付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜

咲月ねむと

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26話 友のための決断

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闘技場に剣と剣がぶつかり合う甲高い金属音が響き渡る。

ジュリアス様は、華麗な剣技でクレインの猛攻をいなしている。だが、その表情には普段の余裕がなかった。
クレインの下品な罵詈雑言は、ジュリアス様本人よりも、その友人である俺を侮辱するものだ。その怒りが、彼の冷静さをわずかに乱しているのだろう。

「どうした、公爵様よぉ! 聖女様に媚びるしか能のねえ、貧乏貴族の盾にでもなったつもりか!」

クレインの振るう剣は重い。一撃でもまともに食らえば、ただでは済まないだろう。

ジュリアス様の額に汗が光る。
俺は観客席で、ただ唇を噛み締めていた。
俺のせいだ。俺が、中途半端な態度をとり続けたせいだ。
友が俺のために傷つくかもしれないこの状況で、俺は自分のためだけの逃亡を考えていた。 

その時、闘技場の貴賓席に一人の女性が姿を現した。リリシア様である。
彼女は、舞台の上で繰り広げられる光景を認めると、その美しい顔からすっと表情を消した。

冷たい絶対零度の眼差しがクレインへと注がれる。まずい。彼女が、何かをする。
聖なる力という名の妨害工作で、この試合に介入するつもりだ。 
そうなれば、またおかしな奇跡が起きる。

ジュリアス様は不本意な形で勝利し、俺はまた聖女様の力によって「守られる」だけの無力な存在になる。

――もう、そんなのは、ごめんだ。

俺の中で何かが、ぷつりと切れた。
俺は観客席を飛び出し、闘技場へと続く階段を駆け下りていた。 

「待ったぁ!!」

俺の喉から絞り出した声が闘技場に響き渡る。
剣を交えていたジュリ様とクレインが驚いてこちらを振り返る。観客席の全ての視線が、俺一人に突き刺さった。

俺は、まっすぐ舞台の中央へと歩みを進めた。
そして、クレインを睨みつける。

「クレイン先輩。あんたの用事は、ジュリアス様じゃない。この俺でしょう」

ざわっと観客席がどよめく。

俺は審判役の教師に向き直り、はっきりと告げた。

「この試合、俺が代わります。もし俺が勝ったら、友人への無礼を詫び、二度と俺たちに関わらないと、この場で誓っていただきたい」 

もう逃げも隠れもしない。
これが俺の覚悟だ。

クレインは、一瞬呆気にとられた後、下品な笑みを浮かべた。

「ハッ! ようやく出てきたか、主役が! 望むところだ! てめえみてえな雑魚、一分で片付けてやるよ!」

ジュリアス様が俺の隣にやってくる。

「……フン。ようやく腹を括ったか、ウォルトン」

その口元には、いつものような皮肉な笑みが浮かんでいた。だが、その目には、確かな信頼の色が宿っていた。彼は何も言わずに、俺に肩を貸し、舞台の端へと下がっていった。

エマさんが心配そうに「アランくん……!」と叫んでいるのが聞こえる。

ソフィア様が貴賓席で固唾を呑んでこちらを見つめているのも分かった。

そしてリリシア様。
彼女は、ただ驚いたように目を丸くして、俺を見ていた。その表情は、複雑だった。

俺が自らの意志で戦うことを選んだ。
それは、彼女の描いたシナリオには、一切なかった展開なのだろう。
驚き、戸惑い、ほんのわずかな誇らしさ。
そんな様々な感情が彼女の顔には渦巻いていた。 

俺はジュリアス様から練習用の剣を受け取った。体育祭の時のような、聖なるドーピングはない。今の俺は、ただの貧乏貴族の三男坊だ。

勝てる保証など、どこにもない。

だが、不思議と恐怖はなかった。

俺は、寮の部屋のベッドの下に隠した、あの鞄のことを思い出していた。

鞄は……もう、いらない。

俺は、もう逃げない。
戦場は、王都の果てにある辺境じゃない。 

俺の戦場は、ここだ!

俺は、剣を構えた。
クレインが雄叫びを上げて猛突進してくる。

俺の人生を賭けた初めての「戦い」が幕を開けたのだ。
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