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第一章 ~新人研修~ヴィーギナウス編
第11話 「決着」
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「ここが魔王の居城…?」
「みたいね、あれだけの魔物が守護するように周りを飛び回っているのがその証拠でしょうね」
ルーク達は遠方そびえ立つ魔王城を前にして、どうやって攻略するか作戦会議を開いていた。
「とりあえず基本は隠密行動で敵に見つからないように行きましょう」
「同感でござるな。あの魔王と戦うのであれば消耗はわずかでも避けたい」
「私の光魔法で魔物を寄せ付けない結界を張りましょうか?」
「いや、それだとルルカさんだけに負担を背負わせちゃうから、ここは魔法は使わずに隠れながら進んで行こう」
「このあたりの魔物は夜行性の種類が少ないから今夜行動に移りましょう」
「はい、先生」
行動方針が決まるとルーク達は夜になるまで近くで見つけた洞窟に隠れながら交代で休息を取る事にし、最初にルークとルルカが仮眠を取る事になった。
ルークが寝たのを見計らい、シスイは道具の手入れをしているメアリーに近づくとここ数日で聞こうと思っていた疑問を投げかける。
「メアリー殿、少しよろしいか?」
「なにかしらシスイ?」
「その、ルーク殿の様子が少し前からおかしいのだが、メアリー殿はなにか知らぬか?」
「あぁ簡単よ、私とあの子の間でちょっとあってね。それで落ち込んでるの」
「ちょっとってなんですか!?」
「ルルカ殿? 寝たのではなかったのか?」
「そんなことどうでもいいです! それよりもルーク様が落ち込む事って一体なにがあったんですか? まさか…は、はじめての…!? それでもって失敗したとか!?」
「その発言、聖職者としてどうなの? というかルルカが考えているような出来事はなかったわよ」
「じゃあ何があったんですか!? やましい事が無いなら教えて下さい!!」
「……まぁ別に口止めされてないしいいか、告白されたのよ。結婚してくれって」
「えぇぇ~~ルーク様からの告白~~?!?!?」
「ほぉ、なるほど、それで落ち込んでいるということはつまり…、」
「えぇ、断ったの」
「な、なんてもったいない! もとい、ひどい事を! ルーク様は勇者として世界を守る為にその身を犠牲にして頑張っているのですよ!? 女性としてこんな素敵な男性からの申し出を断るなんて…」
「言っとくけど、私はずっとあんた達やルークと一緒に居られるわけじゃないの。こっちにも都合があるのよ」
「その都合というのは話してもらえるのでござるか?」
「言う気はないわ」
「そんな! 理由すら言わないなんて!」
「ルルカ殿落ち着かれよ。メアリー殿にもなにか事情があるのでござろう」
「……二人には申し訳ないけど、こればっかりは話せないわ。それよりもルルカ、これをあなたに受け取ってほしいの」
そう言うとメアリーは懐から小さなメモを取り出してルルカに渡してきた。
「あなたからは何も受け取りたくありません」
「そう言うとは思ってたけど、お願い、持っていて。ルークの命に関わるから」
「ルーク様の命に?」
「どういう事でござるか?」
「あの子、厄介な病気に掛かっちゃっててね。この製法通りの薬湯を定期的に飲まないと多分、数年で死んじゃうと思うの」
「そんな、ルーク様はそんな事一言も……」
「本人にはまだ伝えてないわ、気づいてるのは私だけ。今伝えたらもしかすると魔王と戦う時、道連れに死んじゃいそうな気がしてね」
「なるほど、先が無いと悟った武人が自らの身を犠牲にして勝利を残す逸話は数多くあるでござるからな」
「私は事情があってこの先、あの子のそばにいてあげられない。だからこの役はルルカ、あなたにしか頼めないのよ」
「…………分かりました。ルーク様のご病気は私が責任を持って看病してみせます」
「うむ、拙者もルーク殿の事はたとえ何があろうと最後まで守らせてもらうでござるよ」
「……お願いね」
(よし、これであの子の寿命に関してはルルカの薬湯で多少引き伸ばしができるわ。償いにすらなってないけど、魔王を倒した後の人生を少しくらいは楽しめるでしょ)
それから全員が仮眠を終え、陽が落ちるとルーク達は行動を開始した。
魔王城までのルートは魔物の大半が寝静まっていることで楽に突破することができ、城の外壁はメアリーの魔法で地面に穴を開けることで無事気づかれることなく侵入できた。
「思ったよりも中は普通ですね」
「たしかに、まるでどこかの国のお城みたいだ。生け花まで飾ってある」
「魔物達の主にしては調度品もそれなりに揃っているでござるな」
(あいつ~、私の留守中になにやってるのよ)
城内を4人が進んで行くと、大きな扉の前にあからさまに怪しい看板を見つける。
【魔王の間】
「どう思う?」
「罠、と言うには少々子供だましな気がしますが」
「とはいえ、こうもわかりやすく書いておくものだろうか?」
「いいからさっさと開けるわよ」
「え? あ、先生!」
メアリーが無遠慮に扉をあけ放つと、その奥には見覚えのある人物が玉座に座っていた。
「よく来たな勇者ルークとその仲間達よ」
「ま、魔王」
「あれが魔王デスフレアなのですか?」
「そうでござるルルカ殿、油断召されるな」
全員が戦闘体勢に入り、魔王デスフレアも玉座から立ち戦うための構えを取る。
「さあ、互いの全力を尽くした戦いを始めよう!!」
―――――――――――――――――――――――――
魔王デスフレアが現われた!
勇者ルークの攻撃!
魔王デスフレアに25のダメージ!
侍シスイの攻撃!
魔王デスフレアに35のダメージ!
僧侶ルルカはヒールサークルを唱えた。
全員の体力が徐々に50ずつ回復しだした。
魔法使いメアリーは強化魔法を唱えた。
勇者ルークの全能力が500UPした。
「う、ぐっ、ひ、久々の強化魔法はきついなぁ」
「これが最後の戦いだから耐えなさい」
「は、はい」
・
・
・
・
・
・
十数ターン経過
・
・
・
・
・
・
勇者ルークの攻撃! 全力斬り!
魔王に500のダメージ!
魔王デスフレアを倒した。
―――――――――――――――――――――――――
「ぐはぁ、や、やるな。この戦いお前たちの勝利だ。だがまたいつか我のような力を持ったものが必ず現れる。その時お前たちは勝てるかな?」
「なら何度でも倒すまでだ」
「そうです!」
「人をなめるでないでござる」
「………」
「ふ、ならばこれはどうする!」
デスフレアは黒い靄のような物を撃ち出すとそれはまっすぐにメアリーに命中して彼女を包み込む。
「な、なにを」
「ふふ、その目で確かめるといい」
最後の捨て台詞を言い終えると、デスフレアは自らの身を炎に包ませて灰になっていった。
「先生、無事ですか?」
「………ふ、」
「ふ?」
「ふははははははは、触るな愚か者が!」
「せ、先生?」
「我は魔王デスフレアよ、この身体は我がもらったぁ!」
「な、まさか身体を乗っ取ったのか!?」
「そうだ、貴様が油断したからこうなったのだ」
「くそ、先生の身体から出ていけ!」
「無理な相談だな。さあ、この女の魔法で死ぬがいい! ……なに?」
杖を構え魔法を放とうとしたメアリー(デスフレア?)は魔法が発動せずうろたえる。
「知らなかったのか、先生は昔受けた呪いで攻撃魔法が使えないんだ」
「なにい! くそぅ、この身体を選んだのは失敗だったか」
「ルルカさん、今の内になにか先生を助ける方法を」
「わ、私では魔王に乗っ取られた人間を元に戻すなんて方法は分かりません」
「拙者にもわからんでござる」
「そんな、一体どうしたら」
「ぐうぅぅぅ、ひ、引っ込んでいろ、出てくるなぁぁ」
ルーク達がメアリーを救う方法を考えていると急にメアリー(デスフレア?)が苦しみだし、頭を抱えて唸り始めた。
「はあ、はあ、はあ、ル、ルーク、」
「先生!?」
「今すぐ、私ごと魔王を倒しなさい」
「なに言ってるんですか先生!?」
「これが最後なのよ! 私がまだ私でいるうちに終わらせなさい!!」
「で、でも、」
「……お願い、あなたが勇者として世界を救うところを私にも見せて、私の手で世界を終わりにさせないで」
「い、いやだ、先生を殺して手に入れる世界なんて、そんなの、そんなの……、」
「ルーク様、ここは私が」
「いや、ここは拙者が」
「ま、待って! 二人とも待って!」
ルークの苦悩を察してシスイとルルカは汚れ役を買って出ようとするが、ルークはそれすら決められず、メアリーと二人の間に立つ。
「お願いだ、あと少しでいい、ボクに時間をくれ! まだなにか先生を助ける方法が」
「どうにもならない事もあるって教えたハズよ、ルーク」
「…………うぅ、」
「いいからさっさとやれ! もう意識が限界よ! ここで決着付けなさい!」
「うぅわぁぁぁぁぁぁぁぁ先生!」
ルークは握っていた剣を大きく上段に構えると、大粒の涙をこぼしながら一気に振り下ろした。
「上出来よ。頑張ったわねルーク」
メアリーの最後の言葉はいつもと変わらない弟子への褒め言葉だったが、その一言だけはルークは絶対に忘れないと心に誓った。
「さあ、かの者に祝福を! 目覚めなさい!」
ゴトッ、
棺の蓋が開き、中から復活したメアリーベルが出てくると、先に復活していたデスフレアが駆け寄ってくる。
「せんぱーい、死んでしまうとはお疲れ様で~す」
「はいお疲れ~」
「にしても迫真の演技でしたね~」
「言わないで」
「「私がまだ私でいるうちに終わらせなさい」なんて中二みたいなセリフリアルで言う魔族初めてみました。それに~」
「言うなつってんだろおらぁ!」
「へぐっ!」
メアリーベルのストレートが綺麗にデスフレアの顎に命中し、強制的にデスフレアの言葉は中断させられた。
「さーて、少しは後日談もみとかないとね、邪神官さんヴィーギナウスの方は?」
「とりあえず魔物の駆逐状況は問題ないですね。勇者とその仲間も無事、国に帰ったみたいです」
「ふむふむ、とりあえずはハッピーエンドね。あ、そう言えばもう一つの件はどうなってる?」
「課長の弱みの件ですか? あの人交友関係が男も女も開けっぴろげすぎてスキャンダルとか脅しのネタになるものが見当たらないんですけど」
「そこをどうにかできないの? ほら、課長にとっての特別な人とか」
「……引き続き探ってはみます」
「お願いね」
「ところで先輩、何個か質問良いですか?」
「なに?」
「わたしは魔王役だから当然ですけど、どうして先輩まで勇者に倒される必要があったんですか?」
「あぁ、だってそうしないとルークの奴魔王戦の後もずっと付いてきそうだったからね。適当なとこで自害するっていうのも面倒だったし、だから一芝居打ったのよ」
「追加で魔族のギリウさんを呼んだのは?」
「どんな時も辛い決断をしなきゃいけない時はあるってのを教える為。ま、私を殺す予習みたいなものよ」
「なんていうかやり方が回りくどいですね」
「うっさい。弟子にしちゃった後で後腐れなく別れるにはどうしたらいいか考えたらこれ以外に方法が思い浮かばなかったのよ」
デスフレアにつっこみを入れつつメアリーベルは課長への報告をしに邪神教会を出て第三魔王課へと歩いて行った。
「しかし、あの勇者さん、大分思いつめた顔してますけど大丈夫ですかね~」
邪神官の独り言は部屋を出た二人には届かず、室内にこだまするのみだった。
~数週間後~
「メアリーさん、邪神様の呼び出しが来てますよ」
「え!? 邪神様が!?!?」
「多分この間のヴィーギナウスの件でしょうけど、なにか思い当たる事あります?」
「う~んと、特に違反行為はなかったし、禁止シリーズも抵触してるものはないハズ、……デスフレア、あんた何かしてないでしょうね?」
「えぇ!? わたしですか? 特に心当たりはないですけど」
「とにかく呼ばれてる以上行くしかないか」
―邪神人材派遣会社 社長室 邪神の間―
「失礼します。第三魔王課係長メアリーベル入ります」
「同じく第三魔王課新人のデスフレア入ります」
「よく来た。魔王メアリーベル、魔王デスフレアよ」
「ご用命はなんでしょうか?」
「うむ、実は以前から人手不足の解消と同時進行で新たな事業を始めようと準備していたのだが、その第一歩となる新プロジェクトに君たちにも参加してほしい」
「新プロジェクト、ですか?」
「それって私みたいな新人が入って良いものなんですか?」
「このプロジェクトに能力は問わない。まだ実験段階だからな。だが、君たちはぜひとも参加してほしい人材の為、こうして直接話をしている」
「すごい、先輩、これって大抜擢ですよ!」
「デスフレア、邪神様の前よ。落ち着きなさい」
「は、は~い」
「それでその新プロジェクトとはどういった内容なのでしょうか」
「うむ、君たちも知っているように我が邪神人材派遣会社では魔族や魔王を仮想脅威として各世界に派遣する事業を手掛けているが、それにはトラブルが付き物だ」
「はい、我々もつい先ほど派遣されていたヴィーギナウス世界ではいろいろと問題がありました」
「そう、そこで仕事のトラブルを限りなく減らし、円滑に魔王資格者たちが戻ってこられるようにする為、私はもう一つの職種を雇うことにしたのだ」
「もう一つの職種?」
「ああ、勇者だ」
「はい~~?!?」
「驚くのも無理はない、私も最初は勇者を確保する難しさからこのプロジェクトをあきらめかけたくらいだ。だが、メアリーくん、君の中間報告で目処が立ったのだ」
「わ、わたしの中間報告がですか?」
「ああ、今回の君たちの新人研修先のトラブル、あれはどう見てもあちら側のミスだ。しかしその穴埋めとなる代償を向こうはなにも支払っていない事が君の報告書からわかってね。おかげで向こうの神ととても良い交渉ができたよ」
「も、もしかして新たに雇う勇者って?」
「うむ、どうも平和になったあと、彼は自分の居場所をあの世界に見いだせなかったようでな。自分で命を絶ったのであまり待たずに勧誘できた。入りたまえ!」
「失礼します。勇者ルーク・ミラクスです」
「ル、ルーク、」
「お久しぶりです先生。いや魔王メアリーベル様」
「メ、メアリーベル様!? ぶっは、やばいツボったww」
「黙ってなさいデスフレア」ドゴッ
脳天からの撃ち落ろしを受けたデスフレアは邪神の間の床におもいっきり顔をめり込ませて静かになった。
「い、いふぁいです~」
「ルーク、あんたどうしてこの仕事を引き受けたの」
「自分で命を絶った後、邪神様が来て、先生にもう一度会えると教えてもらったからです」
「そんなふざけた理由で仕事を選んで良いと思ってんの!? ただ勇者として戦えばいいだろうみたいな甘い考えならいますぐ帰りなさい!! 私が天国だろうが地獄だろうが送ってやるわ!!!」
「帰りません。ボクはもう先生と離れたくありません」
「よーく分かった。なら今すぐ私がこの手で」
魔王としての力を十二分に発揮したメアリーベルは雷速の速さで距離を詰め、手から生やした爪をルークの前に突き付けた。
「反応くらいしなさいよ。そのまま死ぬ気?」
「はい、先生に殺されるならそれでも構いません」
「言っとくけど、ここで殺されてもヴィーギナウスみたいに復活させてもらえるなんて思わないでね?」
「いえ、たとえこれで終わったとしてももう先生を自分の手で傷つけるくらいなら先生に殺された方がずっと良いです」
「…………あ~こうなりたくなかったからあんな回りくどい死に方したのに。どうしてあんたまでこっちに来ちゃうかな~~」
「すいません先生。邪神様から事の経緯は全て聞きました。先生もボクや世界の為に色々頑張ってくれてたんですよね」
「っていっても仕事だし、むしろあんたの世界には本来起きなくて良い戦いや人死にも出てるのよ? 恨まれこそすれ、感謝されるいわれはないわ」
「いえ、先生たちの仕事が無ければ、いつか本当の悪の魔王に世界全てが蹂躙されていたハズです。今回の事でヴィーギナウスは生き残れるだけの強さを手に入れたと考えれば感謝してもしたりません」
「……なんだかむず痒くなるからそれ以上は言わないで」
「はい先生」
「ところで邪神様、ルークにさせる仕事と言うのはもしかして、」
「ああ、魔王派遣のオプションとしてセットで勇者も派遣できるようにするための要員だ。勇者としての力は私から提供するので神の加護によるトラブルは一気に解消する見込みだよ」
「完全にマッチポンプですね」
「そこ、思ってても言わない」
「でも先輩、これって」
「オプションを付けるかどうかは依頼主が決める事だし、現行の派遣業規定にはなんら抵触していないよ。だから大丈夫」
「ほら、邪神様がそう言ってるんだから、下っ端は口出ししない」
「は~い」
「ではメアリーベル君、大変だとは思うが新人2人の指導頼んだよ。ルーク君の件に関してはいまだ手探りなので失敗しても構わないから逐一報告を頼む」
「は、はい、分かりました」
「では、正式な書面も後で渡すが辞令を言い渡す。メアリーベル、デスフレア、ルーク・ミラクスの三名は新たに新設される魔王勇者課に配属とする。メアリーベルは課長に就任し、他の者を引っ張って行くように。以上」
「へ? 課長? 私が?」
「先輩やりましたね! 出世ですよ出世!」
「先生すごいです!」
あまりに突然の昇進にメアリーベルは驚きを隠せずにいたが、呼吸を整えると姿勢をただし、邪神様に見苦しい姿を見られない様努めて部屋から出た。
「……よ、よーし、あんた達、付いてきなさい」
「はい!」
「どこまでもお供します先生!」
「ルーク、それあんたが言われる台詞でしょ」
魔王と勇者のマッチポンプ、もとい、派遣業務はまだ始まったばかりだ。
「みたいね、あれだけの魔物が守護するように周りを飛び回っているのがその証拠でしょうね」
ルーク達は遠方そびえ立つ魔王城を前にして、どうやって攻略するか作戦会議を開いていた。
「とりあえず基本は隠密行動で敵に見つからないように行きましょう」
「同感でござるな。あの魔王と戦うのであれば消耗はわずかでも避けたい」
「私の光魔法で魔物を寄せ付けない結界を張りましょうか?」
「いや、それだとルルカさんだけに負担を背負わせちゃうから、ここは魔法は使わずに隠れながら進んで行こう」
「このあたりの魔物は夜行性の種類が少ないから今夜行動に移りましょう」
「はい、先生」
行動方針が決まるとルーク達は夜になるまで近くで見つけた洞窟に隠れながら交代で休息を取る事にし、最初にルークとルルカが仮眠を取る事になった。
ルークが寝たのを見計らい、シスイは道具の手入れをしているメアリーに近づくとここ数日で聞こうと思っていた疑問を投げかける。
「メアリー殿、少しよろしいか?」
「なにかしらシスイ?」
「その、ルーク殿の様子が少し前からおかしいのだが、メアリー殿はなにか知らぬか?」
「あぁ簡単よ、私とあの子の間でちょっとあってね。それで落ち込んでるの」
「ちょっとってなんですか!?」
「ルルカ殿? 寝たのではなかったのか?」
「そんなことどうでもいいです! それよりもルーク様が落ち込む事って一体なにがあったんですか? まさか…は、はじめての…!? それでもって失敗したとか!?」
「その発言、聖職者としてどうなの? というかルルカが考えているような出来事はなかったわよ」
「じゃあ何があったんですか!? やましい事が無いなら教えて下さい!!」
「……まぁ別に口止めされてないしいいか、告白されたのよ。結婚してくれって」
「えぇぇ~~ルーク様からの告白~~?!?!?」
「ほぉ、なるほど、それで落ち込んでいるということはつまり…、」
「えぇ、断ったの」
「な、なんてもったいない! もとい、ひどい事を! ルーク様は勇者として世界を守る為にその身を犠牲にして頑張っているのですよ!? 女性としてこんな素敵な男性からの申し出を断るなんて…」
「言っとくけど、私はずっとあんた達やルークと一緒に居られるわけじゃないの。こっちにも都合があるのよ」
「その都合というのは話してもらえるのでござるか?」
「言う気はないわ」
「そんな! 理由すら言わないなんて!」
「ルルカ殿落ち着かれよ。メアリー殿にもなにか事情があるのでござろう」
「……二人には申し訳ないけど、こればっかりは話せないわ。それよりもルルカ、これをあなたに受け取ってほしいの」
そう言うとメアリーは懐から小さなメモを取り出してルルカに渡してきた。
「あなたからは何も受け取りたくありません」
「そう言うとは思ってたけど、お願い、持っていて。ルークの命に関わるから」
「ルーク様の命に?」
「どういう事でござるか?」
「あの子、厄介な病気に掛かっちゃっててね。この製法通りの薬湯を定期的に飲まないと多分、数年で死んじゃうと思うの」
「そんな、ルーク様はそんな事一言も……」
「本人にはまだ伝えてないわ、気づいてるのは私だけ。今伝えたらもしかすると魔王と戦う時、道連れに死んじゃいそうな気がしてね」
「なるほど、先が無いと悟った武人が自らの身を犠牲にして勝利を残す逸話は数多くあるでござるからな」
「私は事情があってこの先、あの子のそばにいてあげられない。だからこの役はルルカ、あなたにしか頼めないのよ」
「…………分かりました。ルーク様のご病気は私が責任を持って看病してみせます」
「うむ、拙者もルーク殿の事はたとえ何があろうと最後まで守らせてもらうでござるよ」
「……お願いね」
(よし、これであの子の寿命に関してはルルカの薬湯で多少引き伸ばしができるわ。償いにすらなってないけど、魔王を倒した後の人生を少しくらいは楽しめるでしょ)
それから全員が仮眠を終え、陽が落ちるとルーク達は行動を開始した。
魔王城までのルートは魔物の大半が寝静まっていることで楽に突破することができ、城の外壁はメアリーの魔法で地面に穴を開けることで無事気づかれることなく侵入できた。
「思ったよりも中は普通ですね」
「たしかに、まるでどこかの国のお城みたいだ。生け花まで飾ってある」
「魔物達の主にしては調度品もそれなりに揃っているでござるな」
(あいつ~、私の留守中になにやってるのよ)
城内を4人が進んで行くと、大きな扉の前にあからさまに怪しい看板を見つける。
【魔王の間】
「どう思う?」
「罠、と言うには少々子供だましな気がしますが」
「とはいえ、こうもわかりやすく書いておくものだろうか?」
「いいからさっさと開けるわよ」
「え? あ、先生!」
メアリーが無遠慮に扉をあけ放つと、その奥には見覚えのある人物が玉座に座っていた。
「よく来たな勇者ルークとその仲間達よ」
「ま、魔王」
「あれが魔王デスフレアなのですか?」
「そうでござるルルカ殿、油断召されるな」
全員が戦闘体勢に入り、魔王デスフレアも玉座から立ち戦うための構えを取る。
「さあ、互いの全力を尽くした戦いを始めよう!!」
―――――――――――――――――――――――――
魔王デスフレアが現われた!
勇者ルークの攻撃!
魔王デスフレアに25のダメージ!
侍シスイの攻撃!
魔王デスフレアに35のダメージ!
僧侶ルルカはヒールサークルを唱えた。
全員の体力が徐々に50ずつ回復しだした。
魔法使いメアリーは強化魔法を唱えた。
勇者ルークの全能力が500UPした。
「う、ぐっ、ひ、久々の強化魔法はきついなぁ」
「これが最後の戦いだから耐えなさい」
「は、はい」
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十数ターン経過
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勇者ルークの攻撃! 全力斬り!
魔王に500のダメージ!
魔王デスフレアを倒した。
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「ぐはぁ、や、やるな。この戦いお前たちの勝利だ。だがまたいつか我のような力を持ったものが必ず現れる。その時お前たちは勝てるかな?」
「なら何度でも倒すまでだ」
「そうです!」
「人をなめるでないでござる」
「………」
「ふ、ならばこれはどうする!」
デスフレアは黒い靄のような物を撃ち出すとそれはまっすぐにメアリーに命中して彼女を包み込む。
「な、なにを」
「ふふ、その目で確かめるといい」
最後の捨て台詞を言い終えると、デスフレアは自らの身を炎に包ませて灰になっていった。
「先生、無事ですか?」
「………ふ、」
「ふ?」
「ふははははははは、触るな愚か者が!」
「せ、先生?」
「我は魔王デスフレアよ、この身体は我がもらったぁ!」
「な、まさか身体を乗っ取ったのか!?」
「そうだ、貴様が油断したからこうなったのだ」
「くそ、先生の身体から出ていけ!」
「無理な相談だな。さあ、この女の魔法で死ぬがいい! ……なに?」
杖を構え魔法を放とうとしたメアリー(デスフレア?)は魔法が発動せずうろたえる。
「知らなかったのか、先生は昔受けた呪いで攻撃魔法が使えないんだ」
「なにい! くそぅ、この身体を選んだのは失敗だったか」
「ルルカさん、今の内になにか先生を助ける方法を」
「わ、私では魔王に乗っ取られた人間を元に戻すなんて方法は分かりません」
「拙者にもわからんでござる」
「そんな、一体どうしたら」
「ぐうぅぅぅ、ひ、引っ込んでいろ、出てくるなぁぁ」
ルーク達がメアリーを救う方法を考えていると急にメアリー(デスフレア?)が苦しみだし、頭を抱えて唸り始めた。
「はあ、はあ、はあ、ル、ルーク、」
「先生!?」
「今すぐ、私ごと魔王を倒しなさい」
「なに言ってるんですか先生!?」
「これが最後なのよ! 私がまだ私でいるうちに終わらせなさい!!」
「で、でも、」
「……お願い、あなたが勇者として世界を救うところを私にも見せて、私の手で世界を終わりにさせないで」
「い、いやだ、先生を殺して手に入れる世界なんて、そんなの、そんなの……、」
「ルーク様、ここは私が」
「いや、ここは拙者が」
「ま、待って! 二人とも待って!」
ルークの苦悩を察してシスイとルルカは汚れ役を買って出ようとするが、ルークはそれすら決められず、メアリーと二人の間に立つ。
「お願いだ、あと少しでいい、ボクに時間をくれ! まだなにか先生を助ける方法が」
「どうにもならない事もあるって教えたハズよ、ルーク」
「…………うぅ、」
「いいからさっさとやれ! もう意識が限界よ! ここで決着付けなさい!」
「うぅわぁぁぁぁぁぁぁぁ先生!」
ルークは握っていた剣を大きく上段に構えると、大粒の涙をこぼしながら一気に振り下ろした。
「上出来よ。頑張ったわねルーク」
メアリーの最後の言葉はいつもと変わらない弟子への褒め言葉だったが、その一言だけはルークは絶対に忘れないと心に誓った。
「さあ、かの者に祝福を! 目覚めなさい!」
ゴトッ、
棺の蓋が開き、中から復活したメアリーベルが出てくると、先に復活していたデスフレアが駆け寄ってくる。
「せんぱーい、死んでしまうとはお疲れ様で~す」
「はいお疲れ~」
「にしても迫真の演技でしたね~」
「言わないで」
「「私がまだ私でいるうちに終わらせなさい」なんて中二みたいなセリフリアルで言う魔族初めてみました。それに~」
「言うなつってんだろおらぁ!」
「へぐっ!」
メアリーベルのストレートが綺麗にデスフレアの顎に命中し、強制的にデスフレアの言葉は中断させられた。
「さーて、少しは後日談もみとかないとね、邪神官さんヴィーギナウスの方は?」
「とりあえず魔物の駆逐状況は問題ないですね。勇者とその仲間も無事、国に帰ったみたいです」
「ふむふむ、とりあえずはハッピーエンドね。あ、そう言えばもう一つの件はどうなってる?」
「課長の弱みの件ですか? あの人交友関係が男も女も開けっぴろげすぎてスキャンダルとか脅しのネタになるものが見当たらないんですけど」
「そこをどうにかできないの? ほら、課長にとっての特別な人とか」
「……引き続き探ってはみます」
「お願いね」
「ところで先輩、何個か質問良いですか?」
「なに?」
「わたしは魔王役だから当然ですけど、どうして先輩まで勇者に倒される必要があったんですか?」
「あぁ、だってそうしないとルークの奴魔王戦の後もずっと付いてきそうだったからね。適当なとこで自害するっていうのも面倒だったし、だから一芝居打ったのよ」
「追加で魔族のギリウさんを呼んだのは?」
「どんな時も辛い決断をしなきゃいけない時はあるってのを教える為。ま、私を殺す予習みたいなものよ」
「なんていうかやり方が回りくどいですね」
「うっさい。弟子にしちゃった後で後腐れなく別れるにはどうしたらいいか考えたらこれ以外に方法が思い浮かばなかったのよ」
デスフレアにつっこみを入れつつメアリーベルは課長への報告をしに邪神教会を出て第三魔王課へと歩いて行った。
「しかし、あの勇者さん、大分思いつめた顔してますけど大丈夫ですかね~」
邪神官の独り言は部屋を出た二人には届かず、室内にこだまするのみだった。
~数週間後~
「メアリーさん、邪神様の呼び出しが来てますよ」
「え!? 邪神様が!?!?」
「多分この間のヴィーギナウスの件でしょうけど、なにか思い当たる事あります?」
「う~んと、特に違反行為はなかったし、禁止シリーズも抵触してるものはないハズ、……デスフレア、あんた何かしてないでしょうね?」
「えぇ!? わたしですか? 特に心当たりはないですけど」
「とにかく呼ばれてる以上行くしかないか」
―邪神人材派遣会社 社長室 邪神の間―
「失礼します。第三魔王課係長メアリーベル入ります」
「同じく第三魔王課新人のデスフレア入ります」
「よく来た。魔王メアリーベル、魔王デスフレアよ」
「ご用命はなんでしょうか?」
「うむ、実は以前から人手不足の解消と同時進行で新たな事業を始めようと準備していたのだが、その第一歩となる新プロジェクトに君たちにも参加してほしい」
「新プロジェクト、ですか?」
「それって私みたいな新人が入って良いものなんですか?」
「このプロジェクトに能力は問わない。まだ実験段階だからな。だが、君たちはぜひとも参加してほしい人材の為、こうして直接話をしている」
「すごい、先輩、これって大抜擢ですよ!」
「デスフレア、邪神様の前よ。落ち着きなさい」
「は、は~い」
「それでその新プロジェクトとはどういった内容なのでしょうか」
「うむ、君たちも知っているように我が邪神人材派遣会社では魔族や魔王を仮想脅威として各世界に派遣する事業を手掛けているが、それにはトラブルが付き物だ」
「はい、我々もつい先ほど派遣されていたヴィーギナウス世界ではいろいろと問題がありました」
「そう、そこで仕事のトラブルを限りなく減らし、円滑に魔王資格者たちが戻ってこられるようにする為、私はもう一つの職種を雇うことにしたのだ」
「もう一つの職種?」
「ああ、勇者だ」
「はい~~?!?」
「驚くのも無理はない、私も最初は勇者を確保する難しさからこのプロジェクトをあきらめかけたくらいだ。だが、メアリーくん、君の中間報告で目処が立ったのだ」
「わ、わたしの中間報告がですか?」
「ああ、今回の君たちの新人研修先のトラブル、あれはどう見てもあちら側のミスだ。しかしその穴埋めとなる代償を向こうはなにも支払っていない事が君の報告書からわかってね。おかげで向こうの神ととても良い交渉ができたよ」
「も、もしかして新たに雇う勇者って?」
「うむ、どうも平和になったあと、彼は自分の居場所をあの世界に見いだせなかったようでな。自分で命を絶ったのであまり待たずに勧誘できた。入りたまえ!」
「失礼します。勇者ルーク・ミラクスです」
「ル、ルーク、」
「お久しぶりです先生。いや魔王メアリーベル様」
「メ、メアリーベル様!? ぶっは、やばいツボったww」
「黙ってなさいデスフレア」ドゴッ
脳天からの撃ち落ろしを受けたデスフレアは邪神の間の床におもいっきり顔をめり込ませて静かになった。
「い、いふぁいです~」
「ルーク、あんたどうしてこの仕事を引き受けたの」
「自分で命を絶った後、邪神様が来て、先生にもう一度会えると教えてもらったからです」
「そんなふざけた理由で仕事を選んで良いと思ってんの!? ただ勇者として戦えばいいだろうみたいな甘い考えならいますぐ帰りなさい!! 私が天国だろうが地獄だろうが送ってやるわ!!!」
「帰りません。ボクはもう先生と離れたくありません」
「よーく分かった。なら今すぐ私がこの手で」
魔王としての力を十二分に発揮したメアリーベルは雷速の速さで距離を詰め、手から生やした爪をルークの前に突き付けた。
「反応くらいしなさいよ。そのまま死ぬ気?」
「はい、先生に殺されるならそれでも構いません」
「言っとくけど、ここで殺されてもヴィーギナウスみたいに復活させてもらえるなんて思わないでね?」
「いえ、たとえこれで終わったとしてももう先生を自分の手で傷つけるくらいなら先生に殺された方がずっと良いです」
「…………あ~こうなりたくなかったからあんな回りくどい死に方したのに。どうしてあんたまでこっちに来ちゃうかな~~」
「すいません先生。邪神様から事の経緯は全て聞きました。先生もボクや世界の為に色々頑張ってくれてたんですよね」
「っていっても仕事だし、むしろあんたの世界には本来起きなくて良い戦いや人死にも出てるのよ? 恨まれこそすれ、感謝されるいわれはないわ」
「いえ、先生たちの仕事が無ければ、いつか本当の悪の魔王に世界全てが蹂躙されていたハズです。今回の事でヴィーギナウスは生き残れるだけの強さを手に入れたと考えれば感謝してもしたりません」
「……なんだかむず痒くなるからそれ以上は言わないで」
「はい先生」
「ところで邪神様、ルークにさせる仕事と言うのはもしかして、」
「ああ、魔王派遣のオプションとしてセットで勇者も派遣できるようにするための要員だ。勇者としての力は私から提供するので神の加護によるトラブルは一気に解消する見込みだよ」
「完全にマッチポンプですね」
「そこ、思ってても言わない」
「でも先輩、これって」
「オプションを付けるかどうかは依頼主が決める事だし、現行の派遣業規定にはなんら抵触していないよ。だから大丈夫」
「ほら、邪神様がそう言ってるんだから、下っ端は口出ししない」
「は~い」
「ではメアリーベル君、大変だとは思うが新人2人の指導頼んだよ。ルーク君の件に関してはいまだ手探りなので失敗しても構わないから逐一報告を頼む」
「は、はい、分かりました」
「では、正式な書面も後で渡すが辞令を言い渡す。メアリーベル、デスフレア、ルーク・ミラクスの三名は新たに新設される魔王勇者課に配属とする。メアリーベルは課長に就任し、他の者を引っ張って行くように。以上」
「へ? 課長? 私が?」
「先輩やりましたね! 出世ですよ出世!」
「先生すごいです!」
あまりに突然の昇進にメアリーベルは驚きを隠せずにいたが、呼吸を整えると姿勢をただし、邪神様に見苦しい姿を見られない様努めて部屋から出た。
「……よ、よーし、あんた達、付いてきなさい」
「はい!」
「どこまでもお供します先生!」
「ルーク、それあんたが言われる台詞でしょ」
魔王と勇者のマッチポンプ、もとい、派遣業務はまだ始まったばかりだ。
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