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第4話 崩壊の序曲
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エリアーナが帝国で温かい歓迎を受け、自らの真の力を知った、その頃。
彼女が去った故国、アステル王国では、静かに、しかし確実に崩壊への序曲が奏でられ始めていた。
あの屈辱的な夜会から数日が経った王宮では、アルフォンス王太子と、彼の新しい婚約者となったリリアが我が世の春を謳歌していた。
「まったく、あのエリアーナとかいう女、まんまと皇帝に攫われていきおったわ! 私が捨てた女を妃にするなど、ヴァルヘイム帝国も地に落ちたものだな!」
「ええ、本当に。アルフォンス様のご判断は正しかったのですわ。あんな無能な女、この国には不要ですもの」
王宮の庭園を散策しながら、二人は楽しげに笑い合う。
彼らにとって、エリアーナの存在は過去のものであり、カイザー皇帝の行動も「愚かな道化の振る舞い」程度にしか映っていなかった。
しかし、異変はすでに、彼らの足元から始まっていた。
「おかしい……。昨日まであんなに見事に咲き誇っていた薔薇が、もう萎れている……」
庭園を管理する老庭師が、首を傾げながら呟く。王宮自慢の薔薇園は、ここ数日で急速に色褪せ、まるで生気を吸い取られたかのように萎びていたのだ。
異変は、それだけではない。
王宮で働く者たちの間で、原因不明の体調不良が広まり始めていた。
「なんだか、体が鉛のように重くて……」
「最近、井戸水が少し濁っている気がしないかい?」
「夜も、よく眠れないんだ」
些細だが不気味な変化。
それらの報告は、宰相を通じてアルフォンスの耳にも届けられていた。だが、彼は気にも留めなかった。
「たるんでいるだけだろう! そんなことでいちいち報告に来るな!」
リリアもまた、「エリアーナがいなくなって、空気が淀んでいたのが清々したくらいですわ。気のせいでしょう」と笑い飛ばすだけだった。
彼らは気づいていなかった。
エリアーナが王都に滞在することで、彼女の聖気が常に王宮を満たし、そこにいる者たちを癒し、植物に活力を与えていたことに。
そして、その守護が失われた今、この国がいかに脆弱なものであるかということに。
そんなある日の午後、宰相が血相を変えて、アルフォンスの執務室に駆け込んできた。
「で、殿下! 緊急のご報告が!」
「騒々しいぞ、どうした」
「東の国境地帯より伝令です! これまで観測されたことのない、高濃度の『瘴気』が発生したと!」
『瘴気』――それは、土地を腐らせ、生命を蝕む、災厄の気。
普段であれば、騎士団や宮廷魔術師が浄化にあたる。しかし、報告された瘴気の濃度は、あまりにも異常だった。
宰相の切羽詰まった声にも、アルフォンスは眉一つ動かさなかった。
彼は、隣で優雅に紅茶を飲んでいたリリアに視線を送る。
「何を慌てている。我が国には、このリリアがいるのだぞ。彼女の強大な魔力をもってすれば、その程度の瘴気、浄化することなど容易いだろう?」
その傲慢な言葉に宰相は絶望的な思いで顔を曇らせた。
これから国を襲う本当の災厄を、この若き王太子はまだ何も理解していない。
彼女が去った故国、アステル王国では、静かに、しかし確実に崩壊への序曲が奏でられ始めていた。
あの屈辱的な夜会から数日が経った王宮では、アルフォンス王太子と、彼の新しい婚約者となったリリアが我が世の春を謳歌していた。
「まったく、あのエリアーナとかいう女、まんまと皇帝に攫われていきおったわ! 私が捨てた女を妃にするなど、ヴァルヘイム帝国も地に落ちたものだな!」
「ええ、本当に。アルフォンス様のご判断は正しかったのですわ。あんな無能な女、この国には不要ですもの」
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しかし、異変はすでに、彼らの足元から始まっていた。
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庭園を管理する老庭師が、首を傾げながら呟く。王宮自慢の薔薇園は、ここ数日で急速に色褪せ、まるで生気を吸い取られたかのように萎びていたのだ。
異変は、それだけではない。
王宮で働く者たちの間で、原因不明の体調不良が広まり始めていた。
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それらの報告は、宰相を通じてアルフォンスの耳にも届けられていた。だが、彼は気にも留めなかった。
「たるんでいるだけだろう! そんなことでいちいち報告に来るな!」
リリアもまた、「エリアーナがいなくなって、空気が淀んでいたのが清々したくらいですわ。気のせいでしょう」と笑い飛ばすだけだった。
彼らは気づいていなかった。
エリアーナが王都に滞在することで、彼女の聖気が常に王宮を満たし、そこにいる者たちを癒し、植物に活力を与えていたことに。
そして、その守護が失われた今、この国がいかに脆弱なものであるかということに。
そんなある日の午後、宰相が血相を変えて、アルフォンスの執務室に駆け込んできた。
「で、殿下! 緊急のご報告が!」
「騒々しいぞ、どうした」
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『瘴気』――それは、土地を腐らせ、生命を蝕む、災厄の気。
普段であれば、騎士団や宮廷魔術師が浄化にあたる。しかし、報告された瘴気の濃度は、あまりにも異常だった。
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彼は、隣で優雅に紅茶を飲んでいたリリアに視線を送る。
「何を慌てている。我が国には、このリリアがいるのだぞ。彼女の強大な魔力をもってすれば、その程度の瘴気、浄化することなど容易いだろう?」
その傲慢な言葉に宰相は絶望的な思いで顔を曇らせた。
これから国を襲う本当の災厄を、この若き王太子はまだ何も理解していない。
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