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しおりを挟む──魔法列車の旅から一年半後。
立ち寄った街で葉書を買った僕は、いつものようにユージーン様に手紙を書いていた。
世界各国を旅しているから、一方的に送りつけているだけになっているんだけど。
それに名前も書いていないから、誰から送られて来たものかはわからない。
でも、きっと僕だって気付いて、にこにこしながら読んでくれていると思う。
「姫、そろそろ次の依頼に向かいましょう」
「うん。お待たせっ」
待ってくれていたイグニスさんたちに駆け寄り、依頼内容を確認する僕は、現在冒険者として活動を続けていた。
僕がかつて働いていた宿屋や喫茶店のちょっぴり意地悪な人たちを成敗してくれ、ユージーン様の舞台の警護だけでなく、ヴァイオレット様の件でも陰で動いてくれていたんだ。
そのことを知った僕は、みんなに恩返し中だ。
ユージーン様はというと、田舎でのんびりと喫茶店を経営している。
最初は僕も誘われたんだけど、魔法使いの人たちからもお誘いを受けていて、すごく迷っていた。
だってイグニスさんたちは、僕のためでもあるけど、ユージーン様のために動いてくれていたんだ。
その恩返しがしたいと思った僕は、ユージーン様のことが大好きなんだと気付いた。
でも、ユージーン様からは、恋人になろうって言われなかったんだ。
ただ、従業員を一名募集しているとだけ言われたけど。
氷魔法を使える人限定だって言ってたってことは……恋人になって欲しいって意味だったのかな?
自分の都合の良いように考えている僕は、ユージーン様とキスをした時のことを、毎日のように思い出して、火魔法が格段に得意になっていた。
きっと僕を想って送り出してくれたんだと思うけど、僕は強引に誘って欲しかった……。
でも旅に出てみて、魔獣を討伐するだけじゃなくて、困っている人を助けてお礼を言われる度に、冒険者として活動してよかったと心から思う。
しかも。
ギルド長に会いに王都へ行った時に、偶然エドワードを見かけたんだ。
僕に気付いていなかったけど、エドワードの隣には、新しい恋人がいた。
エドワードの隣で微笑む女性が、赤子を抱っこしている姿を見て、僕は……すごく嬉しかったんだ。
もし、ユージーン様だったなら、僕はきっとショックで倒れていたと思う。
そう思った時に、やっぱり僕はユージーン様が大好きなんだと再確認することになった。
「この国で目標達成だね~」
地図を広げたサイモンさんに、僕は元気よく頷いた。
実は、依頼を受けながら、ユージーン様が経営する喫茶店の宣伝活動もしているんだ。
どんなお店かはわからないから、オーナーが世界一かっこよくて、看板猫が可愛いとだけ触れ回っている。
「俺たちも、ノエルちゃんが働く喫茶店に遊びに行きたいっ! いやもう、毎日通っちゃうっ!」
「ふふっ、ありがとうございます! それなら、飛行魔法を覚えた方が便利ですよ? 僕もまだ行ったことがないんですけど、かなり辺鄙な場所にあるみたいです」
楽しくお喋りをしながら大型魔獣の目撃情報があった場所に向かっていると、今まで黙っていたイグニスさんが、おずおずと口を開いた。
「ずっと思ってたんですけど……。まだ営業していないんじゃないですか?」
「…………え?」
「だって、俺たちがこれだけ触れ回っているのに、なんの噂も耳に入って来ていません。それに、ユージーンさんは舞台俳優を引退した今も、有名人です。そんな人が喫茶店を経営しているとわかれば、どんな辺鄙な場所でも客が殺到するはず……」
「っ、」
真っ青になった僕は、目の前に現れた大型魔獣を瞬間冷凍させて、みんなにお別れも告げずに飛び立っていた。
「ノエルちゃーん!! 頑張れよおー!!」
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