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しおりを挟むリュディガーからの手紙を受け取ったレヴィは、ウィンクラー辺境伯領での報告書を纏めていた。
「こちらは順調です、っと……」
レヴィが動物の治癒を担当できるようになったのは、リュディガーが賛同してくれたからだった。
無償で動物の治癒をすると、ベアテルが辺境伯領の民に声をかけても、死の森に近付く者はいなかっただろう。
だが、レヴィを高く評価してくれているリュディガーが動いてくれたおかげで、民も集まってくれたのだ。
「あとは、湖が綺麗になっているのかを確認するだけだ!」
リュディガーがレヴィの行動を後押ししてくれたのは、おそらくドラゴンのためだろう。
死の森の奥にある湖は、かつて生息していたドラゴンの休息の地でもある。
ドラッヘ王国の民にとっても神聖な場所だ。
(きっとリュディガーお義兄様は、湖が復活したら、ドラゴンが姿を現してくれるかもしれないと、期待しているのだと思う……)
しかし、ロッティの話によると、アーベルヘルム国王陛下のやらかしによって、人間はドラゴンの怒りを買っているのだ。
一度怒らせた相手、それも誇り高きドラゴンに許しを乞うことは、かなり難しいだろう。
既にアーデルヘルムもこの世にはいないため、ドラゴンに関して、レヴィは期待していなかった。
魔物を討伐できるわけではないが、病に侵された動物を治癒するレヴィは、民を救っているのだ。
もっと評価されるべき人物だと思っているリュディガーは、レヴィが思う存分能力を発揮し、世界に羽ばたけるように、後押ししているだけである。
異世界に帰るために、魔物の王を討伐しに向かった勇者と、今はまだ功績を残せてはいないものの、ドラッヘ王国のために尽力しようとするレヴィ。
勇者には敬意を払っているが、リュディガーが大切にすべき相手は、レヴィであると判断していた――。
コンラートに手紙を渡したレヴィは、他の者たちからの手紙が届いていないかを確認する。
だが、リュディガーとユリアン以外から手紙が届くことはなかった。
「スザンナ様もですけど、マリアンナ様から手紙の返事が来ないのは、やっぱりおかしい……。もしかすると、ふたりに何かあったのかも――」
「ウィンクラー辺境伯領は、王都よりも雪が降り始めるのが早いのです。そのせいで、遅れているだけだと思いますよ? 心配なさらずとも、おふたりの活躍は私の耳にも届いております」
「……そうですか」
きっとお忙しいだけですよ、と告げたコンラートが、温かな紅茶を用意してくれる。
頷いたものの、納得していないレヴィは、湯気の出る紅茶にそっと息を吹きかけた。
(なんだろう、このモヤモヤとした感じ……)
レヴィが辺境伯領の二番目の聖女として活動することを、スザンナとマリアンナには手紙で知らせているのだ。
スザンナとの仲は良好ではなかったものの、手紙の返事を書かないような人ではない。
それも、聖女に関わることだというのに、忙しいという理由で、レヴィを無視するだろうか。
加えて、仲の良かったマリアンナであれば、レヴィのもとを訪れていてもおかしくはない。
(それに、王都からの手紙は届くのに、アニカお姉様からは一通も届いていないんだ。自分で言うのもあれだけど、アニカお姉様は、僕のことが大好きだったはずなのに……)
王命でウィンクラー辺境伯領に出立する前、あれだけ騒いでいたアニカから手紙が届かないのは、どう考えてもおかしい。
それに、もうひとつ気になることがある。
動物の治癒をしてほしいと訪れる者たちの中には、ウィンクラー辺境伯邸まで連れて来られなかった動物もいるのだ。
レヴィが出向きたいと話しても、ベアテルたちは様々な理由を述べて、首を縦には振ってくれない。
――全ては、レヴィ様のためです。
皆が口を揃えて、そう言うのだ。
(僕が弱っちいから、心配してくれているだけなんだと思うけど……。同じ辺境伯領の聖女であるスザンナ様に挨拶もできないだなんて、やっぱりおかしいよね……?)
教会にいる時より行動範囲は広がっているが、レヴィはまるでウィンクラー辺境伯邸に閉じ込められているような気分だった。
便りがない者たちを心配し、レヴィが己に良くしてくれているベアテルたちへの小さな不信感を募らせている頃。
王都では、王族と勇者の婚姻を祝う鐘が鳴っていた――。
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