愛のない結婚だと知ってしまった僕は、

ぽんちゃん

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10 義父のお手伝い

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 ヴァレリオを見送った後、フレイは夕飯の準備をするため、台所に向かった。
 公爵夫人が台所で作業をするなんて、他の者たちが見れば卒倒ものだろう。
 だが、フレイが好きでやっているのだ。
 それもこれもすべて、大好きな義父――ジョナスのためである。

「今日は白身魚?」

「「「っ、奥様!」」」

 フレイがひょっこりと顔を出せば、料理人たちが手を止めた。
 木製のまな板の上にドーンと置かれた高級魚。
 今晩のメインとなる魚だ。
 東方では、めでたい魚として重宝されている。

「あの、奥様、大丈夫ですか……?」

 本日仕入れた魚がかなり大きいからか、はたまた出刃包丁を持つ小さな公爵夫人を心配してくれているのか。
 どちらともかもしれないが、フレイは見習いの料理人に向かってにっこりと笑った。

「食べやすくて、おいしくて、栄養がある。……最高の食材じゃないかっ!」

「「「おおおおおーーっ!!!!」」」

 フレイが高級魚を手際よくさばいていき、料理人たちが歓声を上げる。
 中には、涙ぐんでいる者もいた。
 最初はヌルヌルした魚に触れることすら出来なかったフレイが、今ではひとりでさばけるようになっているのだ。

「最初は、お義父様が食べたくなるような料理を作りたいって気持ちで始めたことだけど……。みんなとも仲良くなれて、いいことづくしだ! ――いつも、僕に協力してくれてありがとうっ」

「「「っ……奥様っ!!!!」」」

 日頃の感謝の気持ちを伝えれば、ますます料理人たちの瞳が潤んでしまった。
 照れ臭くなるフレイは、小麦粉やフライパンを用意したりと、忙しいふりをして誤魔化したが……。

「お礼を言うなら、俺たちの方ですよっ!」

「先代が食事を摂るようになったのは、奥様のおかげなんですからっ!」

 フレイを囲む料理人等にベタ褒めされてしまい、フレイは真っ赤な顔で調理を進める羽目になってしまった。
 そして台所には、食欲をそそられるバターのいい香りが充満する。

「ふわぁ、いい匂いだっ」

 きっとジョナスも気に入ってくれるだろう。
 季節の野菜も添え、彩りにも気を遣う。
 盛り付けも丁寧に行うことが、フレイのこだわりだ。
 出来上がった料理をワゴンに乗せたフレイは、さっそくジョナスのもとへ向かった。


 ◇


 義父の部屋に顔を出せば、寝台で横になっていたジョナスが笑顔で迎えてくれた。

「お義父様、ご飯ができましたよっ! 一緒に食べましょうっ!」

「おお。フレイ、ありがとう」

 さっそく食事にしようと、ジョナスが上半身を起こした。
 髪は年齢を重ねて白く変わっているが、ヴァレリオに似て整った顔立ちのジョナスは、気品のある男性だ。

「さっきまで腹は空いていなかったのに、不思議だな……。フレイの顔を見ると、食欲が湧いてきた」

 ジョナスの喜ばしい言葉に、フレイはとびっきりの笑顔を見せていた。

(大好きなヴァレリオ様と結婚できたことも嬉しいけど、義理の父親がジョナス様で、本当によかった……)

 ジョナスはヴァレリオに当主の座を譲った後は、海の見える邸で穏やかに暮らす予定だった。
 しかし、病が悪化したことにより、心配したヴァレリオに引き止められ、今も本邸で暮らしている。

 ジョナスには、『義理の親と寝食を共にするのは嫌ではないか』と何度も聞かれたことがある。
 しかし、フレイは優しいジョナスのことを本当の祖父のように慕っているため、暇さえあればジョナスとお喋りをして楽しんでいた。

 そういうわけで、食事の席にヴァレリオが現れない理由を説明すれば、途端にジョナスが険しい顔なった。

「結婚して日が浅いというのに、可愛いフレイを残して、ひとりで酒の席に行っただと?」

 まったく、とジョナスが不機嫌そうに鼻に皺を寄せた。
 ジョナスが不機嫌になったのは、フレイを溺愛しているからだ。
 我が子以上に可愛がられ、嬉しく思うフレイは、にこにことしながら、熱々なパン粥にふぅと息を吹きかける。

「フレイ。帰ってきたら、私から叱って――あぐっ」

 フレイがパン粥を食べさせれば、ジョナスはむっとした顔のまま咀嚼そしゃくした。
 一年前までは、病で食欲不振だと思われていたジョナスが、実はスプーンをうまく持てなくなっていただけだったことを知ったフレイ。
 そこでフレイが、「僕が食べさせたいですっ!」とわがままを言う形で、ジョナスの食事のお手伝いをするようになったのだ。

「ふふっ。本当は、お義父様もお酒の席に行きたかっただけなんじゃないですか?」

「…………それは否定できないな」

 禁酒しているジョナスが、ふっと笑った。
 次に白身魚を食べさせれば、ジョナスは満足そうに咀嚼する。
 最初は、息子の婚約者に食べさせてもらうことに対して、酷く申し訳なさそうにしていたジョナスだが、今はフレイと息ぴったりである。

「うむ。うまい」

「よかった! 今日のお魚はすっごく大きかったんですよっ! 東方では、縁起のいいお魚だと、重宝されている高級魚で――」

「高級魚だからじゃない。フレイが一から作ってくれているから美味しいんだ」

 殺し文句を告げたジョナスが、あーんと口を開けて催促さいそくする。
 義父に褒められ、フレイは喜びを隠しきれない。
 ヴァレリオが居なくとも、ジョナスのおかげで、フレイはいつも通りの楽しい一日を過ごしていた。

(ヴァレリオ様が帰って来たら、今日の出来事を報告しようっ!)



 待たなくてもいいと言われたが、フレイはヴァレリオの帰りを待つことにした。
 だが、その日、ヴァレリオは明け方まで帰って来なかった……。



























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