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第23話 あなたの望みは何かしら?
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「アウグスティン様!なんて格好を!!」
「――――え?」
先ほどまで僕はベッドにいたはずだった。そして誰かと話をしていた。誰だったか名前を思い出せないその人に、色々と教えてもらった。
その人は……僕の願いを叶えてくれた人。導いてくれた人。優しい人。それは『魔女』。
「そんな格好でいらっしゃるなんて、公爵令息失格ですわ!そんな……」
僕の愛する人であるヒルデガルド嬢は真っ赤な顔をしている。以前はほんの少しだけ、ほんのりわずかながら桜色に染まっていた頬が、誰が見ても分かるほどに真っ赤だ。この素敵な人に恋をしたのはいつだったのだろう。でも会った瞬間から、僕は好きだった。自分の感情よりも、この人の幸せを優先しようと誓うほどに。
だから魔女に願ったんだ。いま思えば、それは勘違いだったけれど。
キョロキョロと見回すと、ここが自宅の応接間だと分かる。そして僕の姿はパジャマだ。さっきまで布団の中にくるまっていたのに、目の前に扉が現れ、そこから光が溢れたかと思ったら、ここにいる。きっと『魔女』が僕を導いてくれたんだ。相思相愛の人の元へ。
「公爵令息らしくない僕は嫌いですか?僕はこんなにヒルデガルド嬢を愛しているのに」
今の僕には確固たる自信がある。それは『魔女』が教えてくれたものだ。
僕はヒルデガルド嬢に会った時から、彼女の気持ちが手に取るように分かっていた。他の誰もが彼女の表情が分からないのに、僕には分かっていた。なのに子供の僕には、彼女は相応しくないと臆病になって、見ないふりをしていた。
彼女も僕を愛してくれていると言う事実を!
でも今なら自信を持って言える。彼女は僕を愛してくれている!
僕に足りなかった自信を教えてくれた『魔女』には心から感謝だ。
「なんて――ことを仰っるの!わたくしは、アウグスティン様が寝込んでいると聞いたので、心配して、こうして毎日訪問しておりましたのに、そのような軽口を……」
前までとは違う表情を見せる僕の愛おしい人は、以前とは違っても可愛らしい。
今にも嬉しくて泣き出しそうな顔。
僕に会えて嬉しそうな顔。
僕を心の底から心配していた顔。
そしてそれなのに、呑気な僕を詰る顔。
こんなにたくさんの表情を見せる婚約者を、愛おしく思わないはずがない。
幸いなことにヒルデガルド嬢は長椅子に掛けていらっしゃる。僕はぴょんと長椅子に飛び乗って横に座る。
ああ、やはり僕の婚約者は美しい。その驚いて見開く榛色の瞳に魅入られそうだ。
「――アウグスティン様!……っつ!」
◇◇◇
「あ!……あらあら、アウグスティン様と呼んでいたけれど、やっぱりお坊ちゃんに格下げね。いきなりキスするなんて、紳士の風上にもおけないわ。自信に溢れた男はタチが悪いわ」
フフッと笑って、鏡に映るふたりの姿を消す。デバガメで見ていたけれど、これ以上恋人同士の語り合いを覗き見するなんて良くないことだ。
「まぁ、お人形さんも嫌がってない様ですし……ふふ、お幸せに、ということかしら?」
初めから分かっていたことだった『魔女の施し』は、あっとういう間に終わってしまった。実につまらない。まだ私は外の世界を堪能していないのに。
「相思相愛の兆しが見えたもの。少し後押しすればすぐ終わってしまったわね。というか、私がいなくても結ばれていたわよね?きっと」
ふうっとため息をつくと、天井から下がるドライフラワーがゆらりと揺れた。
魔女には運命の糸、と言うと大袈裟だけど、惹かれあっている運命が見える。
それは良い結果を生む兆しだ。恋愛以外でもその兆しは見える。世界をより良い方向に導く為の、運命の糸。そのキーワードたる人間しか、『魔女の施し』は受けられない。
きっとあのふたりの恋愛はこれから先のイクイルールの未来に意味があるのだろう。
「楽しかったわ」
そう呟いて黒壇の窓枠から外を見る。
「あら、今回は早いわね」
窓の外には不安げな足取りでこちらに近づく人間が見える。
カランコロンとかわいく響いた音と共に、ここで良いのだろうかと不安気な表情をした人間が入ってくる。
私はいつものように両腕で身体を抱え、自慢ボディを更に絞りながら、ここが自分が一番美しい位置だと思っている角度で声をかける。
「いらっしゃい、ここは魔女オルガの館。あなたの望みは何かしら?」
さぁ、次はどんな兆しを見せてくれるのかしら?
~fin~
「――――え?」
先ほどまで僕はベッドにいたはずだった。そして誰かと話をしていた。誰だったか名前を思い出せないその人に、色々と教えてもらった。
その人は……僕の願いを叶えてくれた人。導いてくれた人。優しい人。それは『魔女』。
「そんな格好でいらっしゃるなんて、公爵令息失格ですわ!そんな……」
僕の愛する人であるヒルデガルド嬢は真っ赤な顔をしている。以前はほんの少しだけ、ほんのりわずかながら桜色に染まっていた頬が、誰が見ても分かるほどに真っ赤だ。この素敵な人に恋をしたのはいつだったのだろう。でも会った瞬間から、僕は好きだった。自分の感情よりも、この人の幸せを優先しようと誓うほどに。
だから魔女に願ったんだ。いま思えば、それは勘違いだったけれど。
キョロキョロと見回すと、ここが自宅の応接間だと分かる。そして僕の姿はパジャマだ。さっきまで布団の中にくるまっていたのに、目の前に扉が現れ、そこから光が溢れたかと思ったら、ここにいる。きっと『魔女』が僕を導いてくれたんだ。相思相愛の人の元へ。
「公爵令息らしくない僕は嫌いですか?僕はこんなにヒルデガルド嬢を愛しているのに」
今の僕には確固たる自信がある。それは『魔女』が教えてくれたものだ。
僕はヒルデガルド嬢に会った時から、彼女の気持ちが手に取るように分かっていた。他の誰もが彼女の表情が分からないのに、僕には分かっていた。なのに子供の僕には、彼女は相応しくないと臆病になって、見ないふりをしていた。
彼女も僕を愛してくれていると言う事実を!
でも今なら自信を持って言える。彼女は僕を愛してくれている!
僕に足りなかった自信を教えてくれた『魔女』には心から感謝だ。
「なんて――ことを仰っるの!わたくしは、アウグスティン様が寝込んでいると聞いたので、心配して、こうして毎日訪問しておりましたのに、そのような軽口を……」
前までとは違う表情を見せる僕の愛おしい人は、以前とは違っても可愛らしい。
今にも嬉しくて泣き出しそうな顔。
僕に会えて嬉しそうな顔。
僕を心の底から心配していた顔。
そしてそれなのに、呑気な僕を詰る顔。
こんなにたくさんの表情を見せる婚約者を、愛おしく思わないはずがない。
幸いなことにヒルデガルド嬢は長椅子に掛けていらっしゃる。僕はぴょんと長椅子に飛び乗って横に座る。
ああ、やはり僕の婚約者は美しい。その驚いて見開く榛色の瞳に魅入られそうだ。
「――アウグスティン様!……っつ!」
◇◇◇
「あ!……あらあら、アウグスティン様と呼んでいたけれど、やっぱりお坊ちゃんに格下げね。いきなりキスするなんて、紳士の風上にもおけないわ。自信に溢れた男はタチが悪いわ」
フフッと笑って、鏡に映るふたりの姿を消す。デバガメで見ていたけれど、これ以上恋人同士の語り合いを覗き見するなんて良くないことだ。
「まぁ、お人形さんも嫌がってない様ですし……ふふ、お幸せに、ということかしら?」
初めから分かっていたことだった『魔女の施し』は、あっとういう間に終わってしまった。実につまらない。まだ私は外の世界を堪能していないのに。
「相思相愛の兆しが見えたもの。少し後押しすればすぐ終わってしまったわね。というか、私がいなくても結ばれていたわよね?きっと」
ふうっとため息をつくと、天井から下がるドライフラワーがゆらりと揺れた。
魔女には運命の糸、と言うと大袈裟だけど、惹かれあっている運命が見える。
それは良い結果を生む兆しだ。恋愛以外でもその兆しは見える。世界をより良い方向に導く為の、運命の糸。そのキーワードたる人間しか、『魔女の施し』は受けられない。
きっとあのふたりの恋愛はこれから先のイクイルールの未来に意味があるのだろう。
「楽しかったわ」
そう呟いて黒壇の窓枠から外を見る。
「あら、今回は早いわね」
窓の外には不安げな足取りでこちらに近づく人間が見える。
カランコロンとかわいく響いた音と共に、ここで良いのだろうかと不安気な表情をした人間が入ってくる。
私はいつものように両腕で身体を抱え、自慢ボディを更に絞りながら、ここが自分が一番美しい位置だと思っている角度で声をかける。
「いらっしゃい、ここは魔女オルガの館。あなたの望みは何かしら?」
さぁ、次はどんな兆しを見せてくれるのかしら?
~fin~
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