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第21話 浄化された王子
「何の、騒ぎだ」
地を這うような低い声。部屋に飛び込んできたカイ様は、私と、すっかり大人しくなったエドワード王子を交互に見ると、その蒼い瞳に、静かだが激しい嫉妬の炎を燃え上がらせた。
「アリシア。……説明しろ」
いつも冷静なカイ様が、感情をむき出しにしている。その瞳には怒りと、そして、ほんの少しの不安の色が浮かんでいるように見えた。
カイ様は、私が王子様と何か良からぬことをしていたと誤解しているのかもしれない。
私が何か言う前に意外な人物が口を開いた。
「待ってくれ、カイ辺境伯」
立ち上がったのは、エドワード王子だった。彼の顔からは先程までの欲望や嫉妬の色は消え失せ、浄化された部屋の空気のように澄み切っていた。
「全て、私の過ちだ」
王子は、カイ様と、そして私の前で深く頭を下げた。
「私は、君が辺境で活躍していると聞き、嫉妬に駆られた。そして、リリアの浅はかな策略に乗り、君を陥れようとした……。アリシア嬢、本当に、すまなかった」
潔い告白だった。
浄化の力は、埃だけでなく、彼の心の淀みまでも洗い流してしまったらしい。王子の衝撃的な告白にリリア嬢が顔を真っ青にして叫んだ。
「ち、違いますわ!王子様、何を…!この女が、あなたを誘惑したのでは!」
「黙れ、リリア」
エドワード王子は、冷たい声でリリア嬢を一蹴した。
「君の企みは、もうすべて分かっている。君には心底失望した」
「そ、そんな……!」
カイ様が部屋の隅で控えていた自身の騎士に、顎で合図を送る。騎士たちは、顔面蒼白で震えるリリア嬢の両腕を掴んだ。
「王族を唆し、辺境伯の客人を陥れようとした罪は重い。牢で、己の愚かさを猛省するがいい」
カイ様の冷徹な言葉を最後に、リリア嬢はなすすべもなく部屋から連行されていった。
こうして嵐のような騒動は、一応の決着を見た。
改めて、エドワード王子が私に向き直る。
「アリシア嬢。私は、君という人間の価値を完全に見誤っていた。君を追放したこと、心から詫びる。許してくれとは言わない。だが、これだけは伝えたかった」
真摯な謝罪。けれど、私の頭の中では、この一連の出来事は、全く別の物語として構成されていた。
(王子様は、埃アレルギーでお困りだった。リリア様は、王子様を助けたい一心で、お掃除のプロであるわたくしをここに呼んでくださった。そして、見事わたくしが問題を解決した…!なんと心温まるお話でしょう!)
私は感動に胸を震わせながら、王子様に深々と頭を下げた。
「いいえ、王子様!こちらこそ、このような埃っぽいお部屋にご案内してしまい、大変申し訳ございませんでした!すべては、わたくしの掃除が行き届いていなかったせいですわ!」
「「…………」」
私の斜め上の謝罪に、カイ様とエドワード王子は、二人そろって絶句した。
やがて、エドワード王子は諦めたようにふっと笑い、カイ様は深いため息をついた。
次の瞬間、カイ様は私の腕をぐいと掴むと、力強く自分の背中へと引き寄せた。まるで、宝物を隠すかのように。
「話は済んだな、王子。アリシアは私の侍女だ。今後、私の許可なく、彼女に近づくことは許さん」
その言葉は、エドワード王子への明確な警告であり、そして私への強い所有の意思表示だった。
王子は、カイ様に庇護される私を一瞥すると、少しだけ寂しそうに、しかし、すっきりとしたい表情で頷いた。
カイ様に手を引かれ、塔の部屋を後にする。
そんな状況でも、私の思考は、やはりお掃除へと向いていた。
(まぁ、カイ様ったら、そんなに腕を強く引っぱらなくても、この塔のお掃除は逃げたりしませんのに!)
地を這うような低い声。部屋に飛び込んできたカイ様は、私と、すっかり大人しくなったエドワード王子を交互に見ると、その蒼い瞳に、静かだが激しい嫉妬の炎を燃え上がらせた。
「アリシア。……説明しろ」
いつも冷静なカイ様が、感情をむき出しにしている。その瞳には怒りと、そして、ほんの少しの不安の色が浮かんでいるように見えた。
カイ様は、私が王子様と何か良からぬことをしていたと誤解しているのかもしれない。
私が何か言う前に意外な人物が口を開いた。
「待ってくれ、カイ辺境伯」
立ち上がったのは、エドワード王子だった。彼の顔からは先程までの欲望や嫉妬の色は消え失せ、浄化された部屋の空気のように澄み切っていた。
「全て、私の過ちだ」
王子は、カイ様と、そして私の前で深く頭を下げた。
「私は、君が辺境で活躍していると聞き、嫉妬に駆られた。そして、リリアの浅はかな策略に乗り、君を陥れようとした……。アリシア嬢、本当に、すまなかった」
潔い告白だった。
浄化の力は、埃だけでなく、彼の心の淀みまでも洗い流してしまったらしい。王子の衝撃的な告白にリリア嬢が顔を真っ青にして叫んだ。
「ち、違いますわ!王子様、何を…!この女が、あなたを誘惑したのでは!」
「黙れ、リリア」
エドワード王子は、冷たい声でリリア嬢を一蹴した。
「君の企みは、もうすべて分かっている。君には心底失望した」
「そ、そんな……!」
カイ様が部屋の隅で控えていた自身の騎士に、顎で合図を送る。騎士たちは、顔面蒼白で震えるリリア嬢の両腕を掴んだ。
「王族を唆し、辺境伯の客人を陥れようとした罪は重い。牢で、己の愚かさを猛省するがいい」
カイ様の冷徹な言葉を最後に、リリア嬢はなすすべもなく部屋から連行されていった。
こうして嵐のような騒動は、一応の決着を見た。
改めて、エドワード王子が私に向き直る。
「アリシア嬢。私は、君という人間の価値を完全に見誤っていた。君を追放したこと、心から詫びる。許してくれとは言わない。だが、これだけは伝えたかった」
真摯な謝罪。けれど、私の頭の中では、この一連の出来事は、全く別の物語として構成されていた。
(王子様は、埃アレルギーでお困りだった。リリア様は、王子様を助けたい一心で、お掃除のプロであるわたくしをここに呼んでくださった。そして、見事わたくしが問題を解決した…!なんと心温まるお話でしょう!)
私は感動に胸を震わせながら、王子様に深々と頭を下げた。
「いいえ、王子様!こちらこそ、このような埃っぽいお部屋にご案内してしまい、大変申し訳ございませんでした!すべては、わたくしの掃除が行き届いていなかったせいですわ!」
「「…………」」
私の斜め上の謝罪に、カイ様とエドワード王子は、二人そろって絶句した。
やがて、エドワード王子は諦めたようにふっと笑い、カイ様は深いため息をついた。
次の瞬間、カイ様は私の腕をぐいと掴むと、力強く自分の背中へと引き寄せた。まるで、宝物を隠すかのように。
「話は済んだな、王子。アリシアは私の侍女だ。今後、私の許可なく、彼女に近づくことは許さん」
その言葉は、エドワード王子への明確な警告であり、そして私への強い所有の意思表示だった。
王子は、カイ様に庇護される私を一瞥すると、少しだけ寂しそうに、しかし、すっきりとしたい表情で頷いた。
カイ様に手を引かれ、塔の部屋を後にする。
そんな状況でも、私の思考は、やはりお掃除へと向いていた。
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