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5と付き人メイトーク
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◇ドール[ハネさんは、流石にハロウィンイベントは欠席ですね。お会いできるのを楽しみにしていたのですが。]
◆ハネ[僕も残念です。来年は参加できると良いのですが]……
画面に参加承認依頼が通知されて、僕はやり取りをいったん止めた。承認する。
◇ハギコ[こんにちは翰さん 丹生子さんの件承認ありがとうございます ご無沙汰していてすみません]
[ようこそ]と返してログインしているメンバー全体……今回は「ドール」さんだけに共有する。セキュリティが強固な代わりにUIは簡単なチャット通信アプリだ。簡単にメンバーが共有チャットに加わる。
◇ハギコ[こんにちは あのドールさん 初めましてでしょうか]
◇ドール[はい。二年前くらいからこちらにお邪魔しています。ジェルマ様の付き人のドールボットと申します。]
◇ハギコ[松白萩子と申します 鹿猪鶴姫の付き人です]
◇ドール[鹿猪さんというと、サイコメトリーの?]
◇ハギコ[はい ジェルマさんとは一度 雄王様がお会いしたことがあるかと]
しばらく二人のやり取りが続いた。
松白さんとは先日の一件でお会いしている。「ドール」さん……ドールボットさんは東欧にお住まいの超能力者、ジェルマさんの付き人だ。少なくとも10ヶ国語を堪能に扱うらしく、チャットで困ったことはない。
ジェルマさんにもドールボットさんにも直接お会いしたことはないけれど、話はこのチャットでよく聞いている。ジェルマさんの超能力、特に「テレパシー」について。
僕たちは超能力を、五感のように情報を受け取る力「エスパー」と、現実に干渉する力「サイキック」に分けて考えることが多い。警視庁蜂庫さんの資料が露骨だったように、超能力者の社会的な影響力の大小はサイキック側の強さを見れば分かると思われている節がある。そのせいで説明が面倒だ。
テレパシーは、一般的なイメージ通りのものだ。人の心の声を読むエスパーだけでなく、考えたことを声を使わず人に伝えるサイキックもできる。ジェルマさんから見ると、丹生子さんの超能力は半分しかないことになるだろう。だからテレパシーではなく「読心」と呼ぶ。
そのジェルマさんはたいそう話好きで、ドールボットさんはいつもテレパシーで会話をさせられるらしい。強制的に。
[DJがリスナーの思ったことを全部拾って話に混ぜてくるラジオです。それをいつも聞きたいと思いますか?]
……とはドールボットさんが以前、深夜に漏らした言葉だ。
◆ハネ[……では、そろそろ。アドベントの件で、ドールボットさんにご報告と相談がありました。松白さんは情報共有のために来ていただいています]
◇ドール[はい、お聞きしていた通りですね。よろしくお願いします。]
僕は、今日あったこと……5つ目の「アドベント」の話を二人に伝える。
今日の昼過ぎ、丹生子さんと買い物をしていたときに、刑事の朱裁さんから連絡が入った。
『直接で悪い。蜂庫に連絡がつかないもので』
朱裁均志さんは祖父に超能力者を持つ非超者だ。生前は狙った音を聴き取る、透聴のエスパーとして高名な人だったとか。当然、朱裁さんは色々を知っているけど、所属は一般の刑事課だ。電話口の声が小声だったのは、同僚の刑事たちが超能力者のことを知らされていない人たちだからだろう。
僕からプライベートの携帯に掛けても蜂庫さんに繋がらなかったので、直接話を聞いた。
『殺人の現場に怪しい奴が後から来て逃げた痕がある。そいつが超能力者かもしれない』
……殺人事件そのものについては、朱裁さんは頑なに言わなかった。『こういう場所は悪意で使われやすいんだ。殺人に超能力者が絡んでいる可能性は低い』とだけ。状況はこうだ。朱裁さんたちは、とある事件の捜査中、その廃墟施設で事件が起きた可能性が高いと突き止めた。朱裁さんたち数名の刑事で向かったところ、大きなステンドグラス窓が建物の外側に向かって粉々に割られており、施設内は事件現場となっていた。遺体は死後半日ほど経過したもので、鈍器で殴打されたのが死因とみられる。
◆ハネ[……そのステンドグラスを割ったのが超能力者ではないか、というのが朱裁さんの見立てでした。あまりに不自然だったそうです。屋内から強い力で綺麗に、高さ5メートル以上ある大窓を上から下まで割って散らしたような有様だと聞きました]
現場の図を共有する。砕けたガラスや鉛線のパーツの散らばり範囲については写真を貰ったのでかなり正確に再現した。
◇ハギコ[あのすみません ひとつ質問が]
◆ハネ[はい]
◇ハギコ[事件のことや遺体の位置が書かれていますが 教えてもらえなかったと 先ほど言ってらしたような]
◆ハネ[正確には想像です。朱裁さんのお話から、いくらか察しがついたもので]
朱裁さんの口は軽くないけれど、写真に壁面とガラスの色合いが写っているので建物はすぐ分かる。複雑な宗教画のステンドグラスが有名な、ある宗教施設の跡地。厄介な新興宗教が絡んでいるらしく、これだけ見事な造りでも町外れに放置されていた。手がかりがないか建物内を歩いてもらうついでに、音の反響から朱裁さんが近寄らない、遺体のあるエリアの察しをつけたり、他の刑事さんの声を漏れ聞いた。ステンドグラスの調査をしてもらったときには野次馬らしき声も聞こえてきた。
◇ハギコ[すみません あの もう質問はありません 続けてください]
◆ハネ[では。朱裁さんの見立てでは、事件が起きてからステンドグラスが割られるまでに時間差があります。窓が割れ風が吹いて、遺体の衣服や髪が動いたときに、小さい血溜まりはすでに乾いていたようです。他の痕跡も……何も知らずにここを訪れた人が、遺体を見つけ、なぜか大窓を割って逃げたように見えると]
結果的にその人は、「アドベント」犯の可能性が高い。朱裁さんと刑事さんたちが「ア」「ベ」「ト」「5」などの文字が書かれた色ガラスの破片を執念で見つけてくれたから。他にもありそうだ。ステンドグラスにメッセージを残して事件を起こそうとしていて、そこがすでに殺人現場になっていたので計画を中断して逃げた。そう見える。
◇ハギコ[なぜその文字は書いたのでしょう 殺人現場からはすぐに立ち去った方がよいのでは]
◆ハネ[犯行推定時刻は深夜です。建物の外から色つきのステンドグラスに文字を書いた時点では、建物内が全く見えていなかったのではないかと]
◇ハギコ[なるほど]
ドールボットさんは静かだ。当然だとは思う。
◆ハネ[細かい状況はこれからお伝えするとして、ドールボットさんには、このガラスを割ったのが、飛行のサイキックによるものの可能性はあるか、お聞きしたいんです]
◇ドール[何故ですか?]
聞き返したくなるだろうなと僕も思う。
飛行。超能力者の身体と、その触れている物を好きなように選び、浮かせたり飛ばすことができる。ジェルマさんの持つもう一つの超能力だ。あまりスピードは出せないけど、その場に留まるホバリングのような浮き方や細やかな空中移動、自分の身体と連動して物を動かせるため、念動力で宙を動かされるよりもはるかに精密だ。念動力の超能力者は自分を直接動かせないというのも違う点。
◇ドール[それだけの力でガラスを割ったのなら、考えられるのは念動力です。ハネさんはよくご存知のはず。飛行はそれほど使えるものではありません。]
もちろん知っている。念動力といえば青丹さんだ。犯人を締め上げて気絶させる力もあり、風一つとっても台風のような威力をゼロから出せる。強度増強のために、両側を透明なガラスの層で包んだタイプのステンドグラスでも割るのは簡単だ。
◆ハネ[2点、考慮いただきたいことが。1、割れ方に違和感があると朱裁さんから意見がありました]
普通のガラスと違い、ステンドグラスには鉛線という丈夫な金属パーツが使われることがある。ガラス片の繋ぎ目になるものだ。このステンドグラスは、鉛線で直線や概形を作り、曲線や複雑な形の部分はハンダで繋いで作られていた。ステンドグラスが衝撃で割れるとき、まずはガラス、次に弱いハンダ部分が千切れる。鉛線は散るだけで壊れない。鉛線とガラス片の色合いを目印にすれば、鑑定を待たずともある程度ガラスの割れ方を推測できる。
◆ハネ[ガラスは、散らばりはしていても、ほとんど重なることなく、元々の絵の配置を保ったまま落ちていました]
台風で窓が割れるとき、風の力だけでガラス窓が割れることはほとんどない。念動力で物を壊すときも同じだ。風の力や圧力だけで割るような、効果の見こめないことはまずしない。風で巻き上げた固い物、石などを窓にぶつける。
だから普通なら、力が加わった場所を中心に、同時に割れた部分が混ざり合い重なって落ちるはずだ。
◇ドール[理解しました。ガラスを取り外して地面に叩きつけた可能性があるのですね。それなら飛行もありえます。不自然です。]
例えば。飛行超能力者が、ガラスカッターでも用意しておいてステンドグラスを大きく切り抜きながら浮かせる。自分の身体とステンドグラスを高所まで引き上げたら、ステンドグラスを超能力の対象から外す。十分な高さからなら落下だけで粉々に割れるはずだ。それから大窓の端へと移動し、ガラスカッターによる断面を固い物を叩きつけて割っていき、全て処理する。
不自然だ。時間もかかる。わざわざそんなことをやったとは思えない。でも、力づくで楽に大窓を割れて違和感も残さないはずの念動力でこんな工作をしたというよりは、不自然じゃない。
◇ドール[では、飛行の超能力者が念動力の仕業に見せかけようとしたわけですね。]
◆ハネ[それはまだ……]
ガラスカッターで切られたハンダ断面やガラスはいずれ見つかるだろう。そもそもガラスの散り方がおかしい。念動力の仕業に見せかけるのが目的だったとは、僕はあまり思っていない。
◇ドール[ハネさんは、あまり危機に陥ったことがないかもしれませんが。]
◆ハネ[はい?]
◇ドール[信じられないほど「詰めが甘い人」は存在します。それも、危機的状況に陥っているときには。仕込み中に殺人現場に気づき、「アドベント」犯は相当焦ったでしょう。現場を演出するのが好きな犯人にとって、勝手に現場が荒らされ、殺人の罪まで着せられるのは気に入らないのですよ。避けたいのです。]
そういうものだろうか? 確かに、普通なら今回の殺人事件はアドベントの一部に見えただろう。たまたま警察が殺人犯の手がかりを持っていたから無関係と判断されただけだ。過去の例を見ても爆弾には明らかな殺意がある。
◇ドール[往々にして、ことを有耶無耶にしたい方は大袈裟に現場を荒らします。労力を考えると、誤魔化すのに必ずガラスは割らなければならなかったのでしょう。犯人はもともと、メッセージを書いた色ガラスを割って散らばし、丹生子さんに「ジグソーパズル」でもさせるつもりだったのではありませんか?]
◆ハネ[ありえます]
ステンドグラスは、補強のために透明なガラスで両面を覆われていた。メッセージが色ガラスに書かれていた以上、少なくとも透明なガラスを割っている。以前から割れていたか、殺人の折に割れたかもしれないけど。
◇ドール[メッセージを書いた部分だけガラスを割ったときに、中の様子を察したとしましょう。わずかの範囲なら中から外へ割ったガラスを掃き出し、大きくガラスを割ることで誤魔化せると考えることはありえます。メガネでも割ってしまい、その破片を大量のガラスで隠した、という理由でも構いませんが推理小説のようですね。私はやはり、派手で小賢しい偽装工作を後先考えずしたかっただけだと思いますよ。こんな偽装工作をしている間に、飛行でも念動力でも、証拠のガラス片を周囲の土ごと持ち去る余裕はありました。]
ドールボットさんはまだ入力を続けている。思いのほか辛辣だ。
◇ハギコ[あのすみません 今さらなのですが これは「アドベント」扱いなのでしょうか 犯人は途中で諦めてしまったのですよね 改めて5つ目を仕掛けてくる可能性はありませんか]
◆ハネ[おそらく大丈夫です。ニュースでガラス片に書かれていた文字の一部を公開してもらいました。丹生子さんからも超能力者連合に話を通し、犯人にだけ通じるメッセージを発信してもらいます。無かったことにはさせないそうです]
◇ハギコ[なるほど]
丹生子さんは、『お前の仕掛けた不自然な現場は解決してみせた、ってメッセージを出してやるんだ。「問題不備だ、出題し直させてくれ」なんてダサいことは言えなくしてやろう』と楽しそうに言っていた。
◇ドール[私からも、もう一つだけ質問が。犯人が飛行能力者である可能性について、2つ考慮することがあると言っていましたね。1つはガラスの割れ方の不自然として、もう1つは何でしょう。]
◆ハネ[以前の現場に、飛行能力者が出入りしていた可能性があります]
4つ目のアドベントの現場。鹿猪さんが突き止めた、屋根に大穴の空いた廃家屋のことだ。屋内に比べ、玄関や窓を人が出入りした痕跡が乏しく、近隣住民の目撃証言も異様に少なかった。屋根や壁を伝った跡なども無い。そのため犯人が、夜中に大穴から痕跡を残さず密かに出入りしていたのでは、と推測が立っていた。
◇ドール[その話を先にお話しになっても良かったのでは? 私の説得がたやすくなったでしょう。]
◆ハネ[目的は説得ではありません。今回の現場について、飛行に詳しい方から正しく判断いただきたかったんです]
一連の「アドベント」の事件は、単独犯の仕業とは思えない。念動力の超能力持ちも犯人メンバーにいるかもしれない。
◇ドール[義憤は抱きませんか? 念動力を偽られたのですよ。]
……特に無い。
◆ハネ[青丹さんが疑われる状況ではありませんし、犯人が念動力でも青丹さんが責められる筋合いはありません。もちろん飛行だったとしても、ジェルマさんもです。義憤というなら、殺人事件に対しての方が大きいかと]
不思議と返信は遅かった。
◇ドール[そうでしたね。すみません、熱くなってしまいました。]
◆ハネ[今日はありがとうございました。またお話ししましょう]
……長いやり取りを終えて、通信を切る。いつものように通知がポップアップした。
~~~~~
《今回仲良くなったメイト》
今回のホスト:あなた ハネ(シゼイハネ)
仲良しのメイト:
・ドール(ドールボット)
仲良くなったメイト:
・ハギコ(マツシロハギコ)
《交流を重ねてもっと仲良くなりましょう!》
[カテゴリ:付き人] より
今回未参加のおすすめメイト:
・ショー(メイショードー)
・ヤナギ(トゲツヤナギ)
《あと1ヶ月でメイト関係が解消されます!》
[カテゴリ:安全装置] より
連絡のないメイト:
・ハレオ(スズハレオ)
~~~~~
……通知を消す。
__________
Next 10/21 15:00
◆ハネ[僕も残念です。来年は参加できると良いのですが]……
画面に参加承認依頼が通知されて、僕はやり取りをいったん止めた。承認する。
◇ハギコ[こんにちは翰さん 丹生子さんの件承認ありがとうございます ご無沙汰していてすみません]
[ようこそ]と返してログインしているメンバー全体……今回は「ドール」さんだけに共有する。セキュリティが強固な代わりにUIは簡単なチャット通信アプリだ。簡単にメンバーが共有チャットに加わる。
◇ハギコ[こんにちは あのドールさん 初めましてでしょうか]
◇ドール[はい。二年前くらいからこちらにお邪魔しています。ジェルマ様の付き人のドールボットと申します。]
◇ハギコ[松白萩子と申します 鹿猪鶴姫の付き人です]
◇ドール[鹿猪さんというと、サイコメトリーの?]
◇ハギコ[はい ジェルマさんとは一度 雄王様がお会いしたことがあるかと]
しばらく二人のやり取りが続いた。
松白さんとは先日の一件でお会いしている。「ドール」さん……ドールボットさんは東欧にお住まいの超能力者、ジェルマさんの付き人だ。少なくとも10ヶ国語を堪能に扱うらしく、チャットで困ったことはない。
ジェルマさんにもドールボットさんにも直接お会いしたことはないけれど、話はこのチャットでよく聞いている。ジェルマさんの超能力、特に「テレパシー」について。
僕たちは超能力を、五感のように情報を受け取る力「エスパー」と、現実に干渉する力「サイキック」に分けて考えることが多い。警視庁蜂庫さんの資料が露骨だったように、超能力者の社会的な影響力の大小はサイキック側の強さを見れば分かると思われている節がある。そのせいで説明が面倒だ。
テレパシーは、一般的なイメージ通りのものだ。人の心の声を読むエスパーだけでなく、考えたことを声を使わず人に伝えるサイキックもできる。ジェルマさんから見ると、丹生子さんの超能力は半分しかないことになるだろう。だからテレパシーではなく「読心」と呼ぶ。
そのジェルマさんはたいそう話好きで、ドールボットさんはいつもテレパシーで会話をさせられるらしい。強制的に。
[DJがリスナーの思ったことを全部拾って話に混ぜてくるラジオです。それをいつも聞きたいと思いますか?]
……とはドールボットさんが以前、深夜に漏らした言葉だ。
◆ハネ[……では、そろそろ。アドベントの件で、ドールボットさんにご報告と相談がありました。松白さんは情報共有のために来ていただいています]
◇ドール[はい、お聞きしていた通りですね。よろしくお願いします。]
僕は、今日あったこと……5つ目の「アドベント」の話を二人に伝える。
今日の昼過ぎ、丹生子さんと買い物をしていたときに、刑事の朱裁さんから連絡が入った。
『直接で悪い。蜂庫に連絡がつかないもので』
朱裁均志さんは祖父に超能力者を持つ非超者だ。生前は狙った音を聴き取る、透聴のエスパーとして高名な人だったとか。当然、朱裁さんは色々を知っているけど、所属は一般の刑事課だ。電話口の声が小声だったのは、同僚の刑事たちが超能力者のことを知らされていない人たちだからだろう。
僕からプライベートの携帯に掛けても蜂庫さんに繋がらなかったので、直接話を聞いた。
『殺人の現場に怪しい奴が後から来て逃げた痕がある。そいつが超能力者かもしれない』
……殺人事件そのものについては、朱裁さんは頑なに言わなかった。『こういう場所は悪意で使われやすいんだ。殺人に超能力者が絡んでいる可能性は低い』とだけ。状況はこうだ。朱裁さんたちは、とある事件の捜査中、その廃墟施設で事件が起きた可能性が高いと突き止めた。朱裁さんたち数名の刑事で向かったところ、大きなステンドグラス窓が建物の外側に向かって粉々に割られており、施設内は事件現場となっていた。遺体は死後半日ほど経過したもので、鈍器で殴打されたのが死因とみられる。
◆ハネ[……そのステンドグラスを割ったのが超能力者ではないか、というのが朱裁さんの見立てでした。あまりに不自然だったそうです。屋内から強い力で綺麗に、高さ5メートル以上ある大窓を上から下まで割って散らしたような有様だと聞きました]
現場の図を共有する。砕けたガラスや鉛線のパーツの散らばり範囲については写真を貰ったのでかなり正確に再現した。
◇ハギコ[あのすみません ひとつ質問が]
◆ハネ[はい]
◇ハギコ[事件のことや遺体の位置が書かれていますが 教えてもらえなかったと 先ほど言ってらしたような]
◆ハネ[正確には想像です。朱裁さんのお話から、いくらか察しがついたもので]
朱裁さんの口は軽くないけれど、写真に壁面とガラスの色合いが写っているので建物はすぐ分かる。複雑な宗教画のステンドグラスが有名な、ある宗教施設の跡地。厄介な新興宗教が絡んでいるらしく、これだけ見事な造りでも町外れに放置されていた。手がかりがないか建物内を歩いてもらうついでに、音の反響から朱裁さんが近寄らない、遺体のあるエリアの察しをつけたり、他の刑事さんの声を漏れ聞いた。ステンドグラスの調査をしてもらったときには野次馬らしき声も聞こえてきた。
◇ハギコ[すみません あの もう質問はありません 続けてください]
◆ハネ[では。朱裁さんの見立てでは、事件が起きてからステンドグラスが割られるまでに時間差があります。窓が割れ風が吹いて、遺体の衣服や髪が動いたときに、小さい血溜まりはすでに乾いていたようです。他の痕跡も……何も知らずにここを訪れた人が、遺体を見つけ、なぜか大窓を割って逃げたように見えると]
結果的にその人は、「アドベント」犯の可能性が高い。朱裁さんと刑事さんたちが「ア」「ベ」「ト」「5」などの文字が書かれた色ガラスの破片を執念で見つけてくれたから。他にもありそうだ。ステンドグラスにメッセージを残して事件を起こそうとしていて、そこがすでに殺人現場になっていたので計画を中断して逃げた。そう見える。
◇ハギコ[なぜその文字は書いたのでしょう 殺人現場からはすぐに立ち去った方がよいのでは]
◆ハネ[犯行推定時刻は深夜です。建物の外から色つきのステンドグラスに文字を書いた時点では、建物内が全く見えていなかったのではないかと]
◇ハギコ[なるほど]
ドールボットさんは静かだ。当然だとは思う。
◆ハネ[細かい状況はこれからお伝えするとして、ドールボットさんには、このガラスを割ったのが、飛行のサイキックによるものの可能性はあるか、お聞きしたいんです]
◇ドール[何故ですか?]
聞き返したくなるだろうなと僕も思う。
飛行。超能力者の身体と、その触れている物を好きなように選び、浮かせたり飛ばすことができる。ジェルマさんの持つもう一つの超能力だ。あまりスピードは出せないけど、その場に留まるホバリングのような浮き方や細やかな空中移動、自分の身体と連動して物を動かせるため、念動力で宙を動かされるよりもはるかに精密だ。念動力の超能力者は自分を直接動かせないというのも違う点。
◇ドール[それだけの力でガラスを割ったのなら、考えられるのは念動力です。ハネさんはよくご存知のはず。飛行はそれほど使えるものではありません。]
もちろん知っている。念動力といえば青丹さんだ。犯人を締め上げて気絶させる力もあり、風一つとっても台風のような威力をゼロから出せる。強度増強のために、両側を透明なガラスの層で包んだタイプのステンドグラスでも割るのは簡単だ。
◆ハネ[2点、考慮いただきたいことが。1、割れ方に違和感があると朱裁さんから意見がありました]
普通のガラスと違い、ステンドグラスには鉛線という丈夫な金属パーツが使われることがある。ガラス片の繋ぎ目になるものだ。このステンドグラスは、鉛線で直線や概形を作り、曲線や複雑な形の部分はハンダで繋いで作られていた。ステンドグラスが衝撃で割れるとき、まずはガラス、次に弱いハンダ部分が千切れる。鉛線は散るだけで壊れない。鉛線とガラス片の色合いを目印にすれば、鑑定を待たずともある程度ガラスの割れ方を推測できる。
◆ハネ[ガラスは、散らばりはしていても、ほとんど重なることなく、元々の絵の配置を保ったまま落ちていました]
台風で窓が割れるとき、風の力だけでガラス窓が割れることはほとんどない。念動力で物を壊すときも同じだ。風の力や圧力だけで割るような、効果の見こめないことはまずしない。風で巻き上げた固い物、石などを窓にぶつける。
だから普通なら、力が加わった場所を中心に、同時に割れた部分が混ざり合い重なって落ちるはずだ。
◇ドール[理解しました。ガラスを取り外して地面に叩きつけた可能性があるのですね。それなら飛行もありえます。不自然です。]
例えば。飛行超能力者が、ガラスカッターでも用意しておいてステンドグラスを大きく切り抜きながら浮かせる。自分の身体とステンドグラスを高所まで引き上げたら、ステンドグラスを超能力の対象から外す。十分な高さからなら落下だけで粉々に割れるはずだ。それから大窓の端へと移動し、ガラスカッターによる断面を固い物を叩きつけて割っていき、全て処理する。
不自然だ。時間もかかる。わざわざそんなことをやったとは思えない。でも、力づくで楽に大窓を割れて違和感も残さないはずの念動力でこんな工作をしたというよりは、不自然じゃない。
◇ドール[では、飛行の超能力者が念動力の仕業に見せかけようとしたわけですね。]
◆ハネ[それはまだ……]
ガラスカッターで切られたハンダ断面やガラスはいずれ見つかるだろう。そもそもガラスの散り方がおかしい。念動力の仕業に見せかけるのが目的だったとは、僕はあまり思っていない。
◇ドール[ハネさんは、あまり危機に陥ったことがないかもしれませんが。]
◆ハネ[はい?]
◇ドール[信じられないほど「詰めが甘い人」は存在します。それも、危機的状況に陥っているときには。仕込み中に殺人現場に気づき、「アドベント」犯は相当焦ったでしょう。現場を演出するのが好きな犯人にとって、勝手に現場が荒らされ、殺人の罪まで着せられるのは気に入らないのですよ。避けたいのです。]
そういうものだろうか? 確かに、普通なら今回の殺人事件はアドベントの一部に見えただろう。たまたま警察が殺人犯の手がかりを持っていたから無関係と判断されただけだ。過去の例を見ても爆弾には明らかな殺意がある。
◇ドール[往々にして、ことを有耶無耶にしたい方は大袈裟に現場を荒らします。労力を考えると、誤魔化すのに必ずガラスは割らなければならなかったのでしょう。犯人はもともと、メッセージを書いた色ガラスを割って散らばし、丹生子さんに「ジグソーパズル」でもさせるつもりだったのではありませんか?]
◆ハネ[ありえます]
ステンドグラスは、補強のために透明なガラスで両面を覆われていた。メッセージが色ガラスに書かれていた以上、少なくとも透明なガラスを割っている。以前から割れていたか、殺人の折に割れたかもしれないけど。
◇ドール[メッセージを書いた部分だけガラスを割ったときに、中の様子を察したとしましょう。わずかの範囲なら中から外へ割ったガラスを掃き出し、大きくガラスを割ることで誤魔化せると考えることはありえます。メガネでも割ってしまい、その破片を大量のガラスで隠した、という理由でも構いませんが推理小説のようですね。私はやはり、派手で小賢しい偽装工作を後先考えずしたかっただけだと思いますよ。こんな偽装工作をしている間に、飛行でも念動力でも、証拠のガラス片を周囲の土ごと持ち去る余裕はありました。]
ドールボットさんはまだ入力を続けている。思いのほか辛辣だ。
◇ハギコ[あのすみません 今さらなのですが これは「アドベント」扱いなのでしょうか 犯人は途中で諦めてしまったのですよね 改めて5つ目を仕掛けてくる可能性はありませんか]
◆ハネ[おそらく大丈夫です。ニュースでガラス片に書かれていた文字の一部を公開してもらいました。丹生子さんからも超能力者連合に話を通し、犯人にだけ通じるメッセージを発信してもらいます。無かったことにはさせないそうです]
◇ハギコ[なるほど]
丹生子さんは、『お前の仕掛けた不自然な現場は解決してみせた、ってメッセージを出してやるんだ。「問題不備だ、出題し直させてくれ」なんてダサいことは言えなくしてやろう』と楽しそうに言っていた。
◇ドール[私からも、もう一つだけ質問が。犯人が飛行能力者である可能性について、2つ考慮することがあると言っていましたね。1つはガラスの割れ方の不自然として、もう1つは何でしょう。]
◆ハネ[以前の現場に、飛行能力者が出入りしていた可能性があります]
4つ目のアドベントの現場。鹿猪さんが突き止めた、屋根に大穴の空いた廃家屋のことだ。屋内に比べ、玄関や窓を人が出入りした痕跡が乏しく、近隣住民の目撃証言も異様に少なかった。屋根や壁を伝った跡なども無い。そのため犯人が、夜中に大穴から痕跡を残さず密かに出入りしていたのでは、と推測が立っていた。
◇ドール[その話を先にお話しになっても良かったのでは? 私の説得がたやすくなったでしょう。]
◆ハネ[目的は説得ではありません。今回の現場について、飛行に詳しい方から正しく判断いただきたかったんです]
一連の「アドベント」の事件は、単独犯の仕業とは思えない。念動力の超能力持ちも犯人メンバーにいるかもしれない。
◇ドール[義憤は抱きませんか? 念動力を偽られたのですよ。]
……特に無い。
◆ハネ[青丹さんが疑われる状況ではありませんし、犯人が念動力でも青丹さんが責められる筋合いはありません。もちろん飛行だったとしても、ジェルマさんもです。義憤というなら、殺人事件に対しての方が大きいかと]
不思議と返信は遅かった。
◇ドール[そうでしたね。すみません、熱くなってしまいました。]
◆ハネ[今日はありがとうございました。またお話ししましょう]
……長いやり取りを終えて、通信を切る。いつものように通知がポップアップした。
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《今回仲良くなったメイト》
今回のホスト:あなた ハネ(シゼイハネ)
仲良しのメイト:
・ドール(ドールボット)
仲良くなったメイト:
・ハギコ(マツシロハギコ)
《交流を重ねてもっと仲良くなりましょう!》
[カテゴリ:付き人] より
今回未参加のおすすめメイト:
・ショー(メイショードー)
・ヤナギ(トゲツヤナギ)
《あと1ヶ月でメイト関係が解消されます!》
[カテゴリ:安全装置] より
連絡のないメイト:
・ハレオ(スズハレオ)
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……通知を消す。
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