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23 厄介者
しおりを挟む衝撃的な出来事が起こり、フレイはコニーに連れられ、いつのまにか自室に戻っていた。
ヴァレリオがレニーを離れに囲っていることを知ってしまった今、夫夫の寝室を使えるはずもないと、コニーが気を利かせてくれたのだろう。
(もし、ヴァレリオ様が、何食わぬ顔で戻って来ても、僕はきっと泣いてしまうと思う……)
なにがあってもヴァレリオを愛し続けるのだと思っていたフレイだが、ヴァレリオに愛を囁かれるのも、腕の中で眠るのも、今は出来そうになかった。
フレイがぼーっとしていると、コニーが顔を拭いてくれた。
どうやら涙が止まっていなかったようだ。
「っ……申し訳、ございませんっ、」
弱々しい声で謝罪するコニーに、フレイは首を傾げた。
(……どうしてコニーがそんな顔をするの……?)
コニーは何も悪くないのに、フレイよりも辛そうな表情だ。
だが、コニーを気遣える余裕が、今のフレイにはなかった。
コニーに促され、フレイは寝台で横になって目を伏せる。
しかし、眠れるはずもなく、枕が冷たくなっていくだけだった。
「ふぅ、ぅ……っ」
ふと、すすり泣く声が聞こえて来る。
うっすらと目を開ければ、すでに朝日が昇っており、部屋は明るくなっていた。
そして寝台に顔を埋め、声を押し殺しているコニーが、フレイの手を握ってくれていた。
(コニーがいてくれて、よかった……)
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その時、ノックの音が響いた。
フレイとコニーの体が、同時にビクンと大袈裟なくらいに飛び跳ねる。
「フレイ、大丈夫?」
「「っ……」」
ヴァレリオの声だ。
先程、離れでヴァレリオとレニーが密会していた光景がパッと思い起こされ、フレイの瞳に涙が溢れ出す。
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「――ええ、非常に……。しばらくは、誰にも会いたくないと仰られています」
「…………そうか」
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(僕のことなんて放っておいて、レニー様のところに行けばいいのに……)
自暴自棄になっているフレイのもとへ、コニーが戻って来る。
「フレイ様……。今回は引いてくださいましたが、さすがにこれ以上は怪しまれるかもしれません」
「……そう、だよね。きちんと向き合わないといけない、ってわかってるけど……ぅぅっ、」
本人がいなくとも、ヴァレリオの話をしているだけで、ほろほろと涙が溢れてくるのだから、話になんてならないだろう。
一般的に、貴族が愛人を囲うことは、そう珍しいことではない。
ただ、伴侶には愛人の存在が露呈しないよう、細心の注意を払うことが暗黙のルールだ。
ヴァレリオのように、あんな大胆に離れに愛人を囲ったりすることはない。
(――つまり、それだけレニー様を寵愛しているという意味になる)
「僕と離縁したいという、意思表示なのかな……」
「っ、」
フレイが素直に思ったことをポツリとこぼせば、コニーが目を見張った。
「そ、そのようなことは……」
「…………」
気まずい沈黙が流れる。
フレイと共に、ヴァレリオとレニーの関係を目撃しているコニーも、ありえない、とは言い切れないのだろう。
コニーは申し訳なさそうにしていたが、下手に慰められるより、ずっといい。
だって――。
「――よく思い返せば、離れは綺麗に保たれていたし、使用人たちもみーんな知っていたんだと思う。……僕は、家族だと思っていた人たち全員に、厄介者だと思われていたんじゃないかな……」
「ッ!!」
自嘲気味に笑えば、コニーは絶句した。
何か言おうと、必死に口を開閉させるコニーからフレイは目を逸らす。
「フレイ様。一度、ご実家に帰省しませんか? 心を休めましょう。私も、フレイ様についていきたいと思っています」
コニーが笑いかけてくれ、フレイは涙を拭う。
きっとこの家でフレイの味方は、コニーだけだ。
ヴァレリオの顔を見て話をする精神状態ではなかったフレイは、コニーの提案を受け入れることにした。
「…………うん。一緒にラヴィーン家に帰ろう。きっと僕がいなくなった方が、ヴァレリオ様も、みんなも、のびのびと過ごせるだろうしねっ」
「っ、」
コニーの顔色がサァッと青ざめる。
フレイが余計な一言を言ったせいで、またしてもコニーを苦しませてしまった。
それでも、真実なのだから仕方がない。
それからヴァレリオや使用人たちの目を盗み、フレイはコニーに連れられて、グランディエ公爵邸を後にしていた。
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