無能と蔑まれ婚約破棄された私、実は伝説の聖女でした

咲月ねむと

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​第7話 忍び寄る災厄

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 ​エリアーナが帝国で自らの使命と向き合おうとしていた、まさにその時。

 アステル王国は、未曾有の国難に見舞われていた。
 ​東の国境地帯で発生した高濃度の瘴気は、人々の予想を遥かに超える速さで国土を侵食。通過した土地はことごとく腐り果て、木々は枯れ、川は淀み、そこに住まう人々は原因不明の病に次々と倒れていった。
 ​そしてついに、その紫黒の災厄は、王都の目と鼻の先にまで迫っていたのだ。

​「どうなっている! なぜ浄化が進まんのだ!」

 ​王宮の玉座で、アルフォンス王太子は苛立ちを隠しもせず怒鳴り散らしていた。
 彼の前には大臣や将軍たちが青ざめた顔で並んでいる。

​「も、申し上げます! リリア様の魔力をもってしても、瘴気の勢いを止めるのがやっとで……」

「言い訳をするな! あの女は王国一の魔力を持つと言ったはずだろうが!」

 ​アルフォンスの叱責に、傍らに控えていたリリアがヒステリックに叫んだ。

「わたくしのせいではございませんわ! あの瘴気が異常なのです! わたくしの攻撃魔法は、あのような気体を浄化するのには向いていないのですもの!」

 ​そうなのだ。リリアの魔力は、その威力のほとんどが「攻撃」に特化したものだった。岩を砕き、炎を呼ぶ力はあっても、大地を癒し、穢れを祓うような「浄化」の力は、ほとんど持ち合わせていなかったのである。

​「くっ……役立たずめ!」

「なんですって!?」

 ​罵り合う王太子と新しい婚約者の姿に、臣下たちは深い絶望を覚えていた。
 この国は、終わるかもしれない。誰もがそう思い始めた時、年老いた宰相が、震える声で恐る恐る進言した。

​「で、殿下……僭越ながら、申し上げます。あるいは……先日、この国を去られたエリアーナ様の不在が、何か関係しているのでは……」

 ​その言葉に、アルフォンスはカッと目を見開いた。

「黙れ! まだそのような戯言を信じているのか! あの無能な女がいなくなって、国がおかしくなるものか! 全ては貴様ら無能な臣下のせいだ!」

 ​自らの判断ミスを認めたくないアルフォンスは、ただ怒鳴り散らすことで現実から目を背けようとしていた。
 彼にとって、エリアーナは無能でなければならなかった。彼女を追放した自分の判断が、正しくなければならなかったのだ。

 ​だが、その時。
 会議室の扉が勢いよく開かれ、一人の騎士が血相を変えて駆け込んできた。

​「も、申し上げます! 瘴気が……瘴気がついに、王都の城壁に到達いたしました!」

 ​その絶望的な報告に玉座の間にいた誰もが言葉を失う。
 アルフォンスもまた、顔を真っ青にして立ち尽くした。

 ​彼の脳裏に、あの夜会の光景が蘇る。
 全てを見透かしたような、隣国皇帝の冷たい瞳。

​『手放したものの本当の価値を、貴様は国そのもので味わうことになるだろう』

 ​予言のように突き刺さるその言葉が、今、現実となってこの国を滅ぼそうとしていた。
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