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その後
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しおりを挟む元人気看板俳優が経営予定の喫茶店に、この度新たな従業員が増えた。
宣伝をせずともお客さんが押し寄せるはずのお店は、困った新人のせいで、まだ開店していなかった──。
「もう一回……」
「ふふっ、ノエルの可愛い唇が腫れてしまうよ?」
そう言って笑ったユージーン様は、僕の口の端に優しく口付けてくれる。
むうっと口を尖らせた僕は、キスをする時に色っぽい表情に変わるユージーン様に、メロメロになっていた。
その顔が見たくて、何度もキスをして欲しいとおねだりしている僕は、あれだけ甘えることが苦手だったのに、ユージーン様の前では我儘な子になってしまう。
「ノエル? このままじゃ、いつまで経ってもお店を始められないよ?」
長い足の上に跨って動かない僕を、困ったように見つめるユージーン様。
でも、僕の腰に腕を回してしっかりと支えてくれているから、本当は全然困っていないことに、僕は気付いているんだ。
「おねがい、テオ……。んっ」
僕が必殺技を繰り出すと、すっと目を細くしたユージーン様は、すぐに口付けてくれた。
田舎町でもユージーン様の噂は広まっていて、名前を変えたいと思っているのに、今もみんなからユージーンと呼ばれている。
だから、テオと呼べるのは、恋人である僕だけの特権なんだ。
「っ、はぁ、困ったな。ノエルを喜ばせるために、猫とふれあえる斬新な喫茶店を始めようと思ったのに……。もう、お店は開けなくてもいいか」
「それはだめっ。僕はユージーン様と働きたいです。でも……今日はおやすみがいいなぁ……」
「ふふっ、昨日もそう言っていなかったかい?」
呆れるくらいにキスをしまくる僕たちは、他の人から見たら、完全なるバカップルだと思う。
ここ一年半で、僕は魔法使いを束ねるリーダーになっていた。
稀代の天才魔法使いだと、世間ではもっぱらの噂になっている。
ユージーン様には負けるけど、僕だって握手やハグを求められるんだ。
それなのに、この世に敵なしと噂の殲滅姫は、大好きなユージーン様を前にすると、途端に甘えん坊になってしまっていた。
ずーっと、あたたかな腕の中にいたい……。
ユージーン様の胸元に頬を寄せて、ゴロゴロと甘えている僕を見下ろすエメラルドグリーンの瞳は、揶揄いの色を滲ませていた。
「ノエルには、給仕を担当してもらうつもりだったけど……。今のノエルは、看板猫の方が似合っているね?」
よしよしと頭を撫でられる僕は、ご主人様が大好きな猫になったみたいだ。
急に恥ずかしくなった僕は、「にゃあ」って猫語で返答する。
すると、すっと笑顔が消えたユージーン様は、真剣な表情で思案し始めた。
「可愛すぎて、店には出せないな……。やはり、バートとフランツを雇うことに決めたよ」
「ええっ!? 僕は、二人きりがいい……っ。今からお仕事頑張りますっ。だから、僕以外は雇わないで欲しい、です……」
優しい店主に我儘を言う僕は、本当に困った従業員だと思う。
現にユージーン様は、思いっきり、はあーっと長い息を吐いている。
ごめんなさいっ、と慌てて謝る僕は、ユージーン様の膝の上から飛び降りた。
急いでパステルグリーンのエプロンをつけていると、僕を背後から包み込んだユージーン様に、結んだばかりの紐をそっと解かれる。
「ノエルの可愛い我儘は大歓迎だよ。ただ、私にとっては我儘だとは思わないけどね?」
ドキドキする僕は、無意識に呼吸を止めていた。
「ノエルの気持ちは、なんとなく察することが出来るけど……。ノエルの口から聞きたい。もっと我儘を言って欲しい。どんなことでも叶えるよ」
「~~っ」
すごく嬉しいことを言われているのに、耳に吹き込むように告げられて、ぷるぷると震えてしまう。
ユージーン様の顔が見れなくなる僕は、真面目に開店準備を始めることになった。
そんな僕にちょっかいを出してくる人のせいで、僕はオープン前から、戦力外通告をされてしまいそうなくらい使い物にならなくなっていた。
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