初恋を諦めたあなたが、幸せでありますように

ぽんちゃん

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「あのね、ロミオ。生誕祭の日は、どうしても早く帰ってきてほしいの……」


 ――運命の日。
 私はロミオに、ひとつだけわがままを言った。

 公爵令嬢の口にする「お願い」は、受け取る側にとって命令に等しい。

 だから、極力わがままを言わないようにしていた私が、「どうしても」なんて口にしたからか、驚いた様子のロミオが目を丸くする。


 ――どうか、この想いが届きますように……。


 ロミオの手を取り、真っ直ぐに見つめる。
 すると、琥珀こはく色の瞳はきらきらと輝き、愛おしそうに細められる。
 その瞳には、確かに熱が感じられた。


「必ず、早く帰ると誓うよ」


 真面目なロミオが誓いを立てる。
 いつもなら信じられる言葉を、今日だけは疑わずにはいられない。
 それでも、逞しく成長した胸に引き寄せられると、抗うことなどできない。


「大切な話があるの。ロミオが帰ってくるまで、寝ないで待ってるから……」

「ああ、約束する。やるべきことを終わらせて、必ずルキナのもとに戻ってくるよ」


 優しい声でそう囁いたロミオが、頬にそっと口づけを落とした。

 ――こんなこと、初めて……。

 嬉しくてたまらないのに、今日ばかりは素直に喜べない。
 胸の奥に複雑な想いを抱えたまま、私は笑顔のロミオを見送った。

 そして残された机の上には、一通の封筒。



『あなたのヒーローをお返しします。末永くお幸せに』



 ロミオの初恋の人――ブリトニー宛のふみ

 彼女がこれを読む日が来なければいいのに、と思いながら、私は封蝋ふうろうを押した。

(私がどんなに足掻いても、未来は変えられない。だけど――今のロミオなら、もしかしたら……)

 わずかな可能性に賭ける私は、夜会の準備に取り掛かるため、着替えを始める。
 今頃、ロミオは思い出の小屋で、初恋の人と偶然の再会を果たしているだろう。

 夕刻までに帰ってくれば、サプライズで婚約を発表する。
 もし帰ってこなければ、用意した資金とこの文を託して、お別れを告げる。
 そしてそのときは、私は両親が選んだ相手と婚姻することになる――。

 五年の歳月を共に過ごしたロミオと私。
 友達以上、恋人未満のような関係だったけれど、確かに心は通じていたはずだ。

 ロミオは私の婚約者候補として、領民がより良い生活ができるよう、今日も領地に足を運んでいる。
 私が選ばれる可能性は、ほんのわずかでもあると思う。
 だから私は、ロミオの言葉を信じて帰りを待っていた。


 ……けれど、帰ってきたのは、護衛のみ。


 その口から告げられたのは、ロミオは初恋の相手であるブリトニーと、一夜を共にしたという残酷な知らせだった――。




 













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