お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます

咲月ねむと

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​第12話 閉ざされた鉱山

 ​礼拝堂の一件からしばらく経ち、領都が活気を取り戻し始めた頃。私は廊下の隅の埃と格闘している最中に、カイ様の執務室から漏れ聞こえる深刻そうな会話を耳にしてしまった。

​「…やはり、銀鉱山の再稼働は困難か」
「はっ。瘴気が濃すぎるあまり、鉱脈そのものが穢れ、銀の品質も著しく低下しております。落盤の危険も高く、もはや閉鎖もやむなしと…」

 ​バルトロさんの沈痛な声。
 銀鉱山。それは、このアイスバーグ領の最も重要な産業のはず。それが機能不全に陥っているなんて、領地の財政はかなり厳しいに違いない。

​(鉱山が……汚染されている……?)

 ​その言葉を聞いた瞬間、私の心に宿るお掃除魂に、カチリと火がついた。

 危険?困難?そんなもの、ガンコな汚れの前に比べれば大した問題じゃないわ。

 ​私は磨いていた床をそのままに、勢いよく執務室の扉をノックした。

​「カイ様!その鉱山のお掃除、ぜひ、この私にお任せくださいませ!」

 ​突然の乱入と私の申し出に、カイ様とバルトロさんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。

​「アリシア…?聞こえていたのか。だが、ダメだ。鉱山は礼拝堂とは訳が違う。瘴気も濃く、いつ崩れるやもしれん。君をそんな危険な場所へ行かせるわけにはいかない」

 ​カイ様は、私の身を案じて厳しい声で反対する。その気持ちは嬉しい。嬉しいけれど、汚れている場所があると知って、黙って見過ごすことなんて、私にはできない。

​「カイ様がご心配なさるお気持ち、よく分かります。でも、鉱山が泣いているのです!瘴気という汚れに覆われて、助けを求めているんです!私に行かせてください!」

 ​私が瞳を潤ませながら訴えると、カイ様はぐっと言葉に詰まった。そして、長い、長いため息の後、根負けしたように言った。

​「…分かった。だが、条件がある。私の用意する万全の準備が整うまで、決して鉱山に近づかないと誓え」
「はい、もちろんですわ!」

 ​こうして私は辺境領の未来を賭けた、一大お掃除プロジェクトに挑むことになったのだ。


 ​そして翌日。
 鉱山の入口に立った私は自分の格好を見て、改めてカイ様の準備の完璧さに感動していた。
 ​頭には、落石から頭を守る頑丈な帽子。目には、粉塵を防ぐゴーグル。そして、全身をすっぽりと覆う、純白のつなぎ服。関節部分は動きやすいように工夫され、生地には何重にも防御魔法がかけられているらしい。

​「すごい…!完璧な作業着ですわ!これならどんな汚れも怖くありません!」

 ​私が大喜びしている隣で、カイ様も全く同じ純白の作業着に身を包んでいる。氷の騎士様が着ると、ただの作業着まで高貴な騎士の甲冑のように見えてしまうから不思議だ。

​「カイ様まで、お揃いの作業着を…?」
「当たり前だ。君を一人で行かせるわけがないだろう」

 ​その有無を言わせぬ言葉に、私の胸がきゅんとなる。

​(そうよね!カイ様も綺麗好きですものね!私がちゃんと掃除するか、監督にいらしたのね!)

 ​鉱山からは、どんよりとした濃い瘴気が漏れ出している。出迎えてくれた鉱夫さんたちの顔も、諦めの色で暗い。

 ​けれど、私は希望に満ち溢れていた。

 カイ様が用意してくれた、強力なライト付きの帽子。隅々の汚れまで見逃さないわ。
 それに高圧洗浄機のような魔道具。どんなガンコな汚れも吹き飛ばしてみせる。
 そして、カイ様自らのご同行という、最高のサポート。

 ​私は特製のブラシをきゅっと握りしめ、瘴気が渦巻く鉱山の暗い入口を見据えた。

​「さぁ、始めましょう!辺境領一、いえ、世界で一番クリーンな鉱山を目指して!」

 ​私の高らかな宣言が静かな山に響き渡った。 
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