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しおりを挟む秋の気配が近付いてきた頃、様々な動物に囲まれるレヴィは、充実した毎日を送っていた。
大きな卵を産む鳥や、栄養のある乳を出せる牛といった、人間が生活するためには欠かせない動物たちとの出逢い。
卵やミルクは、王都にいる時も口にしていたが、それを産み出している動物と出逢えたことに、レヴィは心が震えるほど感動していた。
しかし、ひとつだけ困ったこともある――。
『ココノクサ、オイシイ!』
『コンナコト、ハジメテ!』
死の森の草が美味しいと、治癒に訪れた動物たちが、なかなか帰りたがらないのだ。
「ははっ、困ったな。レヴィ様のおそばにいたいのでしょう」
「我々とて、同じ気持ちですからね?」
動物の飼い主たちが、困ったように笑う。
そしてお礼の品を用意していたが、レヴィが受け取ることはない。
「ほんの気持ちしか用意できておりませんが、受け取っていただけないでしょうか」
使い古された布に包まれているのは、きっと彼らがかき集めてきたお金だろう。
レヴィは彼らに、ウィンクラー辺境伯領の二番目の聖女ではなく、獣医のように思われているのだ。
「申し訳ありません。せっかくご用意していただいたのに……」
「っ、しかし!!」
ドラッヘ王国にはたったひとりの獣医だからか、それはそれは丁重な対応をされている。
金品を受け取るために治癒をしているわけではないため、レヴィは皆に納得してもらえるような提案をしていた。
「でしたら、いつかこの子たちが産んだ美味しい卵やミルクを、僕に買わせていただけませんか?」
「「「――……っ!!」」」
物を買う時にはお金を支払うことくらい、レヴィだって知っている。
実際に、支払いをしたことはないが……。
それなのに、皆はレヴィを神のように崇め奉っていた。
「美味しく調理するとお約束します! それでは、ダメですか? 僕、これでも料理は得意で――」
「「「…………」」」
「――クッ、」
一部始終を見守っていたベアテルが、突然くつくつと笑い出し、皆がぽーっと見惚れている。
人喰い熊の異名は民の間にも知れ渡っており、最初は誰もベアテルに話しかけることはなかった。
しかし、レヴィが動物の治癒をする時は、必ずベアテルがそばにいる。
万が一、動物が暴れた時のために控えてくれているのだ。
そして、始めの頃は動物もベアテルに近付くことはなかったが、今は違う。
ベアテルの足元には、犬が集まっている。
魔物から動物を守る役目を担っている犬たちだ。
レヴィと同じくらいに、動物に好かれやすい体質なのではないかと思う程に懐かれている。
おかげで、今までは恐ろしい領主だと思われていたベアテルの印象も変わっているのだ。
そのことが、レヴィにとっては一番嬉しかった。
「さあさあ、レヴィ様のお仕事の邪魔をしてはいけないから、そろそろ帰るぞ!」
来た時は魔物に怯えていた辺境伯領の民が、笑顔で帰っていく。
『ご主人様は、相も変わらず人気者じゃ』
レヴィの足元にいる亀が、ほっほっほ、とのんびりとした口調で笑っている。
大きな甲羅を担いでいるため、のっそりと歩いているアクパーラは、レヴィよりも足が遅い。
それでも他の動物たちからは『長老』と呼ばれており、おそらくレヴィよりかなり歳上だろう。
各所を旅したことのあるアクパーラには、今のウィンクラー辺境伯領は、どこよりも過ごしやすいと太鼓判を押してもらったのだ。
今やウィンクラー辺境伯邸は、動物の楽園と化している、と言っても過言ではないだろう、とレヴィは思っていた――。
◇
常闇の森に光が差し、新たな命が芽吹く。
死の森に住む獰猛な魔物たちは、じわじわと追い詰められていた。
レヴィは日課の祈りを捧げているだけなのだが、ウィンクラー辺境伯邸を中心に、魔物に汚染された地が神聖な地へと変わっていたのだ――。
そして引き寄せられるように、まずは鳥たちが戻ってきていた。
邸の屋根には、常に鳥が止まっている。
レヴィから、ベリーの実を分け与えてもらいたいがために集まった、鳥の集団だった。
ケケケケ、と不気味な声が特徴的な夜行性の鳥は、狂ったように鳴くため、迷惑な鳥でもある。
だが、レヴィが眠りについている時は、とても静かだ。
そして朝になれば、鳴き始める。
まるで、レヴィの目覚める時間を把握しているかのように鳴き出すのだ。
そして汚染された地や鳥だけでなく、ベアテルに仕える者たちにも、変化があった。
よく寝て、よく食べているだけなのだが、以前とは比べ物にならない程、力が漲っている。
なにせ獰猛な魔物は、皆で連携して仕留めていたのだが、今はひとりでも魔物の頭をかち割ることも容易い。
知らぬ間に、レヴィはドラッヘ王国最強の軍隊を作り上げていた――。
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