Sランクアイドルと作る絶品ダンジョン飯~社畜Fランク探索者の俺が、グルメスキルで成り上がるのはどう考えてもおかしい件!!~

咲月ねむと

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第1話 社畜はダンジョンに

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「はぁ……疲れた……」

俺、佐藤健太さとうけんたは今年で25歳になる。しがないブラック企業の社畜であって、今日も今日とて終電間際までサービス残業。
そんな俺は心身ともに疲れ果て、ふらふらと夜道を歩いている最中だ。

唯一の救いは、この世界にはダンジョンが存在することだ。

数年前、世界各地に突如として出現した謎の穴。そこはモンスターが徘徊する危険な場所だが、同時に未知の食材や資源が眠る宝の山でもあるわけだ。

政府公認の『探索者』としてライセンスを取得すれば、誰でもダンジョンに潜ることができる。もちろんランクがあり、俺のような社畜が片手間でやっているレベルだと、最低ランクのFランクが普通だ。

「今日の晩飯、どうしよっかな……」

財布の中身は寂しい。すっからかんだ。
コンビニ弁当はそろそろ飽きた。となれば、行くしかないだろう。近所の低ランクダンジョン『初心者向けゴブリンの巣』へ。

そう、俺のささやかな楽しみであり、実益を兼ねた趣味。それは、ダンジョンで手に入れた食材で料理をすることなのだ。

モンスターの肉は、種類によっては意外とイケる。特にゴブリンミートは、下処理さえしっかりすれば、豚肉に近い感覚で使える安価で便利な肉と言えるだろう。

『初心者向けゴブリンの巣』は、その名の通り、Fランク探索者でも比較的安全に探索できるダンジョンだ。
出現するモンスターはゴブリン程度。動きは鈍いし、攻撃力も低い。注意さえしていれば、俺のような貧弱サラリーマンでもなんとかなる。

ダンジョンの入り口で探索者証をゲートにかざし、内部へと足を踏み入れる。ひんやりとした空気と土、そして微かにカビ臭い匂い。
いつ来ても、この非日常感には少しだけワクワクするものだ。

「さて、と。手早くゴブリンを数匹狩って、帰って一杯やるか」

愛用の安物ショートソードを抜き、慎重に歩を進める。ダンジョン内は薄暗いが、壁に自生する発光苔がぼんやりと辺りを照らしている。

しばらく進むと、通路の奥で何やら物音がした。

(お、いたいた。今日の晩飯ゲットだぜ)

物陰に隠れ、そっと様子を伺う。
ゴブリンが二匹、何かを囲んでうろうろしている。いや、というより踊っている。

(ん? 何か落ちてるのか?)

目を凝らして見ると、ゴブリンたちが囲んでいるのは、うずくまっている人影のようだった。

「……え?」

服装からして探索者だろうか。
しかし、こんな低ランクダンジョンで襲われている? 余程の初心者か、あるいは何かトラブルがあったのか。

「グルァ!」

「ギャッ!」

ゴブリンが手に持った棍棒を振り上げる。

(あれどう考えてもまずいだろ!)

「うおおっ!」

俺は咄嗟に物陰から飛び出した。
Fランクとはいえ、ゴブリン二匹程度なら、不意をつけばなんとかなる。

「そりゃっ!」

一体のゴブリンの脇腹にショートソードを叩きつける。手応えは薄いが、ゴブリンは悲鳴を上げて数歩後退した。もう一体がこちらに気づき、棍棒を振りかぶる。

「くっ!」

慌てて後退し、攻撃をかわした。
その隙に最初の一匹が体勢を立て直そうとする。まずい、挟まれる。

その時だった。

「……はぁっ!」

凛とした、しかしどこか力の抜けたような声が響いたかと思うと閃光が一閃した。

 俺が切りつけたゴブリンともう一体のゴブリンが、時間差でバラバラに砕け散る。

「…………へ?」

何が起こったのか理解できず、呆然と立ち尽くす俺。

目の前には、先ほどまでゴブリンに囲まれていた人物がゆっくりと立ち上がるところだった。長い綺麗な黒髪。サイズの大きいパーカー、キャップを深くかぶっていて顔はよく見えないが、どうやら若い女性のようだ。
それに手には、俺の安物とは比べ物にならない、洗練されたデザインの短剣が握られていた。

「あ、あの……大丈夫ですか?」
 
恐る恐る声をかけると、彼女はゆっくりとこちらを向いた。キャップの隙間から覗く大きな瞳が俺を捉える。

「……あ、ありがとうございます。助かりました」

か細い、綺麗な声。
だが、それ以上に俺の注意を引いたのは、彼女のお腹から響いた盛大な音だった。

 ぐうぅぅぅぅぅ~~~~~……。

「「…………」」

沈黙。気まずい沈黙が続く。

「あ、あの……もしかして、お腹、空いてます?」

俺がそう尋ねると、彼女はこくりと頷き、そして、恥ずかしそうに顔を手で隠した

「……はい。もう、何時間も、何も食べてなくて……動けなくて……」

まさかのガス欠。
どうやらゴブリンに襲われていたのではなく、空腹で動けなくなっていたところを運悪くゴブリンに見つかった、ということらしい。

それにしても、さっきのゴブリンを一瞬で倒したあの動き……ただ者ではない。
もしかして、高ランクの探索者なのだろうか? なのに、空腹で動けなくなるって……。

まあ、深く考えるのはやめよう。とにかく、目の前に腹ペコの人がいる。そして俺の手元には……今日の晩飯にするはずだった、新鮮なゴブリンミートが転がっている。

「……あの、もしよかったら、何か作りましょうか? 食材、これくらいしかないですけど」

俺は地面に散らばる前のゴブリンの残骸を指差した。

彼女は、一瞬きょとんとした顔をした。
それから、ぱあっと顔を輝かせたのだ。

「えっ!? いいんですか!? 食べたいです!」

その屈託のない笑顔は、不思議な魅力を持っていた。
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