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§04 根濁してマロウブルー
迷羊通り越してロンジェビティ
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ところで、県立橙辺大学には2つのキャンパスがある。響はその一つ、電車にしばらく揺られてからバスにまたしばらく乗ってようやく着く、枳実キャンパスに来ていた。こちらには人文とか社会科学系の学部が集まっているはずだ。
校門を潜り手続きを済ませ、目的の棟までたどり着くのに15分。部外者立入禁止感の強い無機質な研究棟をエレベーター求めて彷徨うこと5分。
「やっと着いた……で、えーと、宗教民俗学の、金嘉橘ゼミ……607室、ろくまるなな……」
「……おや、どうしたのかな」
声が大きかったのか、ドアが開いて、ふっくらとした丸眼鏡の中年男性が出てくる。
ゆったりした話し方。白衣を着て「私が院長です」とか言っていてもおかしくなさそうな雰囲気だ。
「あ、あの、今日会う約束をしてた賢木です。金嘉橘教授って」
「私だよ。君がサカキ君だね。こっちへどうぞ」
安い菓子折をそろそろと差し出して、部屋を見回す。研究室のイメージとは程遠かった。カウンセリングルームにありそうなソファーと、変なフィギュア好きの凝り性の中高生男子の部屋を組み合わせた感じ。あと、部屋の端に1人くらい寝れそうなテントが設置されている。あとは、天井から宇宙雑誌の付録感があるモビールがぶら下がっている。あと……探すのはやめよう。
「その、今日は、この前の電話でも言ったんですけど」
「青山颯君の事だね」
「……はい」
「青山君とはどういう関係かな?」
柔和そうな顔から警戒心のような表情が滲み出す。響は息を呑む。
関係も何も。
つい先日、匿名掲示板に書き込まれた小折春樹からの情報で、初めて名前の呼び方を知った程度の存在だ。
『名は「はやて」だ。青山颯。18年前、橙辺大学宗教民俗学研究室の肩書きで研究成果を自費出版している。その後研究室を抜け、その後の進路は不明』
『結構昔だな』
『学術的に大した評判にもならなかったようだ。何故あ奴がこの本を必要としたか理解に苦しむな』
『それを調べに行くんだよ』
『お前が直接行く必要はあるのか』
『あるだろ』
途中まで小折を頼ったのは、あくまで響の手に負えない情報収集をしてくれそうだったからだ。いつまでも組織をあまり好き勝手に動かしたくはないだろう。それに、これは響の問題だ。
(スポアの事もあるし……)
スポアの事は明かしていない。というよりもう、ずっと黙っておいたほうが良い気がしてきた。
(こいつ、「ローズヒップ」にコロッと騙された過去があるしな)
その正体はまさにスポアだったことだし。信用も何もない。
……いや。色々と御降とやらの組織形態を知った今では、信用という以前に。
『綾取呪術とかいうのがあるのに、なんでローズヒップの言うこと聞いたんだ? あれだけ自信あるならソレで俺呪えば良かっただろ』
返事が返ってくるまでに少し時間が掛かった。
『何故それを今聞く?』
『気になったから』
『奔放だな』
『どうも。で?』
『それは』
また沈黙。
『御降は古今東西様々な術を用い、適切な術の組み合わせにより適切な効果をもたらす。外部から新しい術の提供を受けて扱う事も少なくない。それをごく軽度の呪いとして検証する機会は必要だ』
『俺、新しい術の実験台にされてたのか』
不愉快な事実が発覚した。
『まあ聞け。ロサルゴサと名乗りし奴は、御降の分家が一つ、練蠱の名を騙った。正確には騙ってなどいなかったが』
『は?』
『あ奴は練蠱を乗っ取っていた。人間に成りすまし当主の座に収まっていたわけだ。そして事もあろうに私に、効果を実証済のものとすり替えた呪物を提供した』
『……分家ってことは、部下とか支店が買収されたみたいな感じか?』
『そう捉えても良かろう。異常事態だ』
『その練蠱ってとこ、大丈夫なのか?』
『聞くな』
現在進行形でヤバいらしかった。
『同様の状況が無いか数百にわたる分家に逐一使いを遣っては確認させているが、すぐに終わる作業ではない』
『忙しいんだな』
『あえて組織の体系が最適化されていないからな。危険な術を用いる呪術家に至っては、当主ですら詳細を知らされない場合もある』
『そんな事あんのか……』
『知った事では無かろうがな』
『まだあんたに謝ってもらってないしな』
『桃音に近づくのはやめておけ。お前には無理だ』
『……』
……回想終わり。別に今思い出すことでは無かった。今何とかするべきは小折ではなく目の前のこの教授だ。
「あのっ、この本を図書館で見つけて」
響は数日前に円辺図書館で借りてきた本を差し出す。
『澄谷地区の伝承』。
自費出版のシンプルな装丁を見て、教授が少し目を見開いた。その反応は意外だ。用意していたセリフが頭から飛んでいく。
「えーと、この作者の人が昔ここに居たって聞い……て、この本について話を聞けないかと思いまして……」
「……なるほどね」
「あの……」
「……」
沈黙が怖い。そもそもこの教授が何故グダグダな響の電話でアポを取ってくれたのかも分からない。
「……ああ、すまないね。申し訳ないんだが、青山君を紹介することはできない」
ふーっと息を吐く。
「知らなかったんだね」
「何がですか……?」
「青山君は亡くなっているんだよ」
「えっ」
「この本を出してから間もなくね……」
「……なんで……」
金嘉橘教授は首を振った。
「長期休暇中の旅行先での事故だったと聞いたよ。まあ、それでね、家族葬だったものだから」
「ああ……」
含むような言い方からは色々読み取れなくもない。が、これ以上聞かないでくれという言い方だ。
「……この本、理解できたかね?」
「えっ、あ、その、それがあんまり」
「まあ、そうだろう。青山君は学術的な書き物では古語や専門用語をそのまま使いたがる節があったからね……」
わざわざ教授を訪ねなければいけなかった理由はこれだ。よく外出する影の目を盗んで隣町の図書館に行くくらいはできる。気づかれても「勉強してた」と言えばいい。しかし、そうやって入手した本の内容は全くもって理解できなかった。伝承をまとめただけの本のはずなのに、だ。
「青山君は特に澄谷にゆかりがあった訳ではないんだ。大学からこの県に来て、せっかくだからと県内の伝承を調べるうちに澄谷が目に止まったらしい。君は何が気になってこの本を読もうと思ったのかな?」
「あ、あの……『素烏』って土地神? が昔居たって聞いて」
「うん、そうだと思ったよ。数多ある各地の伝承の中で青山君が惹かれた理由も素烏神だった。特徴的な民間信仰だから」
教授は話を一度切ると一度テントの中に潜りこみ、中から冷たいラムネを出してきてビー玉を押し込み響に手渡した。流れるような動作だ。
(ラムネ?)
「よいしょ。全国的には珍しくはないんだよ? 民間信仰には色々な種類があってね。かなり直接的に人の願いに強く応えてくれる神仏は多く語られている。富山は礪波の人形神なんて、信仰すれば条件付きでなんでも好きな物を与えてくれるらしいからね。本当なら試してみたい気はするね」
「は、はあ」
「澄谷の素烏は、不老不死に関する神だとされている」
「不老不死?」
思いがけない言葉に、響はラムネを取り落としそうになった。だって、不老不死?
「不老不死というと、人魚の肉を食べて不老不死になった八尾比丘尼伝説がある。聞いたことはあるかな? 日本中どころか世界中で類似したものは多いね。素烏神の話もある意味似ているかもしれないね。素烏の近くに仕え続けた者は不老不死になるんだ」
「仕える?」
「そう。素烏神社には本殿が無いんだ。澄谷の山のどこかに神の作った本殿があると言われていてね。本殿では不老不死の神職者が永久に素烏に仕えている。その中に加わった者が奉仕するうちにいつの間にか歳を取らなくなり不老不死になっていった、という話があるんだよ。人々は直接その恩恵にあずかれる訳ではないけれども、神社に訪れる事で本殿と少しでも繋がりを持ち長生きできるよう願ったわけだ」
「……その本殿って所に居たら、不老不死になるんですか」
「らしいね。本殿は常に美しく、庭園では死なない鯉が池を泳ぎ、常に美しいままの色とりどりの花が咲き続けているというから、不老不死の対象は人だけではないんだろう」
「……そうですか……」
「大体分かったかな?」
「……大体分かりました。ありがとうございます……」
頭こそ下げたが、満足そうな様子に見えたかは怪しい。頭を抱えたい気分だった。
動物も、植物とか建物すら不老不死になる?
ならもしかして、蝕橆も?
「……おお、そうだ、そういえばこの前資料を整理していたらこんな物を見つけてね」
「?」
板目に墨絵っぽいものが描かれた写真を手渡される。
「素烏神の絵姿を描いたものが、地元のとある家の物置に眠っていたらしい。神社が壊れた際に、もしかしたら奉納物を一時的に近所に預けたりしていたのかもしれないね。詳しい出所は彼に聞きそびれてしまっていたんだが……」
映っていたのは、日本の神っぽさがありつつも妙な絵だった。服装からみて、男神だろうか。長い黒髪を一切結ばずに垂れ流し、豪華そうな着物を少し雑に着ている。右耳からピアスのように、大きめの腕輪くらいの太い輪を二重にぶら下げているのが目についた。
「ああ、これは男輪だね。澄谷に限らず、この地方一帯の広い昔の風習では、男性が右耳、女性が左耳に輪をつけるらしいんだ」
(ん?)
「片耳のピアスというと男性が左耳、女性が右耳という認識が大勢だから逆だね。まあ、その左右は男性が利き手を使えるよう右側に立つ中世ヨーロッパの風習に由来するものだから、左に刀を差すため男性が左に来る日本だと逆転しやすいというのはあるだろうね」
「そ……そう……ですか……」
「つまり左耳に輪を通すのはこの地方では女性性とか同性愛的ニュアンスのアピールになるわけで……しかしね、廃れた風習だしそんなに気にすることはないよ、サカキ君」
「いえ……全然っ……」
……左耳にガッツリ外せない輪を通していて気にしないは無理だ。おまけにそれを渡してきたのが、その昔々から生きている存在だとすれば。
(あいつ……絶対この事知っててわざと左に着けただろっ……!)
「役に立ったかなあ」
顔を青くしたり赤くしたりして話に聞き入ってくれた珍しい高校生を部屋の外まで見送って、教授はラムネの瓶を持ち上げた。
「ふぁぁ、おはようございま……あれ、かきぴー先生どうしたんですか? 外のお客さん?」
隣の仮眠室から顔を覗かせたゼミ生の顔に、教授は一瞬で頬の肉を持ち上げ、ふくふくと笑った。
「いやね、昔の教え子の事を聞きに人が訪ねてきたんだよ。いや、懐かしい話をした」
「ふーん?」
辻斑冴姫は、特に感想もなく首をかしげた。
校門を潜り手続きを済ませ、目的の棟までたどり着くのに15分。部外者立入禁止感の強い無機質な研究棟をエレベーター求めて彷徨うこと5分。
「やっと着いた……で、えーと、宗教民俗学の、金嘉橘ゼミ……607室、ろくまるなな……」
「……おや、どうしたのかな」
声が大きかったのか、ドアが開いて、ふっくらとした丸眼鏡の中年男性が出てくる。
ゆったりした話し方。白衣を着て「私が院長です」とか言っていてもおかしくなさそうな雰囲気だ。
「あ、あの、今日会う約束をしてた賢木です。金嘉橘教授って」
「私だよ。君がサカキ君だね。こっちへどうぞ」
安い菓子折をそろそろと差し出して、部屋を見回す。研究室のイメージとは程遠かった。カウンセリングルームにありそうなソファーと、変なフィギュア好きの凝り性の中高生男子の部屋を組み合わせた感じ。あと、部屋の端に1人くらい寝れそうなテントが設置されている。あとは、天井から宇宙雑誌の付録感があるモビールがぶら下がっている。あと……探すのはやめよう。
「その、今日は、この前の電話でも言ったんですけど」
「青山颯君の事だね」
「……はい」
「青山君とはどういう関係かな?」
柔和そうな顔から警戒心のような表情が滲み出す。響は息を呑む。
関係も何も。
つい先日、匿名掲示板に書き込まれた小折春樹からの情報で、初めて名前の呼び方を知った程度の存在だ。
『名は「はやて」だ。青山颯。18年前、橙辺大学宗教民俗学研究室の肩書きで研究成果を自費出版している。その後研究室を抜け、その後の進路は不明』
『結構昔だな』
『学術的に大した評判にもならなかったようだ。何故あ奴がこの本を必要としたか理解に苦しむな』
『それを調べに行くんだよ』
『お前が直接行く必要はあるのか』
『あるだろ』
途中まで小折を頼ったのは、あくまで響の手に負えない情報収集をしてくれそうだったからだ。いつまでも組織をあまり好き勝手に動かしたくはないだろう。それに、これは響の問題だ。
(スポアの事もあるし……)
スポアの事は明かしていない。というよりもう、ずっと黙っておいたほうが良い気がしてきた。
(こいつ、「ローズヒップ」にコロッと騙された過去があるしな)
その正体はまさにスポアだったことだし。信用も何もない。
……いや。色々と御降とやらの組織形態を知った今では、信用という以前に。
『綾取呪術とかいうのがあるのに、なんでローズヒップの言うこと聞いたんだ? あれだけ自信あるならソレで俺呪えば良かっただろ』
返事が返ってくるまでに少し時間が掛かった。
『何故それを今聞く?』
『気になったから』
『奔放だな』
『どうも。で?』
『それは』
また沈黙。
『御降は古今東西様々な術を用い、適切な術の組み合わせにより適切な効果をもたらす。外部から新しい術の提供を受けて扱う事も少なくない。それをごく軽度の呪いとして検証する機会は必要だ』
『俺、新しい術の実験台にされてたのか』
不愉快な事実が発覚した。
『まあ聞け。ロサルゴサと名乗りし奴は、御降の分家が一つ、練蠱の名を騙った。正確には騙ってなどいなかったが』
『は?』
『あ奴は練蠱を乗っ取っていた。人間に成りすまし当主の座に収まっていたわけだ。そして事もあろうに私に、効果を実証済のものとすり替えた呪物を提供した』
『……分家ってことは、部下とか支店が買収されたみたいな感じか?』
『そう捉えても良かろう。異常事態だ』
『その練蠱ってとこ、大丈夫なのか?』
『聞くな』
現在進行形でヤバいらしかった。
『同様の状況が無いか数百にわたる分家に逐一使いを遣っては確認させているが、すぐに終わる作業ではない』
『忙しいんだな』
『あえて組織の体系が最適化されていないからな。危険な術を用いる呪術家に至っては、当主ですら詳細を知らされない場合もある』
『そんな事あんのか……』
『知った事では無かろうがな』
『まだあんたに謝ってもらってないしな』
『桃音に近づくのはやめておけ。お前には無理だ』
『……』
……回想終わり。別に今思い出すことでは無かった。今何とかするべきは小折ではなく目の前のこの教授だ。
「あのっ、この本を図書館で見つけて」
響は数日前に円辺図書館で借りてきた本を差し出す。
『澄谷地区の伝承』。
自費出版のシンプルな装丁を見て、教授が少し目を見開いた。その反応は意外だ。用意していたセリフが頭から飛んでいく。
「えーと、この作者の人が昔ここに居たって聞い……て、この本について話を聞けないかと思いまして……」
「……なるほどね」
「あの……」
「……」
沈黙が怖い。そもそもこの教授が何故グダグダな響の電話でアポを取ってくれたのかも分からない。
「……ああ、すまないね。申し訳ないんだが、青山君を紹介することはできない」
ふーっと息を吐く。
「知らなかったんだね」
「何がですか……?」
「青山君は亡くなっているんだよ」
「えっ」
「この本を出してから間もなくね……」
「……なんで……」
金嘉橘教授は首を振った。
「長期休暇中の旅行先での事故だったと聞いたよ。まあ、それでね、家族葬だったものだから」
「ああ……」
含むような言い方からは色々読み取れなくもない。が、これ以上聞かないでくれという言い方だ。
「……この本、理解できたかね?」
「えっ、あ、その、それがあんまり」
「まあ、そうだろう。青山君は学術的な書き物では古語や専門用語をそのまま使いたがる節があったからね……」
わざわざ教授を訪ねなければいけなかった理由はこれだ。よく外出する影の目を盗んで隣町の図書館に行くくらいはできる。気づかれても「勉強してた」と言えばいい。しかし、そうやって入手した本の内容は全くもって理解できなかった。伝承をまとめただけの本のはずなのに、だ。
「青山君は特に澄谷にゆかりがあった訳ではないんだ。大学からこの県に来て、せっかくだからと県内の伝承を調べるうちに澄谷が目に止まったらしい。君は何が気になってこの本を読もうと思ったのかな?」
「あ、あの……『素烏』って土地神? が昔居たって聞いて」
「うん、そうだと思ったよ。数多ある各地の伝承の中で青山君が惹かれた理由も素烏神だった。特徴的な民間信仰だから」
教授は話を一度切ると一度テントの中に潜りこみ、中から冷たいラムネを出してきてビー玉を押し込み響に手渡した。流れるような動作だ。
(ラムネ?)
「よいしょ。全国的には珍しくはないんだよ? 民間信仰には色々な種類があってね。かなり直接的に人の願いに強く応えてくれる神仏は多く語られている。富山は礪波の人形神なんて、信仰すれば条件付きでなんでも好きな物を与えてくれるらしいからね。本当なら試してみたい気はするね」
「は、はあ」
「澄谷の素烏は、不老不死に関する神だとされている」
「不老不死?」
思いがけない言葉に、響はラムネを取り落としそうになった。だって、不老不死?
「不老不死というと、人魚の肉を食べて不老不死になった八尾比丘尼伝説がある。聞いたことはあるかな? 日本中どころか世界中で類似したものは多いね。素烏神の話もある意味似ているかもしれないね。素烏の近くに仕え続けた者は不老不死になるんだ」
「仕える?」
「そう。素烏神社には本殿が無いんだ。澄谷の山のどこかに神の作った本殿があると言われていてね。本殿では不老不死の神職者が永久に素烏に仕えている。その中に加わった者が奉仕するうちにいつの間にか歳を取らなくなり不老不死になっていった、という話があるんだよ。人々は直接その恩恵にあずかれる訳ではないけれども、神社に訪れる事で本殿と少しでも繋がりを持ち長生きできるよう願ったわけだ」
「……その本殿って所に居たら、不老不死になるんですか」
「らしいね。本殿は常に美しく、庭園では死なない鯉が池を泳ぎ、常に美しいままの色とりどりの花が咲き続けているというから、不老不死の対象は人だけではないんだろう」
「……そうですか……」
「大体分かったかな?」
「……大体分かりました。ありがとうございます……」
頭こそ下げたが、満足そうな様子に見えたかは怪しい。頭を抱えたい気分だった。
動物も、植物とか建物すら不老不死になる?
ならもしかして、蝕橆も?
「……おお、そうだ、そういえばこの前資料を整理していたらこんな物を見つけてね」
「?」
板目に墨絵っぽいものが描かれた写真を手渡される。
「素烏神の絵姿を描いたものが、地元のとある家の物置に眠っていたらしい。神社が壊れた際に、もしかしたら奉納物を一時的に近所に預けたりしていたのかもしれないね。詳しい出所は彼に聞きそびれてしまっていたんだが……」
映っていたのは、日本の神っぽさがありつつも妙な絵だった。服装からみて、男神だろうか。長い黒髪を一切結ばずに垂れ流し、豪華そうな着物を少し雑に着ている。右耳からピアスのように、大きめの腕輪くらいの太い輪を二重にぶら下げているのが目についた。
「ああ、これは男輪だね。澄谷に限らず、この地方一帯の広い昔の風習では、男性が右耳、女性が左耳に輪をつけるらしいんだ」
(ん?)
「片耳のピアスというと男性が左耳、女性が右耳という認識が大勢だから逆だね。まあ、その左右は男性が利き手を使えるよう右側に立つ中世ヨーロッパの風習に由来するものだから、左に刀を差すため男性が左に来る日本だと逆転しやすいというのはあるだろうね」
「そ……そう……ですか……」
「つまり左耳に輪を通すのはこの地方では女性性とか同性愛的ニュアンスのアピールになるわけで……しかしね、廃れた風習だしそんなに気にすることはないよ、サカキ君」
「いえ……全然っ……」
……左耳にガッツリ外せない輪を通していて気にしないは無理だ。おまけにそれを渡してきたのが、その昔々から生きている存在だとすれば。
(あいつ……絶対この事知っててわざと左に着けただろっ……!)
「役に立ったかなあ」
顔を青くしたり赤くしたりして話に聞き入ってくれた珍しい高校生を部屋の外まで見送って、教授はラムネの瓶を持ち上げた。
「ふぁぁ、おはようございま……あれ、かきぴー先生どうしたんですか? 外のお客さん?」
隣の仮眠室から顔を覗かせたゼミ生の顔に、教授は一瞬で頬の肉を持ち上げ、ふくふくと笑った。
「いやね、昔の教え子の事を聞きに人が訪ねてきたんだよ。いや、懐かしい話をした」
「ふーん?」
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