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第15話 輝く夜会
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ダリウス公爵邸の大広間は、かつてない熱気に包まれていた。領内の有力貴族や商家の人々が、恐る恐る、といった様子で集まっている。彼らは皆、「呪われた公爵家」の恐ろしい噂を知っていたからだ。
「おい、聞いたか? 屋敷は瘴気にまみれ、亡霊が徘徊しているとか……」
「公爵様も、全身が黒い靄に覆われた化け物だという話だが……」
しかし、ホールに足を踏み入れた瞬間、彼らの懸念は驚愕へと変わった。
「な、なんだここは!?」
そこにあったのは、塵一つない大理石の床、虹色の光を放つクリスタルのシャンデリア、そして窓の外に広がる、ライトアップされた美しい庭園だった。
空気は高原のように澄み渡り、飾られた花々は瑞々しい香りを放っている。亡霊どころか、王城よりも神聖な空気が漂っていたのだ。
「……まるで天上の宮殿だ」
ため息が漏れる中、ファンファーレが鳴り響いた。
「当主、レオンハルト・ヴァン・ダリウス公爵閣下。ならびに、フローラ・メルヴィル様の入場です!」
大階段の上に、二つの人影が現れた。
漆黒の礼服を纏い、威厳に満ちた美貌の公爵。
そしてその腕に手を添える、夜明けの空の色をしたドレスの淑女。
私が緊張で足を震わせていると、レオンハルト様が耳元で囁いた。
「堂々としていろ。今日の主役は俺じゃない、お前だ」
「でも、皆さんが見ています……」
「見せつけてやればいい。俺が手に入れた『幸福』をな」
彼は不敵に笑い、私をエスコートして階段を下りた。
その一歩ごとに、私のドレスから微細な光の粒子が舞い散る。それは演出ではない。緊張した私が無意識に漏らしてしまった『清浄化』の魔力だ。
その光は波紋のように広がり、ゲストたちの緊張や不安、旅の疲れを優しく拭い去っていく。
「あ、体が軽い……?」
「なんだか幸せな気分になってきたぞ」
「あの方が、噂の聖女様か……!」
会場がどよめき、やがて割れんばかりの拍手が巻き起こった。恐れられていた『穢れ公爵』は、今や光の女神を連れた英雄として迎え入れられたのだ。
◇
ダンスタイム。
私たちはホールの中心でワルツを踊った。
昨夜のレッスン通り、レオンハルト様のリードは完璧だった。回るたびにドレスが花のように開き、視線が絡み合う。
「フローラ」
「はい」
「……愛している」
曲の盛り上がりで、彼が音に紛れて呟いた。
あまりに自然で、真剣な声音。
私は驚きでステップを間違えそうになったが、彼はそれを抱き留めるように強く引き寄せた。
「この領地も、この屋敷も、そして俺の心も。全てお前が救ってくれた。……一生、俺のそばにいてくれ」
「……はい。喜んで」
私は涙をこらえて微笑んだ。
ここが私の居場所だ。もう誰にも、地味だなんて言わせない。私はここで一番幸せな「掃除屋」になるのだから。
幸せの絶頂の中、夜会は大成功を収めた。
◇
――一方その頃。王都、王城にて。
「おい、どうなっているんだ!」
アシュリー王太子の怒号が響き渡っていた。
彼の執務室は、かつての清潔さが嘘のように薄汚れていた。カーテンは煤け、花瓶の水は腐り、机の上には原因不明の黒いシミが広がっている。
そして何より、彼自身の体調が悪かった。肩が重い。頭が痛い。常に何かがまとわりついているような不快感がある。
「ミリア! 聖女の仕事はどうした! 城の結界が弱まっているのではないか?」
呼び出されたミリアは、以前の派手さは見る影もなく、目の下にクマを作って震えていた。
「や、やっていますわ! 毎日『聖なる光』を放っています! でも、汚れが落ちないんですの! 何度魔法をかけても、すぐにまた黒い靄が出てきて……」
「言い訳など聞きたくない! 国民からも苦情が殺到しているんだぞ。『最近、街が臭い』『疫病が流行りだした』とな!」
王太子は頭を抱えた。
フローラがいなくなってから一ヶ月。
彼らはようやく気付き始めていた。
これまで当たり前だと思っていた「快適な生活」が、誰の犠牲の上に成り立っていたのかを。
「……フローラだ」
王太子が忌々しげに、しかし縋るようにその名を呟いた。
「あの地味な女……あいつの掃除が、実は重要だったというのか? くそっ、たかが掃除係の分際で!」
彼は机を叩き、歪んだ目で側近に命じた。
「探せ! フローラを連れ戻せ! 王太子の命令だと言えば、泣いて喜んで戻ってくるはずだ。……あの女には、俺しかいないのだからな」
その身勝手な命令が、北の辺境で幸せを掴んだ彼女に届くのは、もう間もなくのことだった。
「おい、聞いたか? 屋敷は瘴気にまみれ、亡霊が徘徊しているとか……」
「公爵様も、全身が黒い靄に覆われた化け物だという話だが……」
しかし、ホールに足を踏み入れた瞬間、彼らの懸念は驚愕へと変わった。
「な、なんだここは!?」
そこにあったのは、塵一つない大理石の床、虹色の光を放つクリスタルのシャンデリア、そして窓の外に広がる、ライトアップされた美しい庭園だった。
空気は高原のように澄み渡り、飾られた花々は瑞々しい香りを放っている。亡霊どころか、王城よりも神聖な空気が漂っていたのだ。
「……まるで天上の宮殿だ」
ため息が漏れる中、ファンファーレが鳴り響いた。
「当主、レオンハルト・ヴァン・ダリウス公爵閣下。ならびに、フローラ・メルヴィル様の入場です!」
大階段の上に、二つの人影が現れた。
漆黒の礼服を纏い、威厳に満ちた美貌の公爵。
そしてその腕に手を添える、夜明けの空の色をしたドレスの淑女。
私が緊張で足を震わせていると、レオンハルト様が耳元で囁いた。
「堂々としていろ。今日の主役は俺じゃない、お前だ」
「でも、皆さんが見ています……」
「見せつけてやればいい。俺が手に入れた『幸福』をな」
彼は不敵に笑い、私をエスコートして階段を下りた。
その一歩ごとに、私のドレスから微細な光の粒子が舞い散る。それは演出ではない。緊張した私が無意識に漏らしてしまった『清浄化』の魔力だ。
その光は波紋のように広がり、ゲストたちの緊張や不安、旅の疲れを優しく拭い去っていく。
「あ、体が軽い……?」
「なんだか幸せな気分になってきたぞ」
「あの方が、噂の聖女様か……!」
会場がどよめき、やがて割れんばかりの拍手が巻き起こった。恐れられていた『穢れ公爵』は、今や光の女神を連れた英雄として迎え入れられたのだ。
◇
ダンスタイム。
私たちはホールの中心でワルツを踊った。
昨夜のレッスン通り、レオンハルト様のリードは完璧だった。回るたびにドレスが花のように開き、視線が絡み合う。
「フローラ」
「はい」
「……愛している」
曲の盛り上がりで、彼が音に紛れて呟いた。
あまりに自然で、真剣な声音。
私は驚きでステップを間違えそうになったが、彼はそれを抱き留めるように強く引き寄せた。
「この領地も、この屋敷も、そして俺の心も。全てお前が救ってくれた。……一生、俺のそばにいてくれ」
「……はい。喜んで」
私は涙をこらえて微笑んだ。
ここが私の居場所だ。もう誰にも、地味だなんて言わせない。私はここで一番幸せな「掃除屋」になるのだから。
幸せの絶頂の中、夜会は大成功を収めた。
◇
――一方その頃。王都、王城にて。
「おい、どうなっているんだ!」
アシュリー王太子の怒号が響き渡っていた。
彼の執務室は、かつての清潔さが嘘のように薄汚れていた。カーテンは煤け、花瓶の水は腐り、机の上には原因不明の黒いシミが広がっている。
そして何より、彼自身の体調が悪かった。肩が重い。頭が痛い。常に何かがまとわりついているような不快感がある。
「ミリア! 聖女の仕事はどうした! 城の結界が弱まっているのではないか?」
呼び出されたミリアは、以前の派手さは見る影もなく、目の下にクマを作って震えていた。
「や、やっていますわ! 毎日『聖なる光』を放っています! でも、汚れが落ちないんですの! 何度魔法をかけても、すぐにまた黒い靄が出てきて……」
「言い訳など聞きたくない! 国民からも苦情が殺到しているんだぞ。『最近、街が臭い』『疫病が流行りだした』とな!」
王太子は頭を抱えた。
フローラがいなくなってから一ヶ月。
彼らはようやく気付き始めていた。
これまで当たり前だと思っていた「快適な生活」が、誰の犠牲の上に成り立っていたのかを。
「……フローラだ」
王太子が忌々しげに、しかし縋るようにその名を呟いた。
「あの地味な女……あいつの掃除が、実は重要だったというのか? くそっ、たかが掃除係の分際で!」
彼は机を叩き、歪んだ目で側近に命じた。
「探せ! フローラを連れ戻せ! 王太子の命令だと言えば、泣いて喜んで戻ってくるはずだ。……あの女には、俺しかいないのだからな」
その身勝手な命令が、北の辺境で幸せを掴んだ彼女に届くのは、もう間もなくのことだった。
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