31 / 31
夢の果て、町のはじまり
しおりを挟む
――十月十五日、芝。
季節外れの秋祭りが、町全体で催された。
団子の屋台。くじ引き。芝居小屋。子どもたちの歌声。
いつもの賑わい、けれどどこか、誇りに満ちた空気が流れていた。
町のあちこちに掲げられたのは、新たに町政が掲げる理念の旗。
「町は、町に生きる者のもの」
「商いは、人と人とをつなぐ」
⸻
芝銀会の会所では、初の町政公開会議が開かれていた。
参加者には商人だけでなく、大工、農夫、町娘、奉公人、寺子屋の師匠――
誰もが意見を言い、誰もが票を持った。
「町の金は、どこに使うべきか」
「芝火消し連は、正式に町の守り手とすべきか」
笑い合い、ぶつかり合い、それでも会議は進む。
それはまさしく、**“新しい江戸のかたち”**だった。
⸻
その頃――京。
小さな庵にて、桐生屋長兵衛は一人、米を研いでいた。
「……俺のような男が作ろうとした秩序など、
初めから“信じる者”がいなければ、瓦のように崩れるものか」
月明かりの下、
彼はかつての部下から届いた芝の瓦版を静かに開いた。
「江戸・町人の会議始まる」
「“誠の町”へ、芝に人集う」
彼はふっと笑った。
「負けたな、あの町人に」
⸻
江戸。
惣一郎は、屋台の片づけを終えたあと、
ひとり団子を焼きながら、火の揺らぎを見つめていた。
清兵衛が近づく。
「……お前、これからどうするんだ?」
「決まってるさ。
誰かの暮らしに、“少しだけでも、笑いが増える”そんな町を作る」
「政治を動かした町人ってのは、どんな次を目指すんだ?」
惣一郎は少し笑って言った。
「“政治を知らずに笑える日々”を目指すよ。
何も知らなくていい、何も怖がらずに暮らせる――
そんな“普通”が、一番遠かったからな」
⸻
そして翌朝、
惣一郎は町の中心に立ち、子どもたちの笑い声を聞きながら、静かに語った。
「この町は、俺の夢だった。
でも――今日からは、“みんなの夢”だ」
「誠が通じる町を信じてくれたすべての人に、ありがとう」
拍手が起きた。
それは、ひとつの物語の終わりであり、
“民がこの国を動かす”という、未来のはじまりだった。
⸻
―完―
季節外れの秋祭りが、町全体で催された。
団子の屋台。くじ引き。芝居小屋。子どもたちの歌声。
いつもの賑わい、けれどどこか、誇りに満ちた空気が流れていた。
町のあちこちに掲げられたのは、新たに町政が掲げる理念の旗。
「町は、町に生きる者のもの」
「商いは、人と人とをつなぐ」
⸻
芝銀会の会所では、初の町政公開会議が開かれていた。
参加者には商人だけでなく、大工、農夫、町娘、奉公人、寺子屋の師匠――
誰もが意見を言い、誰もが票を持った。
「町の金は、どこに使うべきか」
「芝火消し連は、正式に町の守り手とすべきか」
笑い合い、ぶつかり合い、それでも会議は進む。
それはまさしく、**“新しい江戸のかたち”**だった。
⸻
その頃――京。
小さな庵にて、桐生屋長兵衛は一人、米を研いでいた。
「……俺のような男が作ろうとした秩序など、
初めから“信じる者”がいなければ、瓦のように崩れるものか」
月明かりの下、
彼はかつての部下から届いた芝の瓦版を静かに開いた。
「江戸・町人の会議始まる」
「“誠の町”へ、芝に人集う」
彼はふっと笑った。
「負けたな、あの町人に」
⸻
江戸。
惣一郎は、屋台の片づけを終えたあと、
ひとり団子を焼きながら、火の揺らぎを見つめていた。
清兵衛が近づく。
「……お前、これからどうするんだ?」
「決まってるさ。
誰かの暮らしに、“少しだけでも、笑いが増える”そんな町を作る」
「政治を動かした町人ってのは、どんな次を目指すんだ?」
惣一郎は少し笑って言った。
「“政治を知らずに笑える日々”を目指すよ。
何も知らなくていい、何も怖がらずに暮らせる――
そんな“普通”が、一番遠かったからな」
⸻
そして翌朝、
惣一郎は町の中心に立ち、子どもたちの笑い声を聞きながら、静かに語った。
「この町は、俺の夢だった。
でも――今日からは、“みんなの夢”だ」
「誠が通じる町を信じてくれたすべての人に、ありがとう」
拍手が起きた。
それは、ひとつの物語の終わりであり、
“民がこの国を動かす”という、未来のはじまりだった。
⸻
―完―
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
花嫁
一ノ瀬亮太郎
歴史・時代
征之進は小さい頃から市松人形が欲しかった。しかし大身旗本の嫡男が女の子のように人形遊びをするなど許されるはずもない。他人からも自分からもそんな気持を隠すように征之進は武芸に励み、今では道場の師範代を務めるまでになっていた。そんな征之進に結婚話が持ち込まれる。
【完結】ふたつ星、輝いて 〜あやし兄弟と町娘の江戸捕物抄〜
上杉
歴史・時代
■歴史小説大賞奨励賞受賞しました!■
おりんは江戸のとある武家屋敷で下女として働く14歳の少女。ある日、突然屋敷で母の急死を告げられ、自分が花街へ売られることを知った彼女はその場から逃げだした。
母は殺されたのかもしれない――そんな絶望のどん底にいたおりんに声をかけたのは、奉行所で同心として働く有島惣次郎だった。
今も刺客の手が迫る彼女を守るため、彼の屋敷で住み込みで働くことが決まる。そこで彼の兄――有島清之進とともに生活を始めるのだが、病弱という噂とはかけ離れた腕っぷしのよさに、おりんは驚きを隠せない。
そうしてともに生活しながら少しづつ心を開いていった――その矢先のことだった。
母の命を奪った犯人が発覚すると同時に、何故か兄清之進に凶刃が迫り――。
とある秘密を抱えた兄弟と町娘おりんの紡ぐ江戸捕物抄です!お楽しみください!
※フィクションです。
※周辺の歴史事件などは、史実を踏んでいます。
皆さまご評価頂きありがとうございました。大変嬉しいです!
今後も精進してまいります!
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
『五感の調べ〜女按摩師異聞帖〜』
月影 朔
歴史・時代
江戸。盲目の女按摩師・市には、音、匂い、感触、全てが真実を語りかける。
失われた視覚と引き換えに得た、驚異の五感。
その力が、江戸の闇に起きた難事件の扉をこじ開ける。
裏社会に潜む謎の敵、視覚を欺く巧妙な罠。
市は「聴く」「嗅ぐ」「触れる」独自の捜査で、事件の核心に迫る。
癒やしの薬膳、そして人情の機微も鮮やかに、『この五感が、江戸を変える』
――新感覚時代ミステリー開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる