愛のない結婚だと知ってしまった僕は、

ぽんちゃん

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9 突然の会食

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 ヴァレリオとフレイが、身も心も結ばれた。
 その事実は、屋敷中の者が知っているだろう。
 時間をきちんと守るフレイが朝寝坊し、昼に起きてきても、一日中ぽわぽわしているのだから……。

「あっ! もうこんな時間っ。ヴァレリオ様に珈琲を持っていかないとっ」

 時計を見れば、午後三時だった。
 昨夜の出来事を思い返してニヤニヤしているうちに、三時間も経過しているではないか。

「っ、これではヴァレリオ様の妻、失格だ!」

 しっかりしろ、とフレイは自身に喝を入れた。
 ヴァレリオの好きな珈琲を淹れ、部屋にはほろ苦い香りが広がる。
 それでもやっぱり、だらしのない顔になってしまうフレイは、脳内がお花畑だった。

(だって仕方がないじゃないかっ! 大好きなヴァレリオ様と、素敵な夜を過ごしたんだっ! ……みんな、今日くらいは大目に見てくれる、よね?)

 ワゴンに珈琲と本日のおやつを用意し、そそくさと愛する人のもとへ向かう。
 すれ違う使用人全員に、生暖かい目を向けられていたが、幸せいっぱいのフレイには些細なことだった。

「ヴァレリオ様、お疲れ様です。少し休憩しませんか?」

 執務室を覗けば、書類に視線を落としていたヴァレリオが顔を上げる。
 眼鏡を外し、ふわりと笑みを浮かべた。
 昨夜の色気が爆発したヴァレリオも魅力的だが、普段の知的な印象のヴァレリオにも、フレイはドキドキさせられる。

(――なんて美しい人なんだろう……。この方が僕の旦那様だなんて、今でも信じられない……)

 ヴァレリオの背後には薔薇の花が咲き乱れ、後光が差していた。

「――……ありがとう。ちょうど目が疲れてきたところだったんだ。さすがフレイだね?」

「っ、」

 ほうっと見惚れていたフレイは、慌てて珈琲を机に置く。
 いい香りだ、とペンを置いたヴァレリオは、フレイの淹れた珈琲を口にした。
 婚約した頃から、毎日欠かさずせっせと珈琲を運ぶフレイを、ヴァレリオはどんな時でも歓迎してくれるのだ。

「フレイも休憩するかい?」

「っ、はいっ!」

 珈琲を手にしたヴァレリオが長椅子に移動する。
 普段は対面に腰掛けるが、フレイは思い切って隣に座った。

「き、今日のおやつは、今流行りのチョコレートです! 珈琲に合うと思って選びましたっ」

 ヴァレリオから何か言われる前に、フレイが矢継ぎ早に告げる。

「……そうなんだ。いろんな形があって、可愛らしいね」

「っ…………はぃッ!」

 ハートの形のチョコレートをつまんだヴァレリオに笑いかけられ、フレイもつられて笑顔になった。
 ふたりで小さなチョコレートを口にし、ほっこりとする。

(だ、誰か助けてっ!! ハートのチョコをもぐもぐしているヴァレリオ様が、可愛すぎるぅぅ~~ッ!!)

 平然とした顔で珈琲を啜るフレイだが、心の中では歓喜の雄叫びを上げていた。
 舌の上でチョコレートが溶け、甘い味が広がる。
 幸福感を噛み締めるフレイは、ヴァレリオとスキンシップを取りたくて仕方がなかった。

「あのっ、ヴァレリオ様……」

 口付けをしたいフレイが、期待するように見上げても、ヴァレリオは困ったように笑うだけ。
 そっと頭を撫でられて、誤魔化されてしまった。

「――うん、甘いね。珈琲にも合う」

 ヴァレリオが満足そうに呟く。
 フレイも頷いたものの、しゅんとしてしまう。
 だからといって、自ら「口付けがしたいです!」とは言えるはずもなく……。
 しばらく無言で、珈琲を飲んでいた。

 気まずいわけではないが、多忙なヴァレリオにとっては有意義な時間というわけでもないだろう。
 ヴァレリオの仕事の邪魔をしたくないフレイは、退出するために席を立った。
 すると、さっと立ち上がったヴァレリオに手を取られる。

「――……チョコレートが美味しいお店を探しておくから、今度一緒に行かない?」

 ヴァレリオからのデートのお誘いに、カップを片付けようとしたフレイは、その手を止めた。

(ヴァレリオ様と一緒なら、どこへでもっ!)

 フレイはぱあっと笑顔になった。

「はいっ! 行きたいですっ!」

 表情がくるくると変わるフレイを眺め、ヴァレリオが思わずといったように、ふっと笑った。

 ヴァレリオは、普段通りに優しい。
 だが、昨夜のような甘い空気は一切感じられなかった。

(……口付けは、夜までお預けかぁ)

 残念だが、早く夜になってほしいと切に願う。
 そんなフレイに、ヴァレリオが少し言いづらそうに話し始めた。

「実は、今晩は近衛騎士時代の仲間と、会食の予定があるんだ。遅くなると思うから、私の帰りは待たなくていいから」

「えっ……」

 てっきり今日も愛し合えると思い込んでいたフレイにとっては、寝耳に水だった。
 だが、動揺を隠し、ヴァレリオに笑いかける。

「っ、わ、わかりました。僕のことは気にせず、楽しんできてくださいねっ」

「ああ、ありがとう」

 今度こそ執務室を退出したフレイは、がっくりと肩を落とした。
 友人との会食は大切な付き合いだ。
 寂しいから行かないで、なんて甘えたことなど言えるはずもない。

(きっと、日付が変わる頃には帰ってきてくれるよね……?)

 そわそわした気持ちのまま、フレイは義父の夕飯の準備をするため、台所に向かった。























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