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本編
第三話 グラットン 2
しおりを挟む「それで、殿下についての話とは何だ?」
人気のない小さな噴水広場に連れられて来たアイーシャは、近くのベンチに腰を下ろし、グラットンと隣合わせで座っていた。
「まあ、落ち着きたまえ、ルスキア・アイザック。まずは自己紹介といこうじゃないか」
「自己紹介か、分かった」
アイーシャが素直に頷くと、グラットンは少しだけホッとしたようだった。
「ではまずは俺から。俺の名前は、ラネール・グラットン。社交界ではそれなりに名が通っている筈なのだが·····、先程の反応を見るに、どうやらルスキア殿は俺の事を見たことは無かったようだね」
グラットンが、アイーシャに話しかけた時のことを思い出しながら話した。
「ああ·····それはすまない。なんせ、ずっと田舎に篭っていたからな。お前の事は勿論、ダイヤモンド学園に知人は一人も居ない」
アイーシャが軽く謝罪を口にすると、グラットンは少しだけ気の毒そうな顔でアイーシャを見つめた。
(確かにブス男に社交界はキツいだろうな。だが、その分、こいつは俺より、殿下のことを分かってやれるかもしれんな)
グラットンは気を使い話を変えた。
「ふむ。·····ルスキア領はそれなりに遠い。馬車では片道でも、王都に来るのには一ヶ月かかるだろう。しかし、それなら何故、ルスキア殿が護衛騎士に選ばれたのか·····」
「さあ、詳しい事は私にも分からん」
むしろ私も知りたい。何故、あの妹に役割を押し付けるようなクズ兄が殿下の護衛騎士なんかに指名されたのか。
これは、私がお父様に聞いても教えてくれなかったことだ。
「さて、次は私の番だな。 もう知っていると思うが、私の名前はアイー·····ザック。ルスキア・アイザックだ。よろしく」
アイーシャはつい本名を言ってしまいそうになったが、何食わぬ顔で立て直すと、何事も無かったかのように言いきり、友好の証に握手をしようと右手を出した。
お兄様と名前が似ていてよかったと初めて思った。
内心少しだけ焦ったアイーシャだった。
「こちらこそよろしく頼む」
そう言って、グラットンが差し出されたアイーシャの手を掴んだ。そして──手を離した瞬間に胸ポケットに忍ばせていた短剣を勢いよく抜いた。
「これは、なんの真似だろうか」
アイーシャはグラットンの右腕を掴みながら、にっこりと顔に笑みを貼り付けて言った。
一方でグラットンは何が起こったのか分からずにただ、驚いていた。
何故なら、アイーシャの動きは一瞬で目に見えなかったからだ。グラットンは完全にアイーシャを油断させて不意をついたつもりだった。しかし·····。
「いや、·····突然すまなかった。それにしても、これは、驚いたな。まさか、これ程実力があるとは·····。成程、だからルスキア殿が選ばれたのか」
「一体なんの話しだ?」
「ふむ。まあ一言で言えば、ルスキア殿の事を試させてもらった」
「···············」
「そう警戒しないでくれ。それと、そろそろ腕が痛い」
確かにグラットンから殺気は感じなかった。この短剣も見たところ実用性はあまりないいわゆるおもちゃとそう変わらないものだろう·····。
アイーシャはグラットンの右腕を素直に離した。
────────────────────────────
それからアイーシャはグラットンに説明を求めた。
グラットン曰く───
「そんなの実力を見るために決まっているだろう」
との事。
「ルスキア殿も知っての通り、王家の方々の護衛騎士は誰にでもなれる様なものでは無い。だがしかし、フランシア殿下は例外だ。あまり大きな声では言い難いが、殿下は容姿に致命的な問題があるだろう? そのせいで、フランシア殿下の護衛騎士は志願すれば誰でも慣れると噂まであるくらいだ」
「致命的な問題·····?」
「ああ。そうだ。あの容姿には酷く同情するよ。この俺でさえ、最初にあった時は固まって動けなかった。まさか、あれ程·····」
そのままグラットンの長話でも始まりそうになったその時、ゴーン、ゴーンと街の鐘が鳴り響いた。
「と、もう少し話をしたかったが、時間が来てしまったようだ。付き合って貰って悪かったね。明日になる前に、周りの側近に選ばれたもの達の人となりを見てみたかったんだが、まあ、君には中々期待出来そうだ」
グラットンはそう言いながら笑顔でベンチから立ち上がった。アイーシャもそれに倣い立ち上がる。
「期待に応えきれるかは分からないが、善処はしよう」
アイーシャはグラットンとは仲良くなれそうだと思った。と、それと同時に、明日からの学園生活·····殿下の側近としての立ち位置への不安が少しだけ解消された。
「うむ。ああ、そうだ言い忘れていたが、俺は留年していてね。──実は君より一つ年上だ。つまり、分かるね·····?」
グラットンが今まで一番濃い笑顔でアイーシャに語りかけた。
てっきり同い年だと思っていたアイーシャは、先程までの自身の態度を思い出しバツの悪そうな顔をした。
「··········すみません、グラットンさん」
「いやいや、ずっとお前呼ばわりされていた事は気にしていない。俺は大人だからな」
そう言いつつも、グラットンの笑顔の圧は変わらない。
拝啓、前世の私。
癖とは怖いもので、私は初対面の人にタメ口で話していました。どうやら、そちらに敬語を置き忘れていたようです。
フランシア殿下に会う前に気づけて良かったです。
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