29 / 46
28 究極の選択
しおりを挟むラヴィーン伯爵邸にて、フレイはヘクターの息子たちと過ごしていた。
フレイの笑顔は増えているが、そろそろ現実と向き合わなければならない。
一週間経っても、ヴァレリオから連絡はないのだから……。
(やっぱりヴァレリオ様は、僕がいない方が都合がよかったんだろうな……)
レニーの存在により、フレイはお払い箱になったということだろう。
それでもフレイは、ヴァレリオのことを嫌いにはなれなかった。
「――……寒い」
寝台に寝転び、独りごちる。
夜、ひとりきりになると、どうしてもヴァレリオのことを思い出してしまう。
フレイを抱きしめて、キスをして、愛してるよと、毎晩囁いていたヴァレリオのことを……。
「っ、嫌いになれたらよかったのに……。ほんと、残酷な人だなぁ……」
フレイが泣きそうになった時、寝室の扉が静かに開いた。
「フレイ様」
「っ……コニー、入って」
フレイのもとを訪れたコニーが、寝台のそばで膝を折る。
「フレイ様、大変申し上げにくいのですが……」
決してフレイとは目を合わせないコニーが、言いづらそうに口を閉じる。
皆の前では、話せない内容なのだろう。
フレイの部屋でふたりきりになった時点で、よくない報告だと、フレイは察しがついていた。
だからフレイは、コニーが話しやすいよう、へらりと笑って見せる。
「うん、僕なら大丈夫だよ。むしろ、ごめんね? コニーには、大変な役回りをしてもらって……」
フレイがコニーの手を取れば、ハッと目を見張ったコニーは、「っ……いえっ」と首を横に振った。
「それで? コニー。どんな話でも受け入れるよ。だから、僕がいなくなった後のグランディエ公爵家の現状を、教えてくれる?」
「っ、はい……。グランディエ公爵家に仕える、私の友人の話によると……レニー様が、本邸に移られたそうです」
「…………そう」
フレイは静かに頷いたが、正直なところショックだった。
フレイの予想通り、ヴァレリオだけでなく、使用人全員が、レニーが離れに住んでいることを知っていたのだ。
そしてフレイが不在になり、嬉々としてレニーを本邸に招き入れたのだろう。
(僕はみんなのこと、家族のように思っていたのに……)
フレイのことなど忘れ、レニーと和気藹々と過ごす使用人たちのことを想像しただけで、フレイは泣きそうだった。
「それから、フレイ様のお部屋に……」
「っ、」
フレイは息を呑む。
最後まで言われずとも、わかってしまった。
おそらくレニーは、本邸に戻っただけでなく、公爵夫人の部屋を与えられたのだ。
「まだ、僕と離縁していないのに、もうレニー様を正妻として迎える話になっているんだ……」
レニーが公爵夫人が使用する部屋に引っ越しをしたということは、これからヴァレリオは、フレイとは本格的に離縁に動くことになるだろう。
「次にヴァレリオ様と会う時は、離縁の話になるのかな?」
「いえ。それはないかと」
「…………へ?」
コニーが断言し、フレイは素っ頓狂な声が出た。
赤い瞳の視線の先は、フレイの平らな腹部だ。
「フレイ様は、当主様の子を妊娠している可能性がありますから」
「っ、それは、まだ、わからないよ……」
医師にも診てもらったのだが、情緒が不安定だったことや吐き気は、精神的なストレスによるものかもしれないと言われているのだ。
しかしコニーは、事態を重く見ているようだった。
「フレイ様、よく聞いてください。いくら外見が美しくとも、レニー様は現在、四十八歳です」
「う、うん……」
(レニー様って、ヴァレリオ様より六つも年上だったんだ……。全然見えないや)
レニーの年齢は初耳だったが、フレイはひとまず頷いた。
「当主様がレニー様を寵愛していたとしても、レニー様のお身体が、出産に耐えられるかどうかわかりません。お身体に負担がかかり、レニー様の身に万が一のことがあれば、当主様もレニー様との間に子をもうけようとは思わないでしょう」
なぜ、ヴァレリオとレニーの将来の話を聞かなければならないのか。
どうしてコニーが、フレイの心の傷をえぐるようなことを話すのかわからない。
「…………なにが言いたいの?」
突き放すような言い方をしてしまったが、コニーに哀れむような目を向けられていることに気づき、フレイは困惑する。
「私が言いたいのは……当主様は、血の繋がりのあるフレイ様との子を、グランディエ公爵家の後継者にする可能性があるということです」
「ッ!!」
予想だにしなかったことに、フレイは絶句した。
「つ、つまり、もし、僕が妊娠していたら、出産後は、子供を取られてしまうってことっ!?」
「その可能性は高いかと……。現在、レニー様を寵愛している当主様が、今はまだ、フレイ様に離縁を要求しないのは、そういった深い問題があるからではないかと」
「っ、そんな……」
愛する人を失い、さらにその相手との子も奪われることになるだなんて、これ以上、辛いことなどあるのだろうか。
フレイは顔面蒼白になった。
「っ、でも、そんなひどいこと、ヴァレリオ様がする、かな……?」
「フレイ様……。傷つきたくない気持ちはわかりますが、今は子供のためにも、現実から目を背けないでください」
「っ、」
真顔のコニーにガツンと言われてしまい、フレイは項垂れる。
「っ、そう、だよね……。お義父様のためなら、僕とだって愛のない結婚ができたんだもの……。ヴァレリオ様は、大切な人のためなら、きっとなんだってできる人だもんね……」
「…………ええ、同感です」
それに、コニーの言う通り、血の繋がりは大切なものだ。
いくらヴァレリオがレニーを寵愛していたとしても、後継者を産まない選択をすれば、必然的に分家から養子を迎えることになる。
しかし、フレイがヴァレリオの子を出産していれば、話は別だ。
ヴァレリオとフレイの子が、グランディエ公爵家の後継者となるだろう。
だが、問題がある。
「でも待って? 僕の子なのに、レニー様が母親になるの……? そんなの、嫌だっ!」
取り乱すフレイを宥めるように、コニーが背を撫でてくれる。
「ですが、フレイ様。安心してください。フレイ様が妊娠している可能性があることを、当主様は今はまだご存じありません。ですので、フレイ様から、離縁の申し出をすればよろしいのです。そして、誰にも言わず、遠くへお逃げください。そうすれば、フレイ様は我が子を守ることができます」
「ッ!!」
このままヴァレリオと仮面夫夫を続け、出産後にはレニーに妻の座を明け渡し、子まで奪われるか。
もしくは、蝶よ花よと大切に育てられたフレイが、見知らぬ土地でひとりで子育てをするか。
フレイは究極の選択を迫られていた。
368
あなたにおすすめの小説
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。
僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
僕たちの世界は、こんなにも眩しかったんだね
舞々
BL
「お前以外にも番がいるんだ」
Ωである花村蒼汰(はなむらそうた)は、よりにもよって二十歳の誕生日に恋人からそう告げられる。一人になることに強い不安を感じたものの、「αのたった一人の番」になりたいと願う蒼汰は、恋人との別れを決意した。
恋人を失った悲しみから、蒼汰はカーテンを閉め切り、自分の殻へと引き籠ってしまう。そんな彼の前に、ある日突然イケメンのαが押しかけてきた。彼の名前は神木怜音(かみきれお)。
蒼汰と怜音は幼い頃に「お互いが二十歳の誕生日を迎えたら番になろう」と約束をしていたのだった。
そんな怜音に溺愛され、少しずつ失恋から立ち直っていく蒼汰。いつからか、優しくて頼りになる怜音に惹かれていくが、引きこもり生活からはなかなか抜け出せないでいて…。
【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。
誉コウ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。
その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。
胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。
それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。
運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる