32 / 46
32話 動き出した仲間たち
しおりを挟む
俺たちの『作戦コード:トゥルース・シーカー』は、その日のうちに、密やかに、しかし迅速に開始された。
仲間たちは、それぞれの得意分野で驚くべき行動力を発揮し始めた。
「お父様にお願いして、宮廷書庫の閲覧許可をいただきましたわ。まずは、過去三十年間に教会内で起きた『特筆すべき事件』の記録から洗ってみましょう」
ソフィア様はラングフォード公爵家の権力を惜しげもなく使い、国家レベルのアーカイブへとアクセスしていた。
彼女のその姿は、もはやただの公爵令嬢ではなく、優秀な歴史研究家、あるいは敏腕のスパイのようだった。
「父上の書斎から古い貴族名鑑と教会の聖職者名簿を拝借してきた。リリシアという聖女が、いつ、どこで叙任され、どの教区を渡り歩いてきたのか。その経歴を追えば何か見えてくるかもしれん」
ジュリアス様は持ち前の冷静さと分析力で地道なデータ収集にあたっていた。
彼の机の上には膨大な資料が広げられ、まるで難事件に挑む名探偵のようだ。
「聞いて聞いて、アランくん! 王都の市場で面白い噂を聞いてきたよ!」
エマさんは、その人懐っこさと行動力を武器に王都の隅々まで駆け回っていた。
「十年くらい前かなぁ、王都のすぐ隣の、小さな村で、ひどい流行り病があったんだって。たくさんの人が亡くなって、村は、ほとんど見捨てられたみたいになっちゃったんだって。その時、たった一人で村人の看病を続けた若い見習いシスターがいたらしいんだ。名前までは、誰も覚えてなかったけど……」
仲間たちが、それぞれの場所で着実に真実の欠片を集めてくれている。
その報告を聞くたびに俺の胸は熱くなった。
もう、俺は一人じゃない。
◇
その一方で俺の任務は最も困難を極めていた。
――リリシア様の心を開かせること。
彼女は、あの日以来、徹底的に俺を避けていた。
俺が彼女のクラスに顔を出せば、彼女は黙って教室から出て行ってしまう。
廊下で話しかけようとしても、まるで俺がそこにいないかのように静かに通り過ぎていく。
まるで以前の俺と立場が逆転してしまったかのようだ。あの、息が詰まるほどの執着はどこへ行ってしまったのか。
俺は彼女に避けられれば避けられるほど、皮肉にも彼女のことを考える時間が増えていった。
どうすれば、話してくれる……?
そんなある日の放課後。
俺は意を決して彼女が一人でいるであろう、教会へと向かった。
大聖堂の一番奥。ステンドグラスの光が差し込む、祈りの間で彼女は一人、静かに膝をついていた。その背中はあまりにも小さく、そして孤独に見えた。
俺は、ゆっくりと彼女の隣へと歩み寄り、同じように静かに膝をついた。
びくっ、と彼女の肩が、小さく震えたのが分かった。立ち上がって、逃げようとする気配。
俺はそれを言葉で制した。
「……別に、無理に話せとは言いません」
俺の声は静かな祈りの間に穏やかに響いた。
「ただ、俺は……知りたいだけなんです。あんたが、一人で抱え込んでいる、その痛みのことを」
リリシア様は何も言わない。
ただ、固く目を閉じているだけ。
「俺は、もうあんたから逃げない。あんたの庇護も求めない。でも……」
俺は言葉を選びながら続けた。
「あんたが、もし誰にも言えない苦しみを抱えているなら。その荷物を半分、俺に持たせてはくれませんか。……パートナーなんでしょう?」
俺が夜会の夜に彼女に言われた言葉をそのまま返した。その瞬間、彼女の閉ざされたまぶたから、一筋の涙がこぼれ落ちたのが、ステンドグラスの光に照らされて、きらりと光った。
それでも彼女は何も語らなかった。
静かに涙を流しているだけ。
俺はそれ以上何も言わなかった。言えなかった。だから彼女が泣き止むまで静かにその隣に座り続けていた。
閉ざされた扉はまだ開かない。
しかし、俺は確かに感じていた。
その厚く冷たい扉の向こう側で彼女の心がほんの少しだけ揺れ動いたのを。
仲間たちは、それぞれの得意分野で驚くべき行動力を発揮し始めた。
「お父様にお願いして、宮廷書庫の閲覧許可をいただきましたわ。まずは、過去三十年間に教会内で起きた『特筆すべき事件』の記録から洗ってみましょう」
ソフィア様はラングフォード公爵家の権力を惜しげもなく使い、国家レベルのアーカイブへとアクセスしていた。
彼女のその姿は、もはやただの公爵令嬢ではなく、優秀な歴史研究家、あるいは敏腕のスパイのようだった。
「父上の書斎から古い貴族名鑑と教会の聖職者名簿を拝借してきた。リリシアという聖女が、いつ、どこで叙任され、どの教区を渡り歩いてきたのか。その経歴を追えば何か見えてくるかもしれん」
ジュリアス様は持ち前の冷静さと分析力で地道なデータ収集にあたっていた。
彼の机の上には膨大な資料が広げられ、まるで難事件に挑む名探偵のようだ。
「聞いて聞いて、アランくん! 王都の市場で面白い噂を聞いてきたよ!」
エマさんは、その人懐っこさと行動力を武器に王都の隅々まで駆け回っていた。
「十年くらい前かなぁ、王都のすぐ隣の、小さな村で、ひどい流行り病があったんだって。たくさんの人が亡くなって、村は、ほとんど見捨てられたみたいになっちゃったんだって。その時、たった一人で村人の看病を続けた若い見習いシスターがいたらしいんだ。名前までは、誰も覚えてなかったけど……」
仲間たちが、それぞれの場所で着実に真実の欠片を集めてくれている。
その報告を聞くたびに俺の胸は熱くなった。
もう、俺は一人じゃない。
◇
その一方で俺の任務は最も困難を極めていた。
――リリシア様の心を開かせること。
彼女は、あの日以来、徹底的に俺を避けていた。
俺が彼女のクラスに顔を出せば、彼女は黙って教室から出て行ってしまう。
廊下で話しかけようとしても、まるで俺がそこにいないかのように静かに通り過ぎていく。
まるで以前の俺と立場が逆転してしまったかのようだ。あの、息が詰まるほどの執着はどこへ行ってしまったのか。
俺は彼女に避けられれば避けられるほど、皮肉にも彼女のことを考える時間が増えていった。
どうすれば、話してくれる……?
そんなある日の放課後。
俺は意を決して彼女が一人でいるであろう、教会へと向かった。
大聖堂の一番奥。ステンドグラスの光が差し込む、祈りの間で彼女は一人、静かに膝をついていた。その背中はあまりにも小さく、そして孤独に見えた。
俺は、ゆっくりと彼女の隣へと歩み寄り、同じように静かに膝をついた。
びくっ、と彼女の肩が、小さく震えたのが分かった。立ち上がって、逃げようとする気配。
俺はそれを言葉で制した。
「……別に、無理に話せとは言いません」
俺の声は静かな祈りの間に穏やかに響いた。
「ただ、俺は……知りたいだけなんです。あんたが、一人で抱え込んでいる、その痛みのことを」
リリシア様は何も言わない。
ただ、固く目を閉じているだけ。
「俺は、もうあんたから逃げない。あんたの庇護も求めない。でも……」
俺は言葉を選びながら続けた。
「あんたが、もし誰にも言えない苦しみを抱えているなら。その荷物を半分、俺に持たせてはくれませんか。……パートナーなんでしょう?」
俺が夜会の夜に彼女に言われた言葉をそのまま返した。その瞬間、彼女の閉ざされたまぶたから、一筋の涙がこぼれ落ちたのが、ステンドグラスの光に照らされて、きらりと光った。
それでも彼女は何も語らなかった。
静かに涙を流しているだけ。
俺はそれ以上何も言わなかった。言えなかった。だから彼女が泣き止むまで静かにその隣に座り続けていた。
閉ざされた扉はまだ開かない。
しかし、俺は確かに感じていた。
その厚く冷たい扉の向こう側で彼女の心がほんの少しだけ揺れ動いたのを。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら
リヒト
ファンタジー
現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。
そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。
その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。
お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。
ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。
お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない
仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。
トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。
しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。
先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。
男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺
マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。
その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。
彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。
そして....彼の身体は大丈夫なのか!?
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
リメイク先:「視線が合っただけで美少女が俺に溺れる。異世界で最強のハーレムを作って楽に暮らす」
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる