バケモノ大公の第五夫人

ぽんちゃん

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第四章

36 夜会

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 あっという間に半月が経ち、待ちに待った大規模な夜会が開催される日を迎えた。

 静かな馬車の中で、はやる気持ちを抑える。
 正面から、痛いくらいの視線が突き刺さっているけれど、僕は窓の外の景色を眺めているふりをした。

(……初めて会った日よりも、気まずい空気かも)

 あれから、レオルカ様との関係はぎこちないまま。
 隣に座ることはもちろん、目を合わせて話すことも減っていた。

 重苦しい空気の中、会場に到着する。
 馬車を降りなければと前を向くと、レオルカ様と目が合った。


「セティ。今夜は、絶対に私から離れないと約束してほしい」

「…………」


 空色の爽やかな衣装を身にまとうレオルカ様に、真剣な眼差しを向けられる。
 ロイド様を探すつもりでいる僕は、返事をせずに微笑むだけにしておいた。
 すると、レオルカ様は小さく息を吐く。


「今回の夜会は、も招待されているんだ」

「……えっ!? それって……」


 今ここで、わざわざこの話をするということは、レオルカ様の言う他国の王族とは、ゾネ王国の王族を指しているのではないだろうか――。

 そう思った瞬間にパッと頭に浮かんだのは、母様のことだった。

(まさか、まだ小さなフロレンティーナを置いて、わざわざ僕に会いにきてくれた……?)

 てっきり、母様は僕のことなんて忘れていると思っていた。
 一年前に捨てられたけど、実はずっと僕の身を案じてくれていたのかもしれない。
 自分の都合のいいように考えてひとり舞い上がっていると、レオルカ様が静かに口を開く。


「インネサイト国の夜会は、仮面の着用が許可されている。だから、容易に不審者が紛れ込むことができるんだ。私も警戒するが、セティも気を付けてくれ」

「……わかりました」


 やけに深刻そうに告げるレオルカ様に、僕はおずおずと頷いた。

(それなら、夜会の時だけでも、仮面の使用を禁止したらいいのでは……?)

 僕が不思議に思っていると、レオルカ様は右手に持つ銀の仮面を握り締めた。


「私たちに話しかけてくる猛者はいないと思うが、用心してくれ」


 そう告げたレオルカ様は、仮面で目元を覆った。
 レオルカ様は大公位。
 だからレオルカ様に直接話しかけられるのは、王族くらいだろう。
 もしくは、礼儀のなっていない者か。

(もし、ロイド様が僕を見つけたとしても、話しかけてくることはないかもしれない……)

 文を仕舞っている胸ポケットに、そっと触れる。
 言葉を交わせずとも、文だけでも渡せたら……と、淡い期待を抱きつつ、レオルカ様にエスコートされて会場に向かった。



 広々としたホールには、すでに招待された貴族たちで溢れていた。
 仮面をつけている者たちも、ちらほら伺える。
 煌びやかなシャンデリアが眩しくて、まるで別世界に来たみたいだ。


「来たわ! ローズブレイド大公よ!」


 僕たちの登場に、ざわめきが起こる。
 出席者たちが移動し、僕たちの前に道ができた。
 逃げるように会場の隅まで向かった可憐な令嬢たちを横目に、僕は華やかな世界に足を踏み入れた――。



 それからすぐに王族が入場した。
 緊張で手と足が同時に出てしまいそうになったけれど、レオルカ様のおかげで、無事に王族にも挨拶することができた。

(といっても、僕はレオルカ様の隣でにこにこしていただけなんだけど……)

 初めて挨拶した国王陛下は、ふくよかでとても穏やかそうな方だった。
 まだ幼い王子や王女も、全員思わず触りたくなるようなぽっこりお腹の持ち主で、お世辞にも見目麗しいとは言えないけれど、「気分は悪くないか」「辛ければいつでも王城に遊びに来ていいからね」と、優しく声をかけてくれた。
 ゾネ王国の王族とは比べ物にならないくらい、器の大きな方々だったように思う。


「あの方が、例の――」


 王族に挨拶するという一大イベントを終え、少し緊張が解けた頃。
 ひそひそと話し声が聞こえてきた。


「ねえ、見た? 手袋をしていなかったわよ?」

「よくあんな近くにいられるわね」

「きっと強制されているんだろう」

「…………お可哀想にねぇ」
 

 藍色の衣装と高価な金色の装飾品――レオルカ様の色――を身につける僕は、周囲から見ればレオルカ様の寵愛を受けているように見えるだろう。

 それなのに、周りの人たちの反応は違った。

 僕に同情しているような、憐れむような視線をひしひしと感じ取る。


 ――敵意を向けられるとばかり思っていたのに、この違和感はなんだろう……。


 居心地の悪さを感じながら、僕はひとまずロイド様を探すことにした。
 でも、レオルカ様が言葉を交わした相手は、過剰な気遣いを見せる者が多く、そのほとんどが仮面を着用していた。

(この中にロイド様がいてもわからないや……)

 ロイド様探しを諦めかけた時、ひとりの男性が僕たちの方に一直線に向かってくる。
 背が高く、青い髪の美しい男性だ。


「お久しぶりですね、ローズブレイド大公閣下」


 レオルカ様に挨拶をした若い男性は所作が美しく、高位貴族だとすぐにわかった。
 ただ、目元を覆う仮面をつけていてもわかるほどの好戦的な眼差しだ。
 緊張から、ピンと背筋が伸びる。
 そんな僕を見た男性は、小さく笑った。


「私はエーリヒ・ゼウスと申します。あなたがセティ様ですね?」

「は、はいっ」


 ――エーリヒ・ゼウス。
 ゼウス侯爵家の当主だった。

 第一印象は、怖い人。
 けれど、僕に向ける視線はとても柔らかい。


「ずっとお会いしたいと思っていたのですが、なかなか機会に恵まれず――」


 ようやく会えたと、ゼウス侯爵は口元を綻ばせた。


















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