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しおりを挟む一緒に活動していたみんなの応援する声を聞きながら、僕は全速力で実家に飛んでいた。
途中で僕を発見した人の「流れ星だ!」って声が聞こえた気がしたけど、手を振る余裕なんてない。
まさか、僕を待っている間にお店を営業していないだなんて夢にも思わなかった。
一人でも営業できるくらいの小さなお店だって話していたから、てっきりテオと共に、お客さんをおもてなししているとばかり思っていた。
のんびりと快適な隠居生活ですね! だなんて、ユージーン様と笑って話していた僕は、心底間抜けな男だった……。
この一年半。
ユージーン様がどんな想いで過ごしていたのかを想像しただけで、胸が張り裂けそうだ。
実家の宿屋の扉を蹴破る勢いで突入した僕を、食事をしていたお客さんたちがぽかんと口を開けて見ている。
そんなことはお構いなしに中に入ると、緋色の瞳を見開く父さんが、声を張り上げる。
「ノエルっ!」
「ユージーン様のお店はどこっ!? まだ営業していないって本当!?」
「ああ、今も誰かさんを待っているぞ?」
「っ、」
大慌てで帰ってきた僕を出迎えてくれた両親に、ユージーン様のお店の場所を確認した僕は、またしてもお礼を告げずに飛び立つ。
「がんばれ、ノエルお兄ちゃーんっ!!!!」
大きく手を振るニコラスの姿を視界の端で確認した僕は、半泣きでユージーン様の元に向かう。
だだっ広い土地に、ぽつんと小さなお店を発見して、すぐにユージーン様のお店だとわかった。
お店の裏には畑も見える。
僕がふざけて、畑を耕して欲しいと言ったことを覚えてくれていたのか、本気で美しすぎる農家になっていたみたいだ……。
嗚呼、ダメだ。
涙が込み上げてくるっ。
静かに店の前に降り立った僕は、ドキドキと高鳴る胸を押さえる。
ふうっと深呼吸をして、扉を開けた。
カラン、カラン、とベルの心地よい音が鳴る。
椅子に腰掛け、どこか寂しげに膝の上の子猫を撫でていた人が、僕を見つけて切れ長の目を見開いた。
ユージーン様の膝の上から飛び降りたテオが、僕に向かって駆け寄る。
立ち尽くす僕の足に、テオがすりすりと頬を寄せている。
なんて言おうか考えていなかった僕は、泣きそうになっているユージーン様の顔を見ただけで、うまく呼吸が出来なくなっていた。
すっと立ち上がったユージーン様が僕に近付き、現実なのかを確かめるように、僕の頬に触れる。
震えている手に頬を寄せた僕は、大好きな人の広い背に腕を回して、ぎゅうっと抱きついた。
「ユージーンさまっ」
「っ、ノエル……」
「ずっと、会いたかった、ですっ」
涙が止まらなくなった僕を、力強く抱き締めてくれたユージーン様は「私もだよ」と、すごく優しい声で囁いた。
ユージーン様の顔が見たいのに、嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちでぐちゃぐちゃになっている僕は、胸元から顔を上げることが出来ない。
ぐりぐりと甘えていると、ユージーン様が僕の顔を上げさせる。
熱のこもるエメラルドグリーンの瞳に見下ろされて、僕は震える唇を動かした。
「っ……め、面接にっ」
「合格」
「ッ」
即答したユージーン様が、僕の口を塞ぐ。
びっくりしてされるがままになる僕だけど、もう離れないとばかりに、ユージーン様にしがみついていた。
薄い唇から、はあっと色っぽい声が漏れて、僕の腰が砕ける。
完全に蕩けた顔をしてしまっている僕を、ユージーン様がしっかりと抱き留めてくれていた。
「我慢出来なくてごめんね……」と謝ったユージーン様に、僕はふるふると首を横に振る。
「ノエル……。愛してるよ」
想いのこもった低く魅力的な声に、全身に鳥肌が立った。
ぶるっと震えてしまったことが恥ずかしくて仕方がないのだけど、僕は熱を帯びた瞳を見上げる。
「っ、ぼくも……」
至極幸せそうに笑ったユージーン様が、胸がいっぱいになっている僕を、軽々と抱き上げる。
念願だった膝の上に乗せてもらう僕は、大好きな人に抱きついて、ごろごろと甘え続けていた。
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