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氷樹の森の大賢者
8.剣を構えよ
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思わぬ夜更かしをしてしまった翌日、朝日で目が覚めたものの足りない睡眠時間から襲いかかる睡魔には勝てず、私はベッドの中に潜りなおした。
何やら自分以外の柔らかい感触と嗅ぎ慣れない強い草の香りがしたが、寝床の暖かさに再び訪れた眠気には争い難く再びまどろみの中に沈んでいく。
一瞬だけ、自分以外の柔らかいものってなんだという疑問が浮かび上がったけど、睡魔には勝てなかったよ。
それからどれぐらい経っただろうか、太陽が天頂に届いていないところから見るにまだ昼前か、さすがにそろそろ寝床から出るかと体を起こそうとして、隣で寝ている人の存在をようやく認識した。
よく見なくても髪の色でノフィカだとわかるのだが、なぜか服を着たままベッドに寝転がっている。
今私が使わせてもらっている家がそもそも村のもので、何かあった時とかにちょっと使われたりしていたらしいから借りてる私としては特に何も言えないんだけども……。
「状況がわからんな?」
ノフィカは村長の宅で一緒に暮らしているはずだ。
家族とかではなく来客対応と普段の村長の世話があるからだそうだが。
なぜここにいるのだろうか、というかこの匂いの出どころはノフィカか?
ナナフシジャコウソウを乾燥させる作業がどうとかいっていたが、まさか丸一日がかりだったのだろうか?
だとしたらこのまま寝かせてあげた方がいいかな。
そっと音を立てずに動くことを意識すれば、幻惑の舞姫のスキルの恩恵で彼女を起こすことなく、それどころか物音一つ立てずベッドから抜け出すことができた。
軽く身支度を整えて外に体でも動かしに行くことにしよう。
「リーシア、ちょっといいか?」
ゼフィアが使っているという訓練場所に足を運んでみたところ、彼と鉢合わせした。
訓練場所と言っても藁と縄を巻いた案山子が立っていたり、木の枝から吊るされたロープとその先に棒が結び付けられているものがあるという程度なのだが。
腰から下げた剣以外にも小さめの荷物を別に持っているようだが、何か用だろうか。
「一昨日のコボルトの事覚えてるよな?」
「数十体のコボルトに囲まれた時の事よね、流石にインパクト強かったから忘れないよ、何かあったの?」
「流石にあんな異常発生を報告しないわけにはいかなくてな、一緒に居たお前のことも話さざるを得なかったんだが」
なんとも言いづらいことなのか、頭をガリガリとかいてバツの悪そうな表情を浮かべる彼からするに、あまり良い話でなさそうだなという印象を受ける。
「こんな開拓村だから、コボルトの異常発生って結構警戒すべき事でな……お前一応旅人というか、冒険者的な扱いでこの村に滞在してるだろ? それで村の連中が、村周辺の調査と警護を多少なりとも頼めないかって話に進んじまってな」
神使いというのを黙っておいたら裏目に出たか?
いや、むしろ黙っていたからこの程度で済んでると見るべきか。
「村長もさすがにそれを無理やりに却下するわけにもいかなくてな、俺が話をしてみるってことになったんだが……お前としてはどうだ?」
「とりあえず依頼の内容とやらを教えてもらえるかしら?」
そう言うとゼフィアは手荷物の袋の中から一枚の紙、羊皮紙じゃなく、かといって現代の綺麗な紙とも違う少し厚手の物だ、を取り出して私にさしだす。
受け取って見てみればそこには契約内容が明記されていた。
契約期間:滞在時、手隙の時、または依頼時
契約内容:村周辺見回りと調査、襲撃時の迎撃参加
契約料:見回り/200Sil 迎撃参加/1500Sil
備考:見回り時の収集品は進呈
ざっと走り書きされた内容だけど村長の印らしきものが押されており、それが契約書面らしいことを伺わせる。
「とりあえず説明いる、よな?」
「お願い」
「契約期間、今回は時間を決めての拘束じゃないから曖昧な記述になってる。何か他に用事があるときはそっちを優先してくれて構わないそうだ。村周辺の見回りってのは俺が毎日やってることだな、魔物を見つけたら狩って欲しい。襲撃時の迎撃参加ってのは保険みたいなものなんだろうが、村が襲われた時は一緒に戦ってくれってことで、襲撃の場合規模が大きいことが多いから契約料が高い。備考に書いてあるのは、見回りの時に手に入れた物品は差し上げますってことで、冒険者相手の契約の時の基本だな」
なるほど、そのあたりの素材を手に入れておけば後々の収入になりそうだね。
「契約料200Silってのは相場なの? あと価値的にはどれぐらいなのかしら」
「どうだろうな、こんな曖昧な契約内容初めて見るから。一日拘束だと400Silとかが相場かねぇ。200Silは王都の並な宿に一泊してお釣りで2回飯が食えるぐらいっていえばわかるか?」
だいたい並の宿の一泊の料金が150かそこらだろうか?
「なんとなくイメージはついたわ。村としては無理な出費じゃないの?」
「村の資金について管理してるのは村長とノフィカだから、俺からはなんとも言えんな。まぁ、無理してるような金額じゃないと思うぜ? 周辺の資源は結構豊富だから収入はそこそこあるはずだしな」
「ならいいわ。それで受けましょう」
「助かる、それじゃあこれも渡しておくぜ」
「何これ?」
契約内容の書かれた紙と一緒に渡されたのは手のひらサイズの小瓶だった。
革紐が繋がれてベルトなどに下げられるようになっており、表面によくわからない模様が刻まれている。
ノフィカが魔術を使った時の模様に似ている気がするけどそれ系かね。
「それは魔物の血を回収する入れ物だ。倒したあと浮いてる血に近づければ勝手に中に回収される。見た目は小さいけど中にはすごい量はいるから、基本的に溢れる心配はしなくていい便利な代物さ」
「ほほーう、マジックアイテムなわけね」
「その小瓶は冒険者ギルドの支給品だから、どこかいくことになったらそのまま持って行っちまって構わない」
てことはギルドが何かしらの理由で普及させたいってことか。
結構たくさん使う消耗品って感じなのかな、血液。
ポーションの材料とかだったら飲みたくないなぁ。
「んじゃ、俺からの話はこれぐらいだな。そうだ、知ってたらでいいんだがノフィカがどこにいるかしらないか? 乾燥小屋で作業がしてるかとおもったら居なくってな」
「ノフィカなら私が寝泊まりしてる家で寝てるわよ」
言ってからゼフィアの表情が凍りついたのだが、少しして何かに思い至ったのか再起動する。
「そうか、そういえば乾燥小屋が近いから仮眠とるときによくあそこを使ってたな、うん、そうだな、寝ぼけていつもみたいにしたに違いない、そろそろ起こしに行ってくるよこの事は内緒だぜ」
「面白い動揺っぷりね、安心しなさい何もなかったから」
そもそも今は女同士だしねー、何もできないってわけじゃないけど相手の同意なしはさすがにないわ。
男のままでこのイベント起きてたらゼフィアに何されてたかわからんな?
割と気にしてなかったけど今のことを考えると女になっててよかったっておもうわ、色恋沙汰に巻き込まれるのは御免だぜ。
あ、惚気は聞きます、喜々として。
むしろ聞き専。
「それじゃあ、俺はそろそろ行くぞ? 村の外に出るときは村長か見張り台にいる奴に一声かけてから出てくれ」
言い終わるよりも先に離れていくゼフィアを見送りつつ、私はとりあえず村長に話だけ済ませて村の周辺を見て回る事にした。
探検は心が踊るね。
「む、朱霊草」
足元に生えたゲーム時代に見知った草を見つけ屈みこむ。
こちらの世界でも存在したのかと、思わずホッとしてしまった。
ゲーム時代は魔物と同じ扱いで倒すとアイテムのドロップ判定があったのだが、こちらの世界では普通に摘み取る事ができる、あたりまえか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
霊草:朱・白・黒・透
マナを吸って成長する多年草。
地下茎を傷つけなければ周囲のマナを吸って再び生育する。
薬にできるのは葉と茎。
成長具合によって色が変わる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
村の近くにある株は有事の際に必要とされるかもしれないので残しておく方がいいだろうから、葉をたくさんつけている株から数枚ずつ葉を採取させてもらいインベントリにしまっておく。
ちなみに朱・白・黒・透明の順で高位の回復薬になるのだが、この辺りには朱色のものしか見当たらなかった、残念。
まあ、今の私に調合スキルは無いから売るぐらいしか用途が無いんだけどさ。
暖炉用の枯れ枝を集めたり、露出した岩から天然石を見つけて採取してみたり、木の実を見つけてつまみ食いしてみたりしつつ、エウリュアレ周辺を探索していく。
ちなみに手に入れたものはインベントリの中に手当たり次第に放り込んでいる。
近くにある地形は森、草原、海、山ぐらいだろうか。
山の標高は低めで雪が積もっている様子はないが、村の側を通っている川の源流、水源はあの山のほうにあるのだろう。
見回っている間何度かコボルトや、初遭遇のゴブリンと遭遇するも特に問題なく切り伏せる。
こちらに来てから精神も変質しているのか、もはや魔物を切り捨てることに躊躇はなくなっていた。
殺意全開でこられるとまぁ、躊躇してたらこっちが死ぬというのもあるんだろうけど。
ただ、利き手に短剣と言うのは相手との距離がかなり近くなるため精神的な疲労感は拭えない。
場合によっては右と左を持ち替えて見てもいいかもしれない。
思いついてすぐに左右で剣を交換してみるとやはり勝手がだいぶ違うため、後ほど練習する時間を作ることに決めた。
しかしそれを考えると木剣はそれぞれもう一本ずつ欲しいか。
今度は手頃な木を集めた物品と交換してもらおうかな。
見回りをしているくせにすでに帰った時のことを考え始めた私の耳に、茂みの揺れる音が聞こえた。
またコボルトだろうか、という考えは私の油断でしか無かった。
なんで村の周辺にいるのがコボルトやゴブリンぐらいだと思っていたのか、ゲーム脳というやつかもしれない。
振り返った瞬間にはもう目の前にその巨体が迫っており、私が体を捻って受け身を取ることすらそれは許さなかった。
骨のきしむような音が聞こえた気がする、それは幻聴で無かったかもしれない。
視界が急激に横に吹き飛びあらぬ速度で地面を跳ねる、自分が吹き飛んでいるのだと気づくよりも前に木に激突してそれは無理やり止められた。
激痛にきしむ体を無理やり起こして元いた場所を見れば、焦げ茶色の体毛を持った私の胸元辺りまでの高さを持つ巨大な猪がこちらを威嚇するように唸り声をあげていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
名前:-
種族:スプリントボア
性別:
ヒットポイント:????/????
マナ収束力:??
体内マナ:??/??
茶~焦げ茶の体毛を持つ全高1.4mほどの猪。
非常に強靭な牙と頭部を持っており、生半可な攻撃では頭部にほとんど傷が入らない。
そのため斧戦士か魔法職の獲物とされている。
牙は良質の装飾品の素材となる。
強靭な後ろ足をつかって10m近い距離を一瞬で突撃してくる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とっさに根源の叡智で確認した情報は私にとってあまり良くないものだった。
斧なんて使えないし魔法はまだグレーアウト中。
しかしまあ、こんなのに体当りされて良く生きてたものだね私。
ばかみたいに高いヒットポイント無かったら死んでたんじゃないか?
なんとか立ち上がれた私だったが、吹き飛ばされた時に剣を落としてしまって丸腰の状態だった。
そもそも剣がまともに通るかという問題もある、剣は斧に比べて攻撃力はどうしても低いと考えるとスペルキャスト程度では刃が通らない可能性は十分にあるだろう。
逡巡している間にスプリントボアはまだ生きている獲物を目標に定め、再び突撃体勢を取った。
「っ……聖剣ホーリエル!」
とっさにインベントリから取り出したのはゲーム時代のお気に入りのクエストで手に入れた、私が持っている剣の中で一番高い攻撃力を誇るものだ。
これであの頭部を切れないのであれば私の武器で倒すのには相当手間取るだろう。
倒せない可能性だってある。
何も頭部を狙わなくても、とも思うが今の私にそこまでの動きができるとは思わない、イメージ出来てもね……。
いや、まてよ?
ふと思いついたイメージを瞬時に頭のなかでできるか検証する。
自分の身体能力と、剣で狙う場所、自分の位置、そして最重要なのが背後にあるもの。
それらを結びつけると一つの可能性が結実する。
少なくとも正面から斬りかかるよりははるかに分の良い賭けだった。
ちらりと後ろの大木に目をやる。
そして次の瞬間には突撃体勢を整え終わったスプリントボアが大砲の弾のように飛びかかってきたのだった。
何やら自分以外の柔らかい感触と嗅ぎ慣れない強い草の香りがしたが、寝床の暖かさに再び訪れた眠気には争い難く再びまどろみの中に沈んでいく。
一瞬だけ、自分以外の柔らかいものってなんだという疑問が浮かび上がったけど、睡魔には勝てなかったよ。
それからどれぐらい経っただろうか、太陽が天頂に届いていないところから見るにまだ昼前か、さすがにそろそろ寝床から出るかと体を起こそうとして、隣で寝ている人の存在をようやく認識した。
よく見なくても髪の色でノフィカだとわかるのだが、なぜか服を着たままベッドに寝転がっている。
今私が使わせてもらっている家がそもそも村のもので、何かあった時とかにちょっと使われたりしていたらしいから借りてる私としては特に何も言えないんだけども……。
「状況がわからんな?」
ノフィカは村長の宅で一緒に暮らしているはずだ。
家族とかではなく来客対応と普段の村長の世話があるからだそうだが。
なぜここにいるのだろうか、というかこの匂いの出どころはノフィカか?
ナナフシジャコウソウを乾燥させる作業がどうとかいっていたが、まさか丸一日がかりだったのだろうか?
だとしたらこのまま寝かせてあげた方がいいかな。
そっと音を立てずに動くことを意識すれば、幻惑の舞姫のスキルの恩恵で彼女を起こすことなく、それどころか物音一つ立てずベッドから抜け出すことができた。
軽く身支度を整えて外に体でも動かしに行くことにしよう。
「リーシア、ちょっといいか?」
ゼフィアが使っているという訓練場所に足を運んでみたところ、彼と鉢合わせした。
訓練場所と言っても藁と縄を巻いた案山子が立っていたり、木の枝から吊るされたロープとその先に棒が結び付けられているものがあるという程度なのだが。
腰から下げた剣以外にも小さめの荷物を別に持っているようだが、何か用だろうか。
「一昨日のコボルトの事覚えてるよな?」
「数十体のコボルトに囲まれた時の事よね、流石にインパクト強かったから忘れないよ、何かあったの?」
「流石にあんな異常発生を報告しないわけにはいかなくてな、一緒に居たお前のことも話さざるを得なかったんだが」
なんとも言いづらいことなのか、頭をガリガリとかいてバツの悪そうな表情を浮かべる彼からするに、あまり良い話でなさそうだなという印象を受ける。
「こんな開拓村だから、コボルトの異常発生って結構警戒すべき事でな……お前一応旅人というか、冒険者的な扱いでこの村に滞在してるだろ? それで村の連中が、村周辺の調査と警護を多少なりとも頼めないかって話に進んじまってな」
神使いというのを黙っておいたら裏目に出たか?
いや、むしろ黙っていたからこの程度で済んでると見るべきか。
「村長もさすがにそれを無理やりに却下するわけにもいかなくてな、俺が話をしてみるってことになったんだが……お前としてはどうだ?」
「とりあえず依頼の内容とやらを教えてもらえるかしら?」
そう言うとゼフィアは手荷物の袋の中から一枚の紙、羊皮紙じゃなく、かといって現代の綺麗な紙とも違う少し厚手の物だ、を取り出して私にさしだす。
受け取って見てみればそこには契約内容が明記されていた。
契約期間:滞在時、手隙の時、または依頼時
契約内容:村周辺見回りと調査、襲撃時の迎撃参加
契約料:見回り/200Sil 迎撃参加/1500Sil
備考:見回り時の収集品は進呈
ざっと走り書きされた内容だけど村長の印らしきものが押されており、それが契約書面らしいことを伺わせる。
「とりあえず説明いる、よな?」
「お願い」
「契約期間、今回は時間を決めての拘束じゃないから曖昧な記述になってる。何か他に用事があるときはそっちを優先してくれて構わないそうだ。村周辺の見回りってのは俺が毎日やってることだな、魔物を見つけたら狩って欲しい。襲撃時の迎撃参加ってのは保険みたいなものなんだろうが、村が襲われた時は一緒に戦ってくれってことで、襲撃の場合規模が大きいことが多いから契約料が高い。備考に書いてあるのは、見回りの時に手に入れた物品は差し上げますってことで、冒険者相手の契約の時の基本だな」
なるほど、そのあたりの素材を手に入れておけば後々の収入になりそうだね。
「契約料200Silってのは相場なの? あと価値的にはどれぐらいなのかしら」
「どうだろうな、こんな曖昧な契約内容初めて見るから。一日拘束だと400Silとかが相場かねぇ。200Silは王都の並な宿に一泊してお釣りで2回飯が食えるぐらいっていえばわかるか?」
だいたい並の宿の一泊の料金が150かそこらだろうか?
「なんとなくイメージはついたわ。村としては無理な出費じゃないの?」
「村の資金について管理してるのは村長とノフィカだから、俺からはなんとも言えんな。まぁ、無理してるような金額じゃないと思うぜ? 周辺の資源は結構豊富だから収入はそこそこあるはずだしな」
「ならいいわ。それで受けましょう」
「助かる、それじゃあこれも渡しておくぜ」
「何これ?」
契約内容の書かれた紙と一緒に渡されたのは手のひらサイズの小瓶だった。
革紐が繋がれてベルトなどに下げられるようになっており、表面によくわからない模様が刻まれている。
ノフィカが魔術を使った時の模様に似ている気がするけどそれ系かね。
「それは魔物の血を回収する入れ物だ。倒したあと浮いてる血に近づければ勝手に中に回収される。見た目は小さいけど中にはすごい量はいるから、基本的に溢れる心配はしなくていい便利な代物さ」
「ほほーう、マジックアイテムなわけね」
「その小瓶は冒険者ギルドの支給品だから、どこかいくことになったらそのまま持って行っちまって構わない」
てことはギルドが何かしらの理由で普及させたいってことか。
結構たくさん使う消耗品って感じなのかな、血液。
ポーションの材料とかだったら飲みたくないなぁ。
「んじゃ、俺からの話はこれぐらいだな。そうだ、知ってたらでいいんだがノフィカがどこにいるかしらないか? 乾燥小屋で作業がしてるかとおもったら居なくってな」
「ノフィカなら私が寝泊まりしてる家で寝てるわよ」
言ってからゼフィアの表情が凍りついたのだが、少しして何かに思い至ったのか再起動する。
「そうか、そういえば乾燥小屋が近いから仮眠とるときによくあそこを使ってたな、うん、そうだな、寝ぼけていつもみたいにしたに違いない、そろそろ起こしに行ってくるよこの事は内緒だぜ」
「面白い動揺っぷりね、安心しなさい何もなかったから」
そもそも今は女同士だしねー、何もできないってわけじゃないけど相手の同意なしはさすがにないわ。
男のままでこのイベント起きてたらゼフィアに何されてたかわからんな?
割と気にしてなかったけど今のことを考えると女になっててよかったっておもうわ、色恋沙汰に巻き込まれるのは御免だぜ。
あ、惚気は聞きます、喜々として。
むしろ聞き専。
「それじゃあ、俺はそろそろ行くぞ? 村の外に出るときは村長か見張り台にいる奴に一声かけてから出てくれ」
言い終わるよりも先に離れていくゼフィアを見送りつつ、私はとりあえず村長に話だけ済ませて村の周辺を見て回る事にした。
探検は心が踊るね。
「む、朱霊草」
足元に生えたゲーム時代に見知った草を見つけ屈みこむ。
こちらの世界でも存在したのかと、思わずホッとしてしまった。
ゲーム時代は魔物と同じ扱いで倒すとアイテムのドロップ判定があったのだが、こちらの世界では普通に摘み取る事ができる、あたりまえか。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
霊草:朱・白・黒・透
マナを吸って成長する多年草。
地下茎を傷つけなければ周囲のマナを吸って再び生育する。
薬にできるのは葉と茎。
成長具合によって色が変わる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
村の近くにある株は有事の際に必要とされるかもしれないので残しておく方がいいだろうから、葉をたくさんつけている株から数枚ずつ葉を採取させてもらいインベントリにしまっておく。
ちなみに朱・白・黒・透明の順で高位の回復薬になるのだが、この辺りには朱色のものしか見当たらなかった、残念。
まあ、今の私に調合スキルは無いから売るぐらいしか用途が無いんだけどさ。
暖炉用の枯れ枝を集めたり、露出した岩から天然石を見つけて採取してみたり、木の実を見つけてつまみ食いしてみたりしつつ、エウリュアレ周辺を探索していく。
ちなみに手に入れたものはインベントリの中に手当たり次第に放り込んでいる。
近くにある地形は森、草原、海、山ぐらいだろうか。
山の標高は低めで雪が積もっている様子はないが、村の側を通っている川の源流、水源はあの山のほうにあるのだろう。
見回っている間何度かコボルトや、初遭遇のゴブリンと遭遇するも特に問題なく切り伏せる。
こちらに来てから精神も変質しているのか、もはや魔物を切り捨てることに躊躇はなくなっていた。
殺意全開でこられるとまぁ、躊躇してたらこっちが死ぬというのもあるんだろうけど。
ただ、利き手に短剣と言うのは相手との距離がかなり近くなるため精神的な疲労感は拭えない。
場合によっては右と左を持ち替えて見てもいいかもしれない。
思いついてすぐに左右で剣を交換してみるとやはり勝手がだいぶ違うため、後ほど練習する時間を作ることに決めた。
しかしそれを考えると木剣はそれぞれもう一本ずつ欲しいか。
今度は手頃な木を集めた物品と交換してもらおうかな。
見回りをしているくせにすでに帰った時のことを考え始めた私の耳に、茂みの揺れる音が聞こえた。
またコボルトだろうか、という考えは私の油断でしか無かった。
なんで村の周辺にいるのがコボルトやゴブリンぐらいだと思っていたのか、ゲーム脳というやつかもしれない。
振り返った瞬間にはもう目の前にその巨体が迫っており、私が体を捻って受け身を取ることすらそれは許さなかった。
骨のきしむような音が聞こえた気がする、それは幻聴で無かったかもしれない。
視界が急激に横に吹き飛びあらぬ速度で地面を跳ねる、自分が吹き飛んでいるのだと気づくよりも前に木に激突してそれは無理やり止められた。
激痛にきしむ体を無理やり起こして元いた場所を見れば、焦げ茶色の体毛を持った私の胸元辺りまでの高さを持つ巨大な猪がこちらを威嚇するように唸り声をあげていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
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種族:スプリントボア
性別:
ヒットポイント:????/????
マナ収束力:??
体内マナ:??/??
茶~焦げ茶の体毛を持つ全高1.4mほどの猪。
非常に強靭な牙と頭部を持っており、生半可な攻撃では頭部にほとんど傷が入らない。
そのため斧戦士か魔法職の獲物とされている。
牙は良質の装飾品の素材となる。
強靭な後ろ足をつかって10m近い距離を一瞬で突撃してくる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
とっさに根源の叡智で確認した情報は私にとってあまり良くないものだった。
斧なんて使えないし魔法はまだグレーアウト中。
しかしまあ、こんなのに体当りされて良く生きてたものだね私。
ばかみたいに高いヒットポイント無かったら死んでたんじゃないか?
なんとか立ち上がれた私だったが、吹き飛ばされた時に剣を落としてしまって丸腰の状態だった。
そもそも剣がまともに通るかという問題もある、剣は斧に比べて攻撃力はどうしても低いと考えるとスペルキャスト程度では刃が通らない可能性は十分にあるだろう。
逡巡している間にスプリントボアはまだ生きている獲物を目標に定め、再び突撃体勢を取った。
「っ……聖剣ホーリエル!」
とっさにインベントリから取り出したのはゲーム時代のお気に入りのクエストで手に入れた、私が持っている剣の中で一番高い攻撃力を誇るものだ。
これであの頭部を切れないのであれば私の武器で倒すのには相当手間取るだろう。
倒せない可能性だってある。
何も頭部を狙わなくても、とも思うが今の私にそこまでの動きができるとは思わない、イメージ出来てもね……。
いや、まてよ?
ふと思いついたイメージを瞬時に頭のなかでできるか検証する。
自分の身体能力と、剣で狙う場所、自分の位置、そして最重要なのが背後にあるもの。
それらを結びつけると一つの可能性が結実する。
少なくとも正面から斬りかかるよりははるかに分の良い賭けだった。
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様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
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