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9 偶然の再会
しおりを挟む赤や黄色に色づき始めた木々の葉が、孤児院の庭先に舞い落ちる。
空はどこまでも澄み渡り、陽射しは柔らかく、子どもたちの笑い声が秋空へ高く溶けていった。
慈善活動で、私はロミオとともに孤児院を訪れていた。
ここは、リヴィエール公爵家が長く寄付をしている孤児院で、ジークレイン兄様もよく足を運んでいる。
だから私にとっても、馴染み深い場所だった。
そこへ、ロミオも自然に馴染んでいった。
「ロミオさまっ! 高い高いして!」
「あたしもっ!」
「ぼくはかけっこがしたいっ! ロミオさま、早くーっ!」
「わかったわかった。みんなのやりたいことを、順番にやっていこう」
寂しい幼少期を過ごした彼は、この活動に人一倍熱心だ。
子どもたちと一緒に駆け回り、笑い合い、手を差し伸べる姿は、まさしく「みんなのヒーロー」そのものだった。
「ふふっ、ロミオは人気者ね」
どこへ行っても、ロミオは子どもたちに囲まれてしまう。
その光景に、思わず口元が緩む。
けれど同時に、胸の奥がじんわりと温かくなるのを、どうしても抑えられなかった。
やがて、孤児院の先生が手を叩いて声を上げた。
「さあ、みなさん! 手を洗ってきて。甘いパンが届きましたよ!」
「「「わあー!!」」」
歓声をあげて走っていく子どもたち。
その先に――私は、思いもよらぬ人物を見つけて、息を呑んだ。
「こんなところで会えるなんてっ!! ルキナ様ッ! お久しぶりですっ!」
「…………ブリトニー」
そこに立っていたのは、桃色の瞳を輝かせた少女だった。
七年前、まだやせ細っていた彼女は、今はふっくらとした頬に健康を映し、可憐さを増していた。
無邪気に微笑み、私のもとへ駆けてくる姿は、あまりに眩しくて、思わず目を細める。
――けれど同時に、心臓が嫌な音を立てた。
(……ロミオの顔、見られないわ)
ロミオにとって、ブリトニーは初恋の人。
きっと、久しぶりに再会した彼女を愛おしそうに見つめているに違いない。
そう想像しただけで、胸が張り裂けそうだった。
「こんな形でまたお会いできるなんて……っ! ルキナ様に手紙を出したくても、リヴィエール公爵家の方々の迷惑になるからやめろって、兄がうるさくて……。だから、ルキナ様たちと過ごした日々を夢に見て、今日まで生きてきたんですっ。お会いできて、本当に嬉しいですっ!」
ブリトニーは両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、涙ぐみそうな勢いで言葉を紡いだ。
その隣で、彼女はロミオにもにっこりと挨拶を向ける。
ロミオは――柔らかく微笑んでいた。
ただの礼儀正しい笑顔のはずなのに、私にはわかってしまった。
ほんの一瞬、彼の瞳の奥に、懐かしさと切なさがよぎったことを……。
胸の奥がきゅうっと痛んだ。
(ブリトニーはこんなにいい子なのに……。私は、なんて嫌な人間なんだろう)
再会を喜び、まっすぐに思いを伝えるブリトニー。
その純粋さが、私の心を容赦なく照らし出す。
私は心の底で、彼女の輝きに嫉妬している。
――自分の醜さを呪った。
それでも胸の痛みを押し殺して、私は微笑んだ。
「……ブリトニー、元気そうで本当に良かったわ」
ブリトニーはぱあっと顔を明るくして、さらに私の手を取った。
「はいっ! ジークレイン様にいただいたドレス、まだ大事に持っているんですよ。宝物なんです!」
懐かしい話を嬉々として続けるブリトニー。
その横顔を、ロミオが静かに見つめていた。
――その眼差しは、私が知っている彼のものとは、少し違っていた。
穏やかで、柔らかく、懐かしさに彩られた優しい微笑み。
初恋の人を前にした瞬間にだけ、思わずこぼれ落ちてしまうような表情。
私は気づいてしまった。
ロミオが今、何を想っているのか――。
ロミオは私を大切に思ってくれている。
それは確かに伝わってくる。
だけど、今ここで再び芽生えかけた「昔の想い」までは、彼自身も完全に隠し通せてはいなかった。
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