江戸夢草紙 〜仇討ちから始まる町人革命〜

鈴武謙

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声の連鎖、誠は国を揺らす

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将軍・徳川家慶の裁断によって、江戸に新しい風が吹いた。

「町は町人のもの」――その思想は、瞬く間に他の藩や商都にも伝播し、
京都、大坂、長崎、仙台、松本……
全国の町々で“声なき者たち”が口を開き始めた。



「私ども大坂米問屋にも、白鷺屋から過剰な上納が課せられておりました」
「加賀屋の分家が、名目なき流通税を……」
「町奉行の役人が、嘆願書を破棄していた証拠がこちらに……」

一通、また一通。
芝銀会のもとには、全国から告発の書状が届くようになった。

惣一郎はそれを、町政会議の机に丁寧に並べていった。

「今まで、声を上げられなかった人たちが……俺たちの声で、勇気を持った」

播磨屋兵吉が言った。

「お前の誠意が、“誠意を呼んだ”んだよ」



ついに、幕府も動いた。
将軍裁断により、**大監察(おおけんさつ)**が全国に派遣され、白鷺屋や加賀屋の帳簿が精査されることになる。

その結果――
• 白鷺屋は京・大坂で不正な両替収益を蓄積し、
数千両を“御用名目”で隠匿していたことが発覚。
• 加賀屋本家は地方の奉行と結託し、町の市場を囲い込み支配していた記録が露見。
• 幕府の一部役人は、商人からの献金により職を保持していた事実が帳簿から明るみに出た。

これにより、
白鷺屋の京本家は営業停止、加賀屋本家は閉門処分、関係した奉行5名が罷免・追放。

桐生屋長兵衛は、その座を降り、
ひとり、京の町外れに姿を消した。



江戸――
芝銀会には、各町から感謝の札が届いていた。

「今まで、黙っていたのは怖かったからじゃねぇ。
 希望がなかったからだ。お前が灯したんだよ」

そう言ったのは、かつて敵だった日本橋の商人、酒井屋太兵衛だった。



夜、惣一郎は焚き火の前で、静かに団子を焼いていた。

信次郎が隣に座る。

「なぁ、兄ちゃん。……終わったのか?」

「いや。ようやく、“始まった”んだよ。
政治が民のためにあることを、“国中が知った”日が、ようやく来ただけだ」

火は静かに燃えていた。
だが、江戸中――いや、日本中の町の奥底で、
同じような火が、いま確かに灯り始めていた。
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