Sランクアイドルと作る絶品ダンジョン飯~社畜Fランク探索者の俺が、グルメスキルで成り上がるのはどう考えてもおかしい件!!~

咲月ねむと

文字の大きさ
2 / 19

第2話 初めてのダンジョン飯

しおりを挟む
「えっと、じゃあ、ちょっと待っててくださいね」

俺は早速、リュックから携帯用の簡易コンロと小さなフライパン、調味料を取り出した。
さすがにダンジョン内で本格的な料理はできない。しかし簡単な炒め物くらいならできる。

今日のメニューは「ゴブリンミートのスタミナ炒め」に決定だ。

まずは先ほど彼女が倒したゴブリン……いや、今はもうただの素材となったそれから、使えそうな部位を切り出す。ゴブリンミートは筋が多いものの、モモ肉あたりは比較的柔らかい。

ダンジョンで手に入れたモンスター素材は、倒してから時間が経つと劣化して不味くなる。最悪食べられなくなるので、手早く処理するのが鉄則だ。
ナイフで慎重に赤身の部分をスライスしていく。緑がかった皮や妙に硬い筋は取り除く。
見た目は正直、あまりよくない。普通の人が見たら、まず食欲は湧かないだろう。

「……ふぅ」

切り出した肉を持参した水で軽く洗い、キッチンペーパーで水気を拭き取った。

そして、次は臭み消しのための下処理だ。
安い赤ワインを少々振りかけ、軽く揉み込む。これでゴブリン特有の泥臭さが軽減されるはずだ。

仕上げに塩コショウを振って下味をつける。

その間、彼女は少し離れた場所で体育座りをして俺の作業をじっと見つめている。
キャップを深くかぶっているので表情までは見えないが、期待に満ちたオーラがひしひしと伝わってくる。時折、ぐぅ、と可愛らしい音が聞こえてくるのが、なんとも言えない。

(しかし、本当に不思議な子だな……)

さっきの戦闘能力は明らかに素人じゃない。
それなのに、こんな低級ダンジョンで空腹で倒れているなんて。しかも俺がゴブリン肉を調理し始めたというのに嫌な顔一つしない。

むしろ興味津々といった様子だ。
高ランクの探索者ってお嬢様育ちが多いって聞くけど、この子は違うタイプなのかな?

「あの、ゴブリン肉とか……抵抗ないですか? 見た目、ちょっとアレですけど……」

一応、確認してみる。
いくら空腹でも、ゲテモノは無理という人もいるからな。

すると彼女は、ぶんぶんと勢いよく首を横に振った。

「全然ないです! むしろ、ダンジョン飯って、ちょっと憧れてました! テレビとかで特集されてるの見て、一度食べてみたかったんです!」

「へえ、そうなんですか?」

意外な答えに少し驚いた。

ダンジョン飯に憧れるなんて、物好きな子もいるもんだ。まあ、最近はグルメ番組でもたまに取り上げられたりするし、そういうのに影響されたのかもしれない。

フライパンをコンロで熱し、持参した少量のサラダ油をひく。そこに持参したニンニクチューブを投入。スタミナ料理なら必須品だ。
じゅわっと小さな音を立て、すぐに香ばしい香りが立ち上る。

「わぁ……! いい匂い……!」

彼女から小さな歓声が上がった。さっきからお腹の音が定期的に鳴っている。よほどお腹が空いているのだろう。早く作ってあげないと。

ニンニクの香りが立ってきたら、下味をつけたゴブリンミートを一気に投入する。

ジュワァァァッ!

ダンジョンの静かな空間に、焼ける良い音が響き渡る。肉が焼ける香ばしい匂いとニンニクの香りが混ざり合い、食欲を強烈に刺激する。

「うわぁ……!」

今度は、さっきよりも大きな感嘆の声。彼女はもう、完全にフライパンに釘付けだった。
肉の色が変わってきたら、火力を少し弱め、中までじっくり火を通す。ゴブリンミートは火を通しすぎると硬くなるので、タイミングが重要なのだ。

いい感じに火が通ったら、仕上げに醤油ベースの特製焼肉ダレ――もちろん市販品である。

それをフライパンに回しかければ、ジュッ!と音を立ててタレが煮詰まる。さらに濃厚な香りが立ち込めるとニンニクと醤油の焼ける匂い、そして肉の旨味が凝縮された香り。

これはもう、反則だろう。

俺自身も、思わずゴクリと喉が鳴る。

「よし、できた! 簡単なものですけど、どうぞ」

火から下ろし、まだ熱々のフライパンごと差し出す。さすがに皿に移す余裕はない。

ここはワイルドにいこう。

彼女は「ありがとうございます!」と元気よく言い、どこからともなく取り出したマイ箸で、湯気の立つゴブリン肉を一切れつまんだ。

ふーふー、と息を吹きかけ、少しだけ戸惑いながらも、おそるおそる口に運んだ。

そして、次の瞬間。

「んん~~~~っ!!!」

彼女の目が、きらーん!と効果音がつきそうなほど大きく見開かれた。
まるで宝石みたいにキラキラしているではないか。

「お、おいひいぃぃぃ~~~~っ!!!」

「え、あ、ありがとうございます……」

予想以上のリアクションに、俺は若干ひるむ。そんなに美味かったか? 

俺が作ったのは、スーパーで一番安いタレを使った、ただのゴブリン肉炒めだぞ?

「このお肉、ゴブリンなのに全然臭みがなくて、柔らかくて、タレとニンニクが絶妙に絡んでて……! 噛むほどに旨味がじゅわ~って! 最高ですっ!」

彼女は、それはもう幸せそうな顔で、次々と肉を口に運んでいく。その食べっぷりは見ていて気持ちがいいほどだ。
小さな口で、もぐもぐと一生懸命噛み締めている。時折、熱いのか「ふひ、ふひ」と息を漏らしているのも、なんだか可愛い。

あっという間に、フライパンは綺麗に空になった。タレの一滴すら残っていない。

「はぁ~……生き返りました……。本当に、ありがとうございました!」

満面の笑みで、彼女はぺこりと頭を下げた。
キャップが少しずれて、綺麗な額とサラサラの黒髪が見えた。

「いえいえ、お粗末様でした。口に合ったならよかったです」

正直、ここまで喜んでもらえると、作った甲斐があったというものだ。
料理人冥利に尽きる、とはこのことか。

「めちゃくちゃ合いました! こんな美味しいもの、初めて食べたかもしれません!」

(いや、それは絶対ないだろ……)

心の中でツッコミつつも、悪い気はしない。
むしろ、もっと美味しいものを作ってあげたい、という気持ちがむくむくと湧き上がる。

「あの、お名前、聞いてもいいですか?」

彼女は少し照れたように真っ直ぐな瞳で俺を見つめてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと
ファンタジー
東京での社畜生活に心身ともに疲れ果てた主人公・田中雄介(38歳)が、故郷の北海道、留咲萌町に帰郷。両親が遺したダンジョン付きの古民家を改装し、「ダンジョン民宿」として開業。偶然訪れた人気配信者との出会いをきっかけに、最初の客を迎え、民宿経営の第一歩を踏み出す。 笑えて、心温かくなるダンジョン物語。 ※この小説はフィクションです。 実在の人物、団体などとは関係ありません。 日本を舞台に繰り広げますが、架空の地名、建造物が物語には登場します。

俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき
ファンタジー
冒険者ナザルは油使い。 魔力を油に変換し、滑らせたり燃やしたりできるユニークスキル持ちだ。 その特殊な能力ゆえ、冒険者パーティのメインメンバーとはならず、様々な状況のピンチヒッターをやって暮らしている。 実は、ナザルは転生者。 とある企業の中間管理職として、人間関係を良好に保つために組織の潤滑油として暗躍していた。 ひょんなことから死んだ彼は、異世界パルメディアに転生し、油使いナザルとなった。 冒険者の街、アーランには様々な事件が舞い込む。 それに伴って、たくさんの人々がやってくる。 もちろん、それだけの数のトラブルも来るし、いざこざだってある。 ナザルはその能力で事件解決の手伝いをし、生前の潤滑油スキルで人間関係改善のお手伝いをする。 冒険者に、街の皆さん、あるいはギルドの隅にいつもいる、安楽椅子冒険者のハーフエルフ。 ナザルと様々なキャラクターたちが織りなす、楽しいファンタジー日常劇。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...