本物のチート能力を手に入れたけど、使い方が分からないのだが

夜兎

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魔法は使いたいけど使えない。チートのくせにチート具合が半端なんだけど

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「あんたは?」

 振り返った先には、どこか嬉しそうに首を傾げている黒い髪の少女。
 本当にゲームとかに出てきそうな、絵に描いたような美少女だ。思わず視線を逸らしてしまう。

「ああ、ごめんなさい。──私はナナ。旅人みたいなものだよ。もう一度聞くけど、君は冒険者なの?」

 黒髪で名前がナナか。日本人──じゃないよな? 
 しかし、何故こんなに冒険者なのかを尋ねてくるのか? 冒険者も旅人も似たようなものだと思うのだが……。

「冒険者ってのは旅人とは違うのか?」
「全然! 旅人は自称で、冒険者は資格を持つ人のことなんだから──って、そんなこと聞いてくるってことは違うんだね」
「まあ、そうだな」

 なるほど。旅人という職業はないが、冒険者という職業はあるんだな。
 ここでこんな話が出てくるということはおそらく、今後俺は冒険者になるということだろうか?

「残念。冒険者だったら依頼したかったんだけどなぁ」
「依頼?」

 クエストみたいなものか。ゲームや漫画で冒険者といえば、確かにクエストを受けるイメージはあるが……ターン制という割に、MMOのようなシステムになってるのか?

「ちなみに、どんな依頼なんだ?」
「スライムの討伐だよ。正確には、生きたスライムの核が必要なの」
「ふむ……」

 さっき戦ったやつだろうか。しかし、核が必要となると俺は役に立ちそうにないな。

「悪いな。どうやら俺では役に立てそうにない。さっきスライムと戦ったが、俺はその核とやらを破壊して倒すことしかできないらしいからな」

 核を傷つけずにHPを0にすれば良いのかもしれないが、レベルが上がったとはいえ、攻撃は受けても一回までだろう。二回も攻撃されれば、負けは目に見えている。

「そんな人居るの……? 魔法は使えないってこと?」

 魔法……火球ファイアボールとやらが存在するのだから、まああるとは思っていたが、現地民らしき人間からそれを聞けたのは大きい。
 この世界には間違いなく、魔法というものが存在するのだ! これはテンション上がる!

 しかしこの言い方だと、魔法は使えて当たり前? この世界では珍しいものではなさそうだな。

「使えない。使い方を知らないだけかも知れないが、使った事はないな」
「そっか……やっぱり冒険者じゃないんだ。それじゃ、君はなんでこんな場所に?」

 あー……困る質問来ちゃったな。俺にも分からんが、そんな回答で納得されるとは思えないし、かといって代わりになるような回答を知らん。
 こういう時どう答えるのが正解なんだ。

 思わず黙り込んでしまう。なんともいたたまれない沈黙が過ぎていく。
 不思議そうに首を傾げたままの彼女は、特に言葉を続けることもなく、ひたすらに俺の回答待ちだ。

 せめてこの世界のことがもう少しわかれば、誤魔化すこともできるんだろうけど、いかんせん情報が無さすぎるんだよな……。
 続く沈黙は更に空気を重くする。もうなんでも良いから言った方がいいのか? 美少女にこれほど見つめられるのは悪い気がしなくなってきてる自分が居て、ちょっと怖くなってきたんだが。

 結局状況に甘んじて眺められる現状、さすがにおかしいだろ。
 体感だが、もう十分は経ってると思うんだが、彼女に一切の動きを感じない。俺の回答待ちでそんなに長く待てるものなのか?
 ただ一つだけ、ターン制のバトルを思い出して、思いついた事はある。あるのだが──まさか、そんなことないよな?

「……道に迷ったんだ」

 いい回答が浮かばなかった。浮かばなかったが、とりあえず何か答えたかったんだ。確認のために。

「道に? 近くの街でも結構かかると思うけどな……すごい方向音痴くん?」

 まるで、さっきの間がなかったかのように返される、小馬鹿にした声。
 間違い無いな。さっきの間は俺の回答を待っていた。──ただし、彼女の意思ではなく、世界の意思として。
 つまり、あの時間はRPGで言うところの、プレイヤーに選択権を委ねられる選択肢が現れていた場面なのだろう。
 ……あの回答で今後どんな影響があるかは知らないが、まあ意味のない選択肢というものもよくあることだ。深く考えても仕方ないだろう。

「まあ、そんな事はともかく、依頼を受けてやれなくて悪いな。助けてやりたい気持ちはあるんだが」
「それじゃ、私が教える──てのはどう?」
「教える? 一体なにを」
「ま、ほ、う‼︎」

 一体なにを言ってるんだ?
 彼女が俺に魔法を教える? 魔法が使えないから、冒険者を探してたんじゃないのか。
 魔法が使えない人間が、魔法なら使い方を教えることなんてできるわけないだろう……。
 これは当てが外れたか?
 チュートリアルの案内人でも、ヒロインでもない、ただのモブなのかも知れないな。残念美少女と言うところか。

「変な期待をさせないでくれ」
「教わった事はあるから、教えるだけならできるよ?」

 さも当たり前と言いたげに首を傾げるその様子からは、冗談の類には見えなかった。
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