愛のない結婚だと知ってしまった僕は、

ぽんちゃん

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28 究極の選択

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 ラヴィーン伯爵邸にて、フレイはヘクターの息子たちと過ごしていた。
 フレイの笑顔は増えているが、そろそろ現実と向き合わなければならない。

 一週間経っても、ヴァレリオから連絡はないのだから……。

(やっぱりヴァレリオ様は、僕がいない方が都合がよかったんだろうな……)

 レニーの存在により、フレイはお払い箱になったということだろう。
 それでもフレイは、ヴァレリオのことを嫌いにはなれなかった。



「――……寒い」

 寝台に寝転び、独りごちる。
 夜、ひとりきりになると、どうしてもヴァレリオのことを思い出してしまう。
 フレイを抱きしめて、キスをして、愛してるよと、毎晩囁いていたヴァレリオのことを……。

「っ、嫌いになれたらよかったのに……。ほんと、残酷な人だなぁ……」

 フレイが泣きそうになった時、寝室の扉が静かに開いた。

「フレイ様」

「っ……コニー、入って」

 フレイのもとを訪れたコニーが、寝台のそばで膝を折る。

「フレイ様、大変申し上げにくいのですが……」

 決してフレイとは目を合わせないコニーが、言いづらそうに口を閉じる。
 皆の前では、話せない内容なのだろう。
 フレイの部屋でふたりきりになった時点で、よくない報告だと、フレイは察しがついていた。
 だからフレイは、コニーが話しやすいよう、へらりと笑って見せる。

「うん、僕なら大丈夫だよ。むしろ、ごめんね? コニーには、大変な役回りをしてもらって……」

 フレイがコニーの手を取れば、ハッと目を見張ったコニーは、「っ……いえっ」と首を横に振った。

「それで? コニー。どんな話でも受け入れるよ。だから、僕がいなくなった後のグランディエ公爵家の現状を、教えてくれる?」

「っ、はい……。グランディエ公爵家に仕える、私の友人の話によると……レニー様が、本邸に移られたそうです」

「…………そう」

 フレイは静かに頷いたが、正直なところショックだった。
 フレイの予想通り、ヴァレリオだけでなく、使用人全員が、レニーが離れに住んでいることを知っていたのだ。
 そしてフレイが不在になり、嬉々としてレニーを本邸に招き入れたのだろう。

(僕はみんなのこと、家族のように思っていたのに……)

 フレイのことなど忘れ、レニーと和気藹々と過ごす使用人たちのことを想像しただけで、フレイは泣きそうだった。

「それから、フレイ様のお部屋に……」

「っ、」

 フレイは息を呑む。
 最後まで言われずとも、わかってしまった。
 おそらくレニーは、本邸に戻っただけでなく、公爵夫人の部屋を与えられたのだ。

「まだ、僕と離縁していないのに、もうレニー様を正妻として迎える話になっているんだ……」

 レニーが公爵夫人が使用する部屋に引っ越しをしたということは、これからヴァレリオは、フレイとは本格的に離縁に動くことになるだろう。

「次にヴァレリオ様と会う時は、離縁の話になるのかな?」

「いえ。それはないかと」

「…………へ?」

 コニーが断言し、フレイは素っ頓狂な声が出た。
 赤い瞳の視線の先は、フレイの平らな腹部だ。

「フレイ様は、当主様の子を妊娠している可能性がありますから」

「っ、それは、まだ、わからないよ……」

 医師にも診てもらったのだが、情緒が不安定だったことや吐き気は、精神的なストレスによるものかもしれないと言われているのだ。
 しかしコニーは、事態を重く見ているようだった。

「フレイ様、よく聞いてください。いくら外見が美しくとも、レニー様は現在、四十八歳です」

「う、うん……」

(レニー様って、ヴァレリオ様より六つも年上だったんだ……。全然見えないや)

 レニーの年齢は初耳だったが、フレイはひとまず頷いた。

「当主様がレニー様を寵愛していたとしても、レニー様のお身体が、出産に耐えられるかどうかわかりません。お身体に負担がかかり、レニー様の身に万が一のことがあれば、当主様もレニー様との間に子をもうけようとは思わないでしょう」

 なぜ、ヴァレリオとレニーの将来の話を聞かなければならないのか。
 どうしてコニーが、フレイの心の傷をえぐるようなことを話すのかわからない。

「…………なにが言いたいの?」

 突き放すような言い方をしてしまったが、コニーに哀れむような目を向けられていることに気づき、フレイは困惑する。


「私が言いたいのは……当主様は、血の繋がりのあるフレイ様との子を、グランディエ公爵家の後継者にする可能性があるということです」

「ッ!!」


 予想だにしなかったことに、フレイは絶句した。

「つ、つまり、もし、僕が妊娠していたら、出産後は、子供を取られてしまうってことっ!?」

「その可能性は高いかと……。現在、レニー様を寵愛している当主様が、今はまだ、フレイ様に離縁を要求しないのは、そういった深い問題があるからではないかと」

「っ、そんな……」

 愛する人を失い、さらにその相手との子も奪われることになるだなんて、これ以上、辛いことなどあるのだろうか。
 フレイは顔面蒼白になった。

「っ、でも、そんなひどいこと、ヴァレリオ様がする、かな……?」

「フレイ様……。傷つきたくない気持ちはわかりますが、今は子供のためにも、現実から目を背けないでください」

「っ、」

 真顔のコニーにガツンと言われてしまい、フレイは項垂れる。

「っ、そう、だよね……。お義父様のためなら、僕とだって愛のない結婚ができたんだもの……。ヴァレリオ様は、大切な人のためなら、きっとなんだってできる人だもんね……」

「…………ええ、同感です」

 それに、コニーの言う通り、血の繋がりは大切なものだ。
 いくらヴァレリオがレニーを寵愛していたとしても、後継者を産まない選択をすれば、必然的に分家から養子を迎えることになる。

 しかし、フレイがヴァレリオの子を出産していれば、話は別だ。
 ヴァレリオとフレイの子が、グランディエ公爵家の後継者となるだろう。
 だが、問題がある。

「でも待って? 僕の子なのに、レニー様が母親になるの……? そんなの、嫌だっ!」

 取り乱すフレイを宥めるように、コニーが背を撫でてくれる。


「ですが、フレイ様。安心してください。フレイ様が妊娠している可能性があることを、当主様は今はまだご存じありません。ですので、フレイ様から、離縁の申し出をすればよろしいのです。そして、誰にも言わず、遠くへお逃げください。そうすれば、フレイ様は我が子を守ることができます」

「ッ!!」


 このままヴァレリオと仮面夫夫を続け、出産後にはレニーに妻の座を明け渡し、子まで奪われるか。
 もしくは、蝶よ花よと大切に育てられたフレイが、見知らぬ土地でひとりで子育てをするか。


 フレイは究極の選択を迫られていた。

















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