8 / 22
赤っ恥、豆っ恥。
しおりを挟む
私は今、ネズミ捕りにひっかかっている。
もう一度言おう!
私は、今、ネズミ捕りにひっかかっている!
誰だ、入口にネズミ捕りを置いたやつは。
お客様用入口に、ネズミ捕りが仕掛けられていたのだ。床はネズミ捕りと同じ黒色だから、気がつかなかった。ネバネバする粘着剤が、靴をしっかり捕まえて離さない。足を持ち上げることすら出来ないので、この場から動けないでいる。
もうすぐ開店時間になってしまう。幸い、外で待っているお客様はいない。いないが、ドアの前で貼り付いている店員は、明らかに不審者であろう。どこぞの若者に「店員が捕獲されてたwww」なんて、写真をとられた挙句、SNSにアップされたらどうしよう!
被害妄想だけを広げて、私は焦った。
なんとかせねば!!
だいたい、なぜお客様の入口にネズミ捕りを仕掛けたのだ。けしからん! これではお客様も捕獲されてしまうではないか。
なんとか抜け出せないかと、足に力をこめる。メキメキと音がするだけで、脱出できる気配はない。
それにしても、このネズミ捕りはすごい。
大人の力を持ってしても、びくともしない。ネズミがひっかかってしまったら、可哀想だなぁと思いをはせる。小さな手がとれてしまうのではないか。
私がネズミならば、ネズミ捕りにかかって死ぬのだけはごめんだ。身動きもとることも出来ず、ただ独りで、ゆっくりと長い時間をかけてやって来る死を待つだけだなんて。
絶対にこのまま死にたくない! そう思った時だった。
「なにしてるん?」
背後から声がして、私は赤面した。観念して振り返る。他のお店の社員さんが、私を眺めていた。
「ネズミ捕りにかかりました」
「うん。見れば、わかるよ」
のんびり言って、私を助けるわけでもなく、ぼうっと眺めている。
「こんなところに、ネズミ捕り敷くのがあかんよなぁ」
(全く! そのとおり!)
心の中で、うんうんと頷いてから、そうじゃなくてと首を振る。
「足が抜けなくなっちゃいまして……」
申し訳なさそうに言うと、社員さんは近づいてきて、私の足元をしげしげと見た。
「あっはっは。ネズミやなくて、人間がかかるなんてなぁ」
助けて欲しい私をそっちのけで、ネズミ捕りを眺めて笑っている。
マイペースな人だな。もしかして、この人楽しんでる? 恥ずかしさをこらえて、私は素直に助けを求めることにした。
「あのぅ……助けてもらえませんか?」
言うと、初めて気がついたように社員さんは「ああ」と目を丸くした。それから、畑の大根を引き抜くように、私を持ち上げた。驚くくらい簡単に、私は収穫された。
「……ありがとうございました」
「メール見とらんの?」
「え? メールですか?」
うん、と頷いて社員さんは一瞬ポカンとした顔をしてから、肩を振るわせて笑い始めた。
「見とったら、あっはっは、ひっかからんわなぁ」
おっしゃる通りである。
どうやら、閉店中にネズミ捕りを仕掛けているので、気をつけるように、という内容のメールが発信されていたようだ。しかも、私の上司から。
赤っ恥! 豆っ恥! 恥ずかしさで私はしなしなに干からびてしまう。ネズミくらい小さくなれたらいいのに。
後日、ネズミ捕りにネズミは一匹もひっかからなかった。代わりに、成人した人間が三匹(私を含む)ひっかかった。なんとも、嘆かわしい結果である。
害獣駆除の業者はこう言った。
「ネズミは頭が良いですから。いつもと違うことに、気がつくんですよ」
いつもと違うことに気がつかなかった私は、ネズミ以下ということが判明されてしまった。
頭の中で、あのマイペースな社員さんが笑い転げている。
「あっはっは、次はひっかからんと、気いつけや~」
赤っ恥! 豆っ恥!
もう一度言おう!
私は、今、ネズミ捕りにひっかかっている!
誰だ、入口にネズミ捕りを置いたやつは。
お客様用入口に、ネズミ捕りが仕掛けられていたのだ。床はネズミ捕りと同じ黒色だから、気がつかなかった。ネバネバする粘着剤が、靴をしっかり捕まえて離さない。足を持ち上げることすら出来ないので、この場から動けないでいる。
もうすぐ開店時間になってしまう。幸い、外で待っているお客様はいない。いないが、ドアの前で貼り付いている店員は、明らかに不審者であろう。どこぞの若者に「店員が捕獲されてたwww」なんて、写真をとられた挙句、SNSにアップされたらどうしよう!
被害妄想だけを広げて、私は焦った。
なんとかせねば!!
だいたい、なぜお客様の入口にネズミ捕りを仕掛けたのだ。けしからん! これではお客様も捕獲されてしまうではないか。
なんとか抜け出せないかと、足に力をこめる。メキメキと音がするだけで、脱出できる気配はない。
それにしても、このネズミ捕りはすごい。
大人の力を持ってしても、びくともしない。ネズミがひっかかってしまったら、可哀想だなぁと思いをはせる。小さな手がとれてしまうのではないか。
私がネズミならば、ネズミ捕りにかかって死ぬのだけはごめんだ。身動きもとることも出来ず、ただ独りで、ゆっくりと長い時間をかけてやって来る死を待つだけだなんて。
絶対にこのまま死にたくない! そう思った時だった。
「なにしてるん?」
背後から声がして、私は赤面した。観念して振り返る。他のお店の社員さんが、私を眺めていた。
「ネズミ捕りにかかりました」
「うん。見れば、わかるよ」
のんびり言って、私を助けるわけでもなく、ぼうっと眺めている。
「こんなところに、ネズミ捕り敷くのがあかんよなぁ」
(全く! そのとおり!)
心の中で、うんうんと頷いてから、そうじゃなくてと首を振る。
「足が抜けなくなっちゃいまして……」
申し訳なさそうに言うと、社員さんは近づいてきて、私の足元をしげしげと見た。
「あっはっは。ネズミやなくて、人間がかかるなんてなぁ」
助けて欲しい私をそっちのけで、ネズミ捕りを眺めて笑っている。
マイペースな人だな。もしかして、この人楽しんでる? 恥ずかしさをこらえて、私は素直に助けを求めることにした。
「あのぅ……助けてもらえませんか?」
言うと、初めて気がついたように社員さんは「ああ」と目を丸くした。それから、畑の大根を引き抜くように、私を持ち上げた。驚くくらい簡単に、私は収穫された。
「……ありがとうございました」
「メール見とらんの?」
「え? メールですか?」
うん、と頷いて社員さんは一瞬ポカンとした顔をしてから、肩を振るわせて笑い始めた。
「見とったら、あっはっは、ひっかからんわなぁ」
おっしゃる通りである。
どうやら、閉店中にネズミ捕りを仕掛けているので、気をつけるように、という内容のメールが発信されていたようだ。しかも、私の上司から。
赤っ恥! 豆っ恥! 恥ずかしさで私はしなしなに干からびてしまう。ネズミくらい小さくなれたらいいのに。
後日、ネズミ捕りにネズミは一匹もひっかからなかった。代わりに、成人した人間が三匹(私を含む)ひっかかった。なんとも、嘆かわしい結果である。
害獣駆除の業者はこう言った。
「ネズミは頭が良いですから。いつもと違うことに、気がつくんですよ」
いつもと違うことに気がつかなかった私は、ネズミ以下ということが判明されてしまった。
頭の中で、あのマイペースな社員さんが笑い転げている。
「あっはっは、次はひっかからんと、気いつけや~」
赤っ恥! 豆っ恥!
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
嵐大好き☆ALSお母さんの闘病と終活
しんの(C.Clarté)
エッセイ・ノンフィクション
アイドル大好き♡ミーハーお母さんが治療法のない難病ALSに侵された!
ファンブログは闘病記になり、母は心残りがあると叫んだ。
「死ぬ前に聖地に行きたい」
モネの生地フランス・ノルマンディー、嵐のロケ地・美瑛町。
車椅子に酸素ボンベをくくりつけて聖地巡礼へ旅立った直後、北海道胆振東部大地震に巻き込まれるアクシデント発生!!
進行する病、近づく死。無茶すぎるALSお母さんの闘病は三年目の冬を迎えていた。
※NOVELDAYSで重複投稿しています。
https://novel.daysneo.com/works/cf7d818ce5ae218ad362772c4a33c6c6.html
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる