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第22話 これで最後かと思うと寂しいですね(2)
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「……これは」
「過去の映像……あの事件の日の映像ですわ」
私の魔法によって現れた映像に映るのは、ヒルデガルド嬢とマリア嬢。ふたりは並んで歩きながら、王妃主催のガーデンパーティに向かおうとしている。
映像の中のヒルデガルド嬢はマリア嬢に語る。
「マリア様、私があなたにティカップの紅茶をかけます。周囲を納得させるために紅茶は熱いものをかけます。なるたけスカートにかけるように努力しますけれど、念のために避けるようにしてください」
「分かりました。確か王妃様が大袈裟に騒いでくれるんですよね?」
「ええ、もう王にもお話は通っています。わたくしは明日には婚約破棄されるでしょう。あとはよろしくお願い致します」
映像を消すと、驚いた顔のアウグスティン様が見えた。
「オルガ嬢……これは……」
「続きを見ますか?今ふたりが話した内容そのままの映像が流れますけど?」
「いや、必要ないです。つまりヒルデガルド嬢はわざとマリア嬢に熱湯をかけた……でもなぜ?」
アウグスティン様はその大きな瞳を、更に大きく見開いている。アウグスティン様はヒルデガルド嬢の表情は分かっていたけれど、これについては分かっていないらしい。
「ヒルデガルド嬢は男性恐怖症ですわ。攫われた時の弊害ですわね。ずっと治そうと努力していらしたけれど、もう婚約者である王太子様のエスコートすら辛かったのですわ。そして結婚まで半年となったところで、限界が来たのです。だから王太子妃に相応しい女性を探していたのですわ」
「……つまり、それがマリア嬢だと?」
「ええ、マリア嬢は国民の識字率を含めた学力を上げるために王太子に近づいたのです。そこに恋愛感情はありませんわ。自分の私欲のためではなく、国を良くするという目的のために盲信するマリア嬢を、ヒルデガルド嬢は王妃として相応しいと思ったのですわ。マナーなんて後から覚えれば良いだけですものね」
「……識字率、確かに父も今後は必要だと言っていました。貴族以外は一部の裕福な家を除いて文字が読めない。それは今後の国力の低下につながると。平民にも素晴らしい知恵をもつ人はたくさんいるのに、それを活かす教育機関がないのはおかしいと……。だから僕にも人を差別してはいけないと、そう教育されてきました」
アウグスティン様は身分の貴賤がない。それは父親の教育方針だったようだ。上位貴族であるアウグスティン様の家がそういった考えを持つと言うことは、この国の未来は明るいだろう。
「マリア嬢がそう言った方だとは知りませんでした。そしてヒルデガルド嬢の男性恐怖症のことも……。もしかして、だから僕との婚約になったのですか?」
流石、アウグスティン様は聡い。そこまで容易に思い至るとは。
「ええ、この時のヒルデガルド嬢は男性と結婚できませんでした。ですから他国からの求婚が殺到した際に、その真実を誤魔化すためにアウグスティン様との婚約が用意されたのです。アウグスティン様はまだ子供ですもの。今すぐ結婚には至らない。更にレーヴェンヒェルム公爵を継ぐもの。周りも意を唱えられない。条件としては完璧だったのです。アウグスティン様がヒルデガルド嬢をお好きな以外は……」
「つまりヒルデガルド嬢は元々僕と結婚する気などなかったのですね。だからいつも言葉遣いや女性への褒め言葉などを教えてくださっていたのですね。僕は……ヒルデガルド嬢に相応しい相手にさせるためだと思っていました」
勘違いしてたなんて……とぽつりと呟いてアウグスティン様は下を向く。その瞳からきらりと光る雫が落ちた。
「それなのに……僕は舞い上がって、あんな怖い思いまでさせてしまいました。最悪ですね」
「アウグスティン様はご立派でしたわ。ちゃんとヒルデガルド嬢を守っていらしたもの。勇敢でしたわ」
「ありがとうございます。ですがこのままではオルガ嬢は僕の願いを叶えることができませんね。真理の追求があるのに、僕の願いのために無駄な時間を過ごさなければいけなくなるなんて……。申しわけありません」
アウグスティン様の瞳からはポロポロと水の滴が落ちていく。もう隠す気もないようだ。腕でグイッと涙を拭く姿は大人のようで、やはり子供だ。
アウグスティン様は私の期待に十分に応えてくれた。陰口を囁く貴族を一蹴した。襲ってきた男から、ヒルデガルド嬢を守った。
もちろん、アウグスティン様の身体能力の高さは、近衛騎士団での動きから分かっていたけれど、咄嗟に動けるかどうかとは別だ。
アウグスティン様は愛する人を守った。まだ幼いのに勇敢に戦った。それだけで十分だ。本当は過呼吸で倒れたヒルデガルド嬢を介抱するまでいって欲しかったのだが、そこまでは望みすぎというものだ。
「アウグスティン様は私の話を聞いていらしたのかしら?魔女は必ず願いを叶えるものですわ。叶えるられるように願いを聞くと言ったでしょう?」
少し大袈裟にため息まじりに話す。美しい私のため息で、アウグスティン様が顔を上げるように。
「……だって、ヒルデガルド嬢は、男性恐怖症で……」
う…………、可愛いお顔がぐずぐずだわ。目なんて今にも涙で溶けてしまいそうじゃない。真面目に魔女として導こうとしていたのに、その気持ちを無くしてしまったわ。本当に悪いお坊ちゃんね。
「アウグスティン様の願いのひとつのは、答えを得ましたわね。そしてもうひとつの『ヒルデガルド嬢を相思相愛の相手と結ばせる』はもう終わっていますわ。ですから私の仕事はここでお終い。楽しかったですわ。一時のご主人、アウグスティン様」
「……ど、どういうこと……オルガ嬢!」
光の粒が私たちを包んでいく。契約を結んだ時と同じ、光の礫。キラキラとした光がアウグスティン様の豪華な部屋に広がっていく。薄暗い部屋に広がるそれは朝日に反射する朝露の雫の様であり、暗い闇夜を照らす星々の光の様でもある。
ここまで粘ったけれど、願いを履行されたと判断されてしまったのね。もう少し見ていたかったのに、とても残念だわ。
「相思相愛の相手があなたを待っていますわ。アウグスティン様……」
「…………え?」
アウグスティン様の目の前には開かれた扉がある。
「さぁ、愛するひとがお待ちですわ」
「過去の映像……あの事件の日の映像ですわ」
私の魔法によって現れた映像に映るのは、ヒルデガルド嬢とマリア嬢。ふたりは並んで歩きながら、王妃主催のガーデンパーティに向かおうとしている。
映像の中のヒルデガルド嬢はマリア嬢に語る。
「マリア様、私があなたにティカップの紅茶をかけます。周囲を納得させるために紅茶は熱いものをかけます。なるたけスカートにかけるように努力しますけれど、念のために避けるようにしてください」
「分かりました。確か王妃様が大袈裟に騒いでくれるんですよね?」
「ええ、もう王にもお話は通っています。わたくしは明日には婚約破棄されるでしょう。あとはよろしくお願い致します」
映像を消すと、驚いた顔のアウグスティン様が見えた。
「オルガ嬢……これは……」
「続きを見ますか?今ふたりが話した内容そのままの映像が流れますけど?」
「いや、必要ないです。つまりヒルデガルド嬢はわざとマリア嬢に熱湯をかけた……でもなぜ?」
アウグスティン様はその大きな瞳を、更に大きく見開いている。アウグスティン様はヒルデガルド嬢の表情は分かっていたけれど、これについては分かっていないらしい。
「ヒルデガルド嬢は男性恐怖症ですわ。攫われた時の弊害ですわね。ずっと治そうと努力していらしたけれど、もう婚約者である王太子様のエスコートすら辛かったのですわ。そして結婚まで半年となったところで、限界が来たのです。だから王太子妃に相応しい女性を探していたのですわ」
「……つまり、それがマリア嬢だと?」
「ええ、マリア嬢は国民の識字率を含めた学力を上げるために王太子に近づいたのです。そこに恋愛感情はありませんわ。自分の私欲のためではなく、国を良くするという目的のために盲信するマリア嬢を、ヒルデガルド嬢は王妃として相応しいと思ったのですわ。マナーなんて後から覚えれば良いだけですものね」
「……識字率、確かに父も今後は必要だと言っていました。貴族以外は一部の裕福な家を除いて文字が読めない。それは今後の国力の低下につながると。平民にも素晴らしい知恵をもつ人はたくさんいるのに、それを活かす教育機関がないのはおかしいと……。だから僕にも人を差別してはいけないと、そう教育されてきました」
アウグスティン様は身分の貴賤がない。それは父親の教育方針だったようだ。上位貴族であるアウグスティン様の家がそういった考えを持つと言うことは、この国の未来は明るいだろう。
「マリア嬢がそう言った方だとは知りませんでした。そしてヒルデガルド嬢の男性恐怖症のことも……。もしかして、だから僕との婚約になったのですか?」
流石、アウグスティン様は聡い。そこまで容易に思い至るとは。
「ええ、この時のヒルデガルド嬢は男性と結婚できませんでした。ですから他国からの求婚が殺到した際に、その真実を誤魔化すためにアウグスティン様との婚約が用意されたのです。アウグスティン様はまだ子供ですもの。今すぐ結婚には至らない。更にレーヴェンヒェルム公爵を継ぐもの。周りも意を唱えられない。条件としては完璧だったのです。アウグスティン様がヒルデガルド嬢をお好きな以外は……」
「つまりヒルデガルド嬢は元々僕と結婚する気などなかったのですね。だからいつも言葉遣いや女性への褒め言葉などを教えてくださっていたのですね。僕は……ヒルデガルド嬢に相応しい相手にさせるためだと思っていました」
勘違いしてたなんて……とぽつりと呟いてアウグスティン様は下を向く。その瞳からきらりと光る雫が落ちた。
「それなのに……僕は舞い上がって、あんな怖い思いまでさせてしまいました。最悪ですね」
「アウグスティン様はご立派でしたわ。ちゃんとヒルデガルド嬢を守っていらしたもの。勇敢でしたわ」
「ありがとうございます。ですがこのままではオルガ嬢は僕の願いを叶えることができませんね。真理の追求があるのに、僕の願いのために無駄な時間を過ごさなければいけなくなるなんて……。申しわけありません」
アウグスティン様の瞳からはポロポロと水の滴が落ちていく。もう隠す気もないようだ。腕でグイッと涙を拭く姿は大人のようで、やはり子供だ。
アウグスティン様は私の期待に十分に応えてくれた。陰口を囁く貴族を一蹴した。襲ってきた男から、ヒルデガルド嬢を守った。
もちろん、アウグスティン様の身体能力の高さは、近衛騎士団での動きから分かっていたけれど、咄嗟に動けるかどうかとは別だ。
アウグスティン様は愛する人を守った。まだ幼いのに勇敢に戦った。それだけで十分だ。本当は過呼吸で倒れたヒルデガルド嬢を介抱するまでいって欲しかったのだが、そこまでは望みすぎというものだ。
「アウグスティン様は私の話を聞いていらしたのかしら?魔女は必ず願いを叶えるものですわ。叶えるられるように願いを聞くと言ったでしょう?」
少し大袈裟にため息まじりに話す。美しい私のため息で、アウグスティン様が顔を上げるように。
「……だって、ヒルデガルド嬢は、男性恐怖症で……」
う…………、可愛いお顔がぐずぐずだわ。目なんて今にも涙で溶けてしまいそうじゃない。真面目に魔女として導こうとしていたのに、その気持ちを無くしてしまったわ。本当に悪いお坊ちゃんね。
「アウグスティン様の願いのひとつのは、答えを得ましたわね。そしてもうひとつの『ヒルデガルド嬢を相思相愛の相手と結ばせる』はもう終わっていますわ。ですから私の仕事はここでお終い。楽しかったですわ。一時のご主人、アウグスティン様」
「……ど、どういうこと……オルガ嬢!」
光の粒が私たちを包んでいく。契約を結んだ時と同じ、光の礫。キラキラとした光がアウグスティン様の豪華な部屋に広がっていく。薄暗い部屋に広がるそれは朝日に反射する朝露の雫の様であり、暗い闇夜を照らす星々の光の様でもある。
ここまで粘ったけれど、願いを履行されたと判断されてしまったのね。もう少し見ていたかったのに、とても残念だわ。
「相思相愛の相手があなたを待っていますわ。アウグスティン様……」
「…………え?」
アウグスティン様の目の前には開かれた扉がある。
「さぁ、愛するひとがお待ちですわ」
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