自由に、そして幸せに。

あめ

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「じゃぁ、早く食べましょ、いただきます。
どうぞ召し上がれ!」
「はーい!
いただきます!」
「いただきます」
「((ペコリ))」

この世界にも“いただきます”の文化があるみたいで、皆両手を合わせて挨拶をする。
僕はいまだにユウちゃんと話すとき以外は声が出ないので、手を合わせてお辞儀をするだけになってしまった。
それでもちゃんと心の中では“いただきます”と挨拶はする。 

…でもなかなか食欲が出なくて食べ始めることが出来ない。
スープだけでも頑張って飲みたい。元の世界でもスープはのめてたし問題ないはずなんだけど、環境が違うからなのか、知らない人が目の前にいるからなのかわからないけど、全然食欲がわかない。こっちに来てからまともに食べてないからお腹はすいてるはずなのに。お腹がすいてる感じが全然しないし、食べる気にもならない。
…どうしよう。具はとりあえず気にせずにスープだけ飲もうかな。

「───カ…ミカ…大丈夫?」
「え……あ……」
「あ、ミカ君大丈夫?口に合わなかったかしら?」
「((ブンブン!))」

どうしようか考えていると、ユウちゃんに服の裾を引っ張られて気がつくと、ヘレンさんとダリアさんが心配そうに僕の様子を窺っていた。
まだ食べてないけど。おいしくないからボーっとしていると思われたままは嫌だったから、あわてて首を振り、一気にスープを口に流し込む。具は唇で止まって口の中には流れてこなかった。
スープを半分ほど飲んでから、器から口を離す。
味が少し濃い。本来なら平気だけど、今日は食欲が全然ないため、この濃さは少々しんどい。
口の中にスープの味が広がる感覚が少し気持ち悪くて、ユウちゃんの服の裾をギューっと握って耐えるけど、思わず顔をしかめてしまう。

「…やっぱりおいしくないかしら?」
「((ブンブン))」
「無理しなくていいのよ?」
「あ、あの、ミカ、調子よくないみたいで、食欲ないらしくて…それで一気に飲んで気分悪くなっちゃっただけだと思います。気にしないでください。
昨日も持ってたパン、あまり食べられなかったから…別においしくないわけじゃないですよ!」
「そうなの?」
「((コクコクッ!!))」
「そう…ならよかったわ!
調子悪いなら少し味が濃かったかしら…?ごめんなさいね、食べられるだけ食べてくれたらいいから、無理しないでね」
「((ペコリ))」

よかった…ユウちゃんがフォローしてくれて…
じゃなかったら、僕の問題なのにヘレンさんを傷つけてしまうところだった。
でも申し訳ないな…。せっかく作ってくれたのに、味わってちゃんと食べることが出来ないなんて。気分悪いだろうな…自分の作ったものを食べた人が顔をしかめるなんて。僕、最低だ。…もう最悪。
一気に飲んだから気持ち悪いし。ヘレンさんに酷いことしてしまうし。自分の体調ちゃんと把握できてたらこんなことにはならなかったかもしれないのに。あせって、一気にん飲んで、気持ち悪くなって、結果ヘレンさんに酷い態度取って。そのくせ自分で訳も話せなくて、謝ることも出来なくて…もぅ…ほんとに最悪…。

「ミカ…大丈夫だから、そんなに気にしなくていいよ。残りは俺が代わりにおいしく食べるから。責めなくていいよ。」
「……」

ユウちゃんは優しいな…。この空気を作った元凶である僕のこともちゃんと気遣ってくれて、フォローしてくれるなんて…。
またそうやってユウちゃんにも迷惑をかけてしまう自分が嫌だ。

「ミカ、後で話そう。((コソッ))」
「……なにを?」
「なんかずっともやもやした顔してるから…とりあえず、な?」
「…わかった。ありがとう」


「そう言えばミカ君って、声、出ないの?話せないの?」
「…っ!」
「あ、ミカは、人なれしてないのか、緊張して声が出なくなるみたいです」
「それを知ってるってことは、ユウ君とは話せるんだ?」
「そうですね…気がついた時から一緒にいましたし」
「そっか~いいなぁ~僕もミカ君とお話ししたいなぁ~
ねぇ、何か話せない?」
「こら!緊張して声の出ない子を余計緊張させてどうするのさ!」
「あ…それもそうか…じゃぁ、いつか一緒にお話ししようねぇ~?」
「((こくこく))」

…僕も話したい。こうやって気を使わせてしまうのも嫌だ。
ほんとに精神耐性レベルMAXなのか疑問になってきた。
精神耐性が機能してのこれは、もうどうしたらいいんだろう…レベルMAXだけじゃ無理なら、対人耐性とかもないとだめなのかな…そんなの創造スキルで作れるのかな…ムリだろうな…なんか枠が違ってたし…




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