたいで、居心地が悪かったみたいだ。
みんなが悲しみを乗り越えられるように、僕とユージーン様は、働いてくれる人たちも楽しめるようなお店作りに励んでいる。
そんな僕たちは、現在お客様に見守られて、せっせと調理をしていた。
「はああああ~。素敵だわぁ♡」
「美のコラボレーションね?」
「目の保養だわッ!!」
軽食はユージーン様が担当して、僕がデザート担当だ。
最初は店内で作っていたんだけど、どうしてもユージーン様に会いたいって希望が殺到したんだ。
だから少し時間がかかっても、お客様はイケメンシェフでお腹いっぱいになっている。
僕も負けじとデザートプレートを完成させて、お客様の目の前で氷魔法を使う。
「猫とふれあえるお店って最高ね!! 桃色の猫が可愛すぎるわっ♡」
「しかも氷魔法のサービスだなんて、いくら払ってもいいわ!? わざわざ来た甲斐があったわね」
「俺は猫が苦手だったけど。まさか、看板猫が殲滅姫だったとは思いもしなかったな……」
「実物はあんなに可愛いのか……。妖精だな」
間近で魔法を見た人たちが、ほうっと感嘆の声を上げる。
今までは魔獣を殺すために使っていた魔法が、来てくれたお客様の笑顔に繋がっている。
なんて素晴らしいんだっ!
感動している僕は、にっこりと満面の笑みを浮かべていた。
そんな僕に静かに近寄ったユージーン様は、僕の頭から猫耳を奪い取る。
無表情で去っていたユージーン様が黙々と調理を始めて、僕の目は点になっていた。
「あらやだッ。あのユージーンが嫉妬してるわっ!?」
「激レアな瞬間ねッ!!」
「怒っている顔もステキ……♡」
すみませんと慌てて謝罪する僕だけど、なぜかお客様は大興奮していた。
お会計を済ませたお客様に、お土産の猫の肉球模様のクッキーを渡す僕は、街の中心部までの送迎馬車へお見送りする。
最後までおもてなし精神を忘れない徹底っぷりだ。
「また来るよ」と声をかけてもらい、なぜかテオではなく、僕が看板猫だと勘違いされていて、頭をなでなでされていた。
その日の晩──。
オープンしてから一週間も経たないうちに、ユージーン様は「ふれあい喫茶をやめる」と宣言した。
説得しようとしたのだけど、僕も同感だ。
さすがにユージーン様にふれようとする強者はいないのだけど、もしなでなでされていたら嫌だもの……。
そこまで考えて、僕はハッとした。
腕組みをして、明日の仕込みを放棄しているユージーン様の横顔を、うっとりと眺める。
「そっか。嫉妬、してたんだ……っ。ふふっ、可愛いっ」
「……なにか言った?」
すっと目を細くしたユージーン様は、指先でクイッと僕の顎を掬う。
ドキドキしているのに、僕は口許が緩むのが止められない。
「僕のご主人様は、ユージーン様だけですよ?」
そう言ってにまにましていた僕は、ぐっと眉間に皺を寄せたユージーン様に、噛み付くように口付けられていた。
甘くてゆったりとしたキスにようやく慣れ始めていたばかりの僕は、早々に腰が砕けている。
「っ、はぁ……」
「毛繕いもしようか?」
ちろりと舌舐めずりをしたユージーン様が、口の端を持ち上げる。
久々に見た意地悪な顔にゾクッとしてしまった僕は、半泣きでユージーン様から逃げ回ることになった。
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