お掃除侍女ですが、婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、氷の騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます

咲月ねむと

文字の大きさ
30 / 37

​第30話 祝福のティアラ

​「――公開クリーニングを始めさせていただきます!」

 ​私の高らかな宣言にホールは奇妙な静寂に包まれた。嘲笑とも困惑ともつかない視線が、私の一挙手一投足に注がれる。

 イザベラ公爵夫人は、扇で口元を隠し、「愚かな娘め」とその瞳で語っていた。
 ​けれど、私は気にしない。目の前には、料理で言えば特Aランクの汚れが、私の腕を試そうと待ち構えているのだから。

​「ふむふむ…」

 ​私はまず、持参した携帯用ルーペを取り出し、ティアラをじっくりと観察した。

​「なるほど。これはまず、アルカリ性の特製溶液で表面の皮脂や埃の混合汚れを分解。次に、酸性の液体で金属部分の頑固な酸化を中和し、最後に粒子が均一な中性の研磨剤で磨き上げるのが定石ですわね」

 ​私のあまりにも専門的すぎる独り言に貴族たちがざわめく。

 私は構わず、持参した小さなボウルに数種類の液体を調合し始めると、柔らかな山羊の毛で作られたブラシにそれを浸し、優しくティアラを洗い始めた。

 ​シャリ、シャリ……と、心地よい音が響く。 

 私の手から放たれる淡い光――浄化の力が調合液に溶け込んでいく。
 ブラシがティアラの表面を撫でるたびに、黒ずんだ汚れが物理的に剥がれ落ちると同時に、ティアラにまとわりついていた禍々しいオーラが、まるで朝霧のように、すぅっと消えていく。

​「おお…!」
「黒い靄が…消えていくぞ!」

 ​最初は遠巻きに見ていた貴族たちから、驚きの声が上がり始めた。

​「なんてことだ、宝石が……輝き始めた!」
「祈りも、聖句も唱えていない……!だが、これはまさしく奇跡だ!」

 ​会場の空気は、嘲笑から驚愕、そして感嘆へと劇的に変わっていった。イザベラ公爵夫人の顔から余裕の笑みが消える。
 ​洗浄を終えた私は仕上げの工程に入る。粒子がダイヤモンドのように細かいという、秘蔵の研磨粉をセーム革につけ、金属部分と宝石を、一つ一つ、愛情を込めて丁寧に磨き上げていく。

キュッ、キュッ…。

 ​私が磨くたびに、ティアラは失われた輝きを次々と取り戻していく。
 黒ずんだ銀は月光のような清らかな輝きを放ち、濁っていた宝石は、内側から光が溢れ出すかのように虹色の煌めきを放ち始めた。

​そして、ついに。

​「はい、できましたわ!」

 ​私は完全に生まれ変わったティアラを誇らしげに両手で掲げた。
 禍々しい呪いのオーラは完全に消え失せ、ティアラは、まばゆいばかりの神聖な光を放つ「祝福のティアラ」へと変貌を遂げていた。
 その清らかな光はホール全体を優しく照らし、人々の心まで、温かく軽くしていくようだった。

​「『祝福のティアラ』、本日、リニューアルオープンです!」

 ​私の満面の笑みでの決め台詞に、一瞬の静寂の後、ホールは万雷の拍手に包まれた。

​「そ、そんな……馬鹿な……!あの呪いが…浄化された、だと……!?」

 ​目の前の光景が信じられず、イザベラ公爵夫人が震えながら後ずさる。
 彼女の完敗は、誰の目にも明らかだった。

 ​その時、カイ様が静かに私の隣へと進み出て、その腕で私の肩を誇らしげに抱いた。そして、ホール中の貴族たちに向かって、堂々と宣言する。

​「これが、我が辺境伯領が誇る聖女、アリシアだ。彼女の力は、どんな呪いも、どんな汚れも、輝きへと変える」

 ​カイ様の最大級の賛辞。

​「カイ様、ありがとうございます!」

 ​私は自分のお掃除の腕前を褒めてもらえたことが嬉しくて、最高の笑顔でカイ様を見上げた。私たちの王都デビューは、最も私たちらしい形で、この上ない大成功を収めたのだった。
感想 8

あなたにおすすめの小説

誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』

富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。

天才すぎて追放された薬師令嬢は、番のお薬を作っちゃったようです――運命、上書きしちゃいましょ!

灯息めてら
恋愛
令嬢ミーニェの趣味は魔法薬調合。しかし、その才能に嫉妬した妹に魔法薬が危険だと摘発され、国外追放されてしまう。行き場を失ったミーニェは隣国騎士団長シュレツと出会う。妹の運命の番になることを拒否したいと言う彼に、ミーニェは告げる。――『番』上書きのお薬ですか? 作れますよ? 天才薬師ミーニェは、騎士団長シュレツと番になる薬を用意し、妹との運命を上書きする。シュレツは彼女の才能に惚れ込み、薬師かつ番として、彼女を連れ帰るのだが――待っていたのは波乱万丈、破天荒な日々!?

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

ぐうたら令嬢は公爵令息に溺愛されています

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のレイリスは、今年で16歳。毎日ぐうたらした生活をしている。貴族としてはあり得ないような服を好んで着、昼間からゴロゴロと過ごす。 ただ、レイリスは非常に優秀で、12歳で王都の悪党どもを束ね揚げ、13歳で領地を立て直した腕前。 そんなレイリスに、両親や兄姉もあまり強く言う事が出来ず、専属メイドのマリアンだけが口うるさく言っていた。 このままやりたい事だけをやり、ゴロゴロしながら一生暮らそう。そう思っていたレイリスだったが、お菓子につられて参加したサフィーロン公爵家の夜会で、彼女の運命を大きく変える出来事が起こってしまって… ※ご都合主義のラブコメディです。 よろしくお願いいたします。 カクヨムでも同時投稿しています。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました

さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。 裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。 「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。 恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……? 温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。 ――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!? 胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!