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32話 動き出した仲間たち
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俺たちの『作戦コード:トゥルース・シーカー』は、その日のうちに、密やかに、しかし迅速に開始された。
仲間たちは、それぞれの得意分野で驚くべき行動力を発揮し始めた。
「お父様にお願いして、宮廷書庫の閲覧許可をいただきましたわ。まずは、過去三十年間に教会内で起きた『特筆すべき事件』の記録から洗ってみましょう」
ソフィア様はラングフォード公爵家の権力を惜しげもなく使い、国家レベルのアーカイブへとアクセスしていた。
彼女のその姿は、もはやただの公爵令嬢ではなく、優秀な歴史研究家、あるいは敏腕のスパイのようだった。
「父上の書斎から古い貴族名鑑と教会の聖職者名簿を拝借してきた。リリシアという聖女が、いつ、どこで叙任され、どの教区を渡り歩いてきたのか。その経歴を追えば何か見えてくるかもしれん」
ジュリアス様は持ち前の冷静さと分析力で地道なデータ収集にあたっていた。
彼の机の上には膨大な資料が広げられ、まるで難事件に挑む名探偵のようだ。
「聞いて聞いて、アランくん! 王都の市場で面白い噂を聞いてきたよ!」
エマさんは、その人懐っこさと行動力を武器に王都の隅々まで駆け回っていた。
「十年くらい前かなぁ、王都のすぐ隣の、小さな村で、ひどい流行り病があったんだって。たくさんの人が亡くなって、村は、ほとんど見捨てられたみたいになっちゃったんだって。その時、たった一人で村人の看病を続けた若い見習いシスターがいたらしいんだ。名前までは、誰も覚えてなかったけど……」
仲間たちが、それぞれの場所で着実に真実の欠片を集めてくれている。
その報告を聞くたびに俺の胸は熱くなった。
もう、俺は一人じゃない。
◇
その一方で俺の任務は最も困難を極めていた。
――リリシア様の心を開かせること。
彼女は、あの日以来、徹底的に俺を避けていた。
俺が彼女のクラスに顔を出せば、彼女は黙って教室から出て行ってしまう。
廊下で話しかけようとしても、まるで俺がそこにいないかのように静かに通り過ぎていく。
まるで以前の俺と立場が逆転してしまったかのようだ。あの、息が詰まるほどの執着はどこへ行ってしまったのか。
俺は彼女に避けられれば避けられるほど、皮肉にも彼女のことを考える時間が増えていった。
どうすれば、話してくれる……?
そんなある日の放課後。
俺は意を決して彼女が一人でいるであろう、教会へと向かった。
大聖堂の一番奥。ステンドグラスの光が差し込む、祈りの間で彼女は一人、静かに膝をついていた。その背中はあまりにも小さく、そして孤独に見えた。
俺は、ゆっくりと彼女の隣へと歩み寄り、同じように静かに膝をついた。
びくっ、と彼女の肩が、小さく震えたのが分かった。立ち上がって、逃げようとする気配。
俺はそれを言葉で制した。
「……別に、無理に話せとは言いません」
俺の声は静かな祈りの間に穏やかに響いた。
「ただ、俺は……知りたいだけなんです。あんたが、一人で抱え込んでいる、その痛みのことを」
リリシア様は何も言わない。
ただ、固く目を閉じているだけ。
「俺は、もうあんたから逃げない。あんたの庇護も求めない。でも……」
俺は言葉を選びながら続けた。
「あんたが、もし誰にも言えない苦しみを抱えているなら。その荷物を半分、俺に持たせてはくれませんか。……パートナーなんでしょう?」
俺が夜会の夜に彼女に言われた言葉をそのまま返した。その瞬間、彼女の閉ざされたまぶたから、一筋の涙がこぼれ落ちたのが、ステンドグラスの光に照らされて、きらりと光った。
それでも彼女は何も語らなかった。
静かに涙を流しているだけ。
俺はそれ以上何も言わなかった。言えなかった。だから彼女が泣き止むまで静かにその隣に座り続けていた。
閉ざされた扉はまだ開かない。
しかし、俺は確かに感じていた。
その厚く冷たい扉の向こう側で彼女の心がほんの少しだけ揺れ動いたのを。
仲間たちは、それぞれの得意分野で驚くべき行動力を発揮し始めた。
「お父様にお願いして、宮廷書庫の閲覧許可をいただきましたわ。まずは、過去三十年間に教会内で起きた『特筆すべき事件』の記録から洗ってみましょう」
ソフィア様はラングフォード公爵家の権力を惜しげもなく使い、国家レベルのアーカイブへとアクセスしていた。
彼女のその姿は、もはやただの公爵令嬢ではなく、優秀な歴史研究家、あるいは敏腕のスパイのようだった。
「父上の書斎から古い貴族名鑑と教会の聖職者名簿を拝借してきた。リリシアという聖女が、いつ、どこで叙任され、どの教区を渡り歩いてきたのか。その経歴を追えば何か見えてくるかもしれん」
ジュリアス様は持ち前の冷静さと分析力で地道なデータ収集にあたっていた。
彼の机の上には膨大な資料が広げられ、まるで難事件に挑む名探偵のようだ。
「聞いて聞いて、アランくん! 王都の市場で面白い噂を聞いてきたよ!」
エマさんは、その人懐っこさと行動力を武器に王都の隅々まで駆け回っていた。
「十年くらい前かなぁ、王都のすぐ隣の、小さな村で、ひどい流行り病があったんだって。たくさんの人が亡くなって、村は、ほとんど見捨てられたみたいになっちゃったんだって。その時、たった一人で村人の看病を続けた若い見習いシスターがいたらしいんだ。名前までは、誰も覚えてなかったけど……」
仲間たちが、それぞれの場所で着実に真実の欠片を集めてくれている。
その報告を聞くたびに俺の胸は熱くなった。
もう、俺は一人じゃない。
◇
その一方で俺の任務は最も困難を極めていた。
――リリシア様の心を開かせること。
彼女は、あの日以来、徹底的に俺を避けていた。
俺が彼女のクラスに顔を出せば、彼女は黙って教室から出て行ってしまう。
廊下で話しかけようとしても、まるで俺がそこにいないかのように静かに通り過ぎていく。
まるで以前の俺と立場が逆転してしまったかのようだ。あの、息が詰まるほどの執着はどこへ行ってしまったのか。
俺は彼女に避けられれば避けられるほど、皮肉にも彼女のことを考える時間が増えていった。
どうすれば、話してくれる……?
そんなある日の放課後。
俺は意を決して彼女が一人でいるであろう、教会へと向かった。
大聖堂の一番奥。ステンドグラスの光が差し込む、祈りの間で彼女は一人、静かに膝をついていた。その背中はあまりにも小さく、そして孤独に見えた。
俺は、ゆっくりと彼女の隣へと歩み寄り、同じように静かに膝をついた。
びくっ、と彼女の肩が、小さく震えたのが分かった。立ち上がって、逃げようとする気配。
俺はそれを言葉で制した。
「……別に、無理に話せとは言いません」
俺の声は静かな祈りの間に穏やかに響いた。
「ただ、俺は……知りたいだけなんです。あんたが、一人で抱え込んでいる、その痛みのことを」
リリシア様は何も言わない。
ただ、固く目を閉じているだけ。
「俺は、もうあんたから逃げない。あんたの庇護も求めない。でも……」
俺は言葉を選びながら続けた。
「あんたが、もし誰にも言えない苦しみを抱えているなら。その荷物を半分、俺に持たせてはくれませんか。……パートナーなんでしょう?」
俺が夜会の夜に彼女に言われた言葉をそのまま返した。その瞬間、彼女の閉ざされたまぶたから、一筋の涙がこぼれ落ちたのが、ステンドグラスの光に照らされて、きらりと光った。
それでも彼女は何も語らなかった。
静かに涙を流しているだけ。
俺はそれ以上何も言わなかった。言えなかった。だから彼女が泣き止むまで静かにその隣に座り続けていた。
閉ざされた扉はまだ開かない。
しかし、俺は確かに感じていた。
その厚く冷たい扉の向こう側で彼女の心がほんの少しだけ揺れ動いたのを。
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